第2話 超常現象な男

加賀は年齢が四十手前くらいの、一見日本人によくいそうな典型的なサラリーマン風の風貌をしている。


だが強度の超常現象マニアで、いい歳こいて霊魂や異星人の存在を信じていた。

語り出す内容は大体その方面であり、放っておくと霊魂の物理学的組成やら異星人の乗る円盤の動力についての仮説を延々聞かされる羽目になる。

また超古代文明についても造詣が深い加賀によると、人類は古代核戦争で一回滅亡寸前になったことがあるそうだ。


そんな話をレッスン時間いっぱい大真面目な顔で語りやがるのである。


その異次元の話題を封じようと、陳は先手を打って技術系の自分も大いに興味を持っている5Gやドローンなどの現実世界のテクニカルな話を振ってみたこともあった。


しかし加賀はそれより数百年先を見ているらしく、その話題がいつの間にか太陽系外の恒星系まで地球上と変わらないスピードで通信できる超光速通信やワープ航法についての講義に発展し、とんだ藪蛇であった。


最初に加賀のレッスンを担当した時、流暢な中国語だが一方的に訳のわからない話をする加賀がどこまで電波を飛ばすのか興味があったので、そのまま語らせた結果がこれだ。

軽くあしらったり聞き流したりの小技が使えない陳も不用意な質問をうかつにしてしまったりして、話はますますカオスなものになる。


日本人はとにかく真面目で堅物という陳の固定観念は、加賀によって完全に覆された。


また、結婚しているのかと聞いたことがあったが、案の定未婚で彼女もいないために時々風俗店に行っているなどと、そういうところだけはやけに生々しい。


このサンチャットの老板ラオバン(経営者)であり、講師のシフトも管理している上海人の沈淼シェンミアオは陳が加賀とウマが合っていると誤解しているらしく、このところサンチャットの講師誰もが嫌がる加賀の担当を続ける羽目になっていた。


ゾン(社長)の目は節穴か?

毎回あんなのの相手をさせられるのは俺だって嫌なんだ。


自分がレッスンを担当する、簡単にボードで仕切られただけのスペースの中で嘆いていたところ、外から他の中国語講師が「你好!」と挨拶する声が聞こえた。

誰か受講生が来たらしい。


「哟!黄老师,好久不见!最近工作怎么样?(お!黄先生、お久しぶりです!最近仕事どうです)」

「还算行吧,那加賀先生您呢?最近忙什么呢?(まあまあですかな、で、加賀さんは?最近どうしてます?)」


加賀が来たようだ。

外にいる別の講師の黄栄生ホワンロンションと世間話を始めている。


「你好!」


外で黄とひととおり話をした加賀がレッスンスペースに入ってきて、陳の対面に座る。

今日はどんなわけわからんこと聞かされるのやら。


陳にとって長いレッスン時間が始まろうとしていた。




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