第二話 私の能力を使いましょう! 前編

(私、井川 玲改めミレイナ・フォーエレン、0歳はこうしてすくすく育ってます!なんと過去の記憶を残してくれました!)

でも、今は幼気な子供です。

声を出そうと思えば「あ~う~」だけ。

示すにも態度で示さないといけない。


“深遠なる幻想”というゲームの世界で産まれて初めて見た両親の顔はとても優しそうな人達でした。

ミレイナ・フォーエレンという人物は髪色は薄紫、瞳は宝石のシトリンのような黄色。

まさにヒロインのそのものである。

そして今はヒロインの幼少期。

(皇子が子供の頃に何かあったと考えるべきなんだろうけど…この姿じゃ会いにいけないし…)と思ってると不意にノックの音がした。

(そうだった…今の私はベビーベッドの上だった…!)

ミレイナはまだ0歳5ヶ月、一応ハイハイやふらふらだけど立つことは出来る。

その瞬間を見たメイドや両親はまるで祭りのように大層に喜んでくれた。

一瞬、記念日を作らないかという親バカを発動させそうだった。しかし彼女の大泣きしたおかげでそれを阻止することは出来た。



「うあー」

現在に至って普通の日常に戻って、今は…。

「ミレイナお嬢様ー。お加減はいかがですか?」って言いながら現れたのはタレ目の黒髪のおかっぱメイドがドアを開けて中に入ってきた。

その時、ミレイナの目にフォンフォンフォンという素早く何かが現れる音がした。


〈コレディ 平民 15歳 女性〉

〈メイド 犯歴なし 〉

〈今日もうちのお嬢様可愛いですね!!〉


これは、彼女の視界に映っているにはあの時選び取った結果の産物である。

左から名前、身分、年齢、性別、職業、犯歴、そして最後に彼女の現在の心の声を表していた。

これらの結果により彼女は信頼に値する人間であることが分かるが、未来予知ではないため細心の注意だけは図る心構えである。

「さぁ、旦那様がお嬢様にあいたがってますわ!」

“旦那様”それはこの家の主とも言える人物でありミレイナの実の父親でもある。

彼はとても多忙な人物のようで、あまり向こうから会ってくれることはあまりない。

だからたまにこうして、メイドや執事を通じて会って貰ってる。

“奥様”も多忙な人物だけど彼女はちゃんと自分の足で会いに来てくれる。

さらに、家族にはミレイナの兄とも呼べる人物もいるようだが彼は学生なのか、それとも仕事をしてるのか、はたまた両親か彼女を嫌っているかのどちらかだ。

しかし、後者はあり得ない。両親は噂によると忙しい仕事の合間にもちゃんと愛情を注いでくれる常識人のようだと。

だから、ミレイナ自身でも信頼ある人物とも言えた。



なぜ、ここまで他人行儀の言葉並べないといけないのか、そんなのは簡単。

自分という個人があるのとこの世界が別という捉え方をしてないから。

(安心とも言えないから、しばらくはこんな考え方が引っ張ってくるなぁ)ってそんなことを考えていたらメイドに抱き抱えられた。

それで、メイドに連れられて部屋から出たら豪勢な廊下が広がっていた。

(最初見たとき驚いて興奮したっけ)

「あう~」

こうも見慣れてしまうと両親の仕事が気になってしまう。

赤ん坊だから詳しく聞くことも出来ない。

行けども行けども変わらない家の中、一人歩くだけでも“良い運動になるのでは?”と思うほど長い廊下だった。

それから階段上って少し奥の方に進んだところで自分の部屋の扉と違って、割りとシンプルめな両扉だがツヤ感があってより厳かな感じがしていた。

「うぉあ~」

「お嬢様をここまで連れてくるのは初めてでしたね。ここは旦那様の執務室になります」

それを聞いて思わず「えっ」って声を漏らした。

(いやいや、お仕事最中の人の邪魔なんて私、したくないんだけど!!)と全力の否定を心と態度で示すけれど、メイドには効かずそのままドアをノックしてしまった。

「い~」

「誰だい?」と聞かれて、彼女が自分とメイドが来たことを知らせると、途端ドタドタという物々しい音がした。

そして、少し経った後ドアノブが動いた。

奥の方へドアが動くとそこにいたのは髪の毛が少し乱れているお父様が出てきた。

(どうやら、仕事に集中してると机の上をゴチャゴチャにしてしまう傾向にあるのね)

