コアラキムチ
44年の童貞地獄
コアラキムチ
第1話 中国語会話教室
「それでは、“できない”の意味の“
「えーと、えーと、ウォーブケーイー…うーん」
「発音は
「プクーイー」
「不可以」
「bukeyiかな」
「そデス」
東京都世田谷区三軒茶屋にある英語・中国語会話教室『サンチャット』で、中国語会話講師を務めている
「うーん、我不可以…、说英语!」
「このトキは“不可以”使わないデス。“我不会说英语”というように、“
「いやーやっぱ難しいなー、中国語って」
高木はサンチャットの中国語会話講座に通い始めてはや一年だが、文法どころか中国語にとって重要な発音や声調もあまり習得できてはおらず、上達は遅々たるものだった。
高木以外の中国語会話コース受講生も似たり寄ったりの者が多く、ほとんどのレッスンは陳をはじめとした中国語ネイティブの講師が一方的に日本語を使って行っている。
陳は中国の四川省
サンチャットで毎週土曜日に中国語講師をやっているのは、副収入が欲しいのもあるが、将来的に日本で起業するために日本語力をより向上させるためであった。
そんな向上心にあふれた陳から見ると、ここに来る日本人の多くは気合が全く入っていないと思わざるを得ない。
真是的,既然不是免费的,那本来应该多加力气学习才行吧。
(まったく、タダじゃないんだから、もっと気合い入れて勉強すべきだろ)
学生時代は言うに及ばず、現在でも自宅で日本語学習を怠らない陳に言わせると、真面目に勉強していれば高木の体たらくはありえない。
かと思えば同じサンチャットの英語会話クラスには英語がペラペラの日本人が少なからずいたりして、それを見ると未だに日本人は中国を軽く見てるのではないかと、少し腹が立つ。
中国語講師をやっているのは自分のためだと割り切ろうとも考えてみるが、自分の国の言葉をなかなか覚えてくれないのはあまり愉快なことではない。
中国人には珍しいA型の血液型のせいか日本人顔負けの几帳面さを有する反面、真面目すぎて融通が利かないところがある陳は、顔には出さないがいつもそう考えていた。
但总会是有例外的。(だが例外というのはいるもんだ)
今日の陳のシフトでは高木のレッスンが終わった後、その例外相手のレッスンが組まれていた。
その例外、加賀教文はサンチャットにやってくる日本人の中ではずば抜けた中国語力を有しており、加賀のレッスンの時だけはほとんど中国語で通すことができる。
こちらの言ってることを完全に理解し、自分の言いたいことを十分に話せる加賀は文法などの通常のカリキュラムのレッスンを必要としておらず、彼のレッスンだけは純粋な中国語だけでの会話になる。
会話の話題は加賀が語り出す事柄であるため、レッスンのための事前準備はあまり必要がなく、彼の話す中国語を聞いて陳の母国語である中国語で答えればよい。
だが、だからこそ陳は憂鬱だった。
その理由は加賀の話す内容が奇抜かつマニアックで、正常な話題の会話ができない奴だったからだ。
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