「おやおや、今日はどうしたのかな?ミレイナ」

「あうあ~?」

(いきなり連れてこられたんだから、理由は知らないよ)

「今からお嬢様のミルクタイムなんです。」

そう言うと父親はドアを勢いよく大きく開けて、ニパッと喜びの笑みを浮かべてメイドの腕から彼の腕に抱かれて高々と上げられた。

「そうか、もうお昼か」

(なるほど、こう言うときでも愛情を注がせて貰えるのね)

すると、また勝手に“鑑定”を使って父親の情報を視ていた。


〈フォルネル・フォーエレン 伯爵 男性〉

〈35歳 領主・元護衛騎士 犯罪歴なし〉

〈こんな光栄なことがあるのか!!〉


三十路を過ぎてるのに彼の容姿は劣ろい見せていなかった。

髪色は彼女の遺伝の元なので紫色で短髪なのだが後ろの足らしてるところは少々伸びていた。

瞳の色は娘の色と違って少し淡い緋色っぽい物だった。

そして、白いワイシャツにアメジストっぽい色の石を嵌めたカフスをつけていた。

さらに息苦しかったのか一番目と二番目のボタンは外していた。

「それではミルクをお持ちしますのでしばらく遊んでてください」

そう言ってメイドは一度お辞儀をしてからスタスタと厨房の方へ向かっていった。


それから、二人きりになって少し気まずさを覚えつつあったけど初めて入った父親の書斎に少しワクワクしていた。

(神様の恩恵・言語理解のおかげで見れるとは言え)

周りを見渡して本棚を見つけ、そこに置いてある本を見ると背表紙に難しそうな名前がたくさんあった。

基礎を学んでない状態だと本を完璧に理解することは出来なかった。

ふと、本棚の中に“魔法”という単語が書かれた本があった。

(さしずめ魔導書ってところでしょう)

ここにあるってことは少なからず魔法が使える人間が身近にいるって言う意味にもなるのだろう。

(うちにお抱えの魔法使いいるのかな?)

初めて見る場所にて、いろいろ疑問が尽きなかった。

しかし、一番に占めているのは両親の仕事である。

「ミレイナ~。ミルクが来るまで一緒に遊ぼうか?」と優しそうな声をかけながらお客さんが座りそうなソファに座り込んだ。

その時に彼が座っていたであろう真ん中の事務卓に仕事に使う資料の山が置いてあってそれを見て「あ~う~」と意味ありげな声を上げながら小さな指で指し示した。

「ん?僕の仕事が気になるのかい?」

「うぃ!」と返事した。

そうして、彼女を抱き抱えながら彼の仕事の事務卓に近づくとそこに書かれている書類に“言語理解”が発動し“嘆願書”や“○○地域について”などが書いてあったけど詳しいところまでは赤ん坊の目では文字が小さすぎて見えなかった。

ただ、その言葉の以外に別のウィンドウが開いた。


〈注意 詐欺の可能性〉


それが示していたのは“嘆願書”の方だった。

(何?詳しく知りたい!)と念じてもそれ以降の言葉が出てこなかった。

(ここからは私の感が必要なのね…)と心の中で苦虫を噛み締めるような思いを抱えていても自分がほしかった能力だけで考えたかった自分がいる。

でも、今回は父親の問題だ。

これからに問題があると思うと気が気じゃなかった。


(違う…)


不意に現れた“違う”という言葉。

それは今の自分に対する違和感なのかそれとも、変えては行けない何かが働いてるのか、そんな気がしていられなかった。

それで、すぐさま前世のことを思いだし、この世界のことを思い返した。

(そうだった…。今は伯爵だけどゲームの内容では“ミレイナ”は貧乏子爵と地域の貴族から馬鹿にされていた…ってことはこれは!?)

この違和感の関係はずばり、“きっかけ”となった事件だ。

「何?どうしたんだ?そんな怖い顔をして」

どうやら、数分だけ沈黙しただけで父親に心配されてしまった。

(今は始まりにもなってないから、今なら馬鹿になれないはず)

そう思って机の上に降りたいとじたばたしても彼の体のバランスが良いのかびくともしないけど、さらに心配をかけてしまった。

「何々、どうした?」

(どうやって伝えるべきか…)

すると、どういうわけか父親が何かを感じ取ったのか“嘆願書”の書類を見やすいように手に取った。

「これね、孤児院の金銭や食材などの嘆願書なんだ。毎年必要な分渡してるはずなんだけどね。足りなくないはずないのにこうやって嘆願書を送ってくるんだ。貴族はノブレス・オブリージュというルールがある。それで孤児院の支えになろうとやってるんだ」



長い説明のおかげでやるべきことが判明した。

それでミレイナは赤ちゃん言葉を利用して何とか伝えようとした。

おーおこーこいーあーいいきたい

「お?行きたいのか?そうだよなぁ、友達作らないといけないよなぁ」

(0歳時に友達なんて難しくない?)と突っ込みを入れたいほど心の中で呟いたけど、これはチャンスだとも考えた。

それからほどなくしてメイドが哺乳瓶と赤ん坊でも食べやすい離乳食、そして紅茶が入ってるであろう豪華なティーポットとカップを持ってきた。

それで、さっきの席に戻って支度が終わるのを待った。

「はい、ミレイナお嬢様はこっちでミルクを飲みましょうね」と言って、哺乳瓶を持ってミレイナを抱えようと手を差し伸べた時に、横から父親が遮った。

「いや、今回は僕がミレイナにミルクをあげよう」と言いながら、メイドの手から哺乳瓶と彼女を奪った。それも優しい手付きで。


突如柔らかい手から少しゴツい男性の手に抱かれて、そして間近に見えた自分の父親に思わず頬が赤くなってしまった。

「いーー!」

この声に否定の意味として捉えたのか彼は少し悲しそうな表情浮かべた。

「え?僕、嫌なのかい?」

「違いますよ。これは照れてるんです。旦那様の顔がかっこいいから顔を真っ赤にしたんです!」と意気揚々と解説したせいでミレイナはもっと恥ずかしく感じて真っ赤になった。

「お、ミレイナ~リンゴみたいに真っ赤だぞ~」と茶化してくる父親。

それで、彼女は拗ねてそっぽを向いてしまった。

「ごめんごめん。お父さんが悪かった。機嫌直してくれないか?」

その言葉から真意に謝ってるけれど、何処かまだ茶化してるような気がしたが彼女は仕方なく許すことにし、彼の持っている哺乳瓶を催促した。

その様子を見て父親は優しくそれを傾けながらミルクをあげた。



そんな一悶着があって、あまりの感情が激しく動いたせいで、睡魔が押し寄せてきた。

(うう、赤ちゃんだから…あ…抗えない)

「おや、もう眠いのかな?」と言ったら、メイドが抱えようとしたけど彼が空いた手で制した。

「ちょっと運動がてら部屋まで連れていく。それまでに片付けを頼む」

そう言い渡してから彼はミレイナを抱きながら書斎から出ていった。


それからしばらく歩いてると、廊下の突き当たりで誰かとばったり出会ってしまった。

「お父様、今休憩ですか?」

その声はとても幼っぽいけど少年のような声だった。

「今日の授業どうだった?」

「先生に褒められました!“しっかり勉強している”と!」

その少年は満面な笑みを浮かべて報告するけれど不意に「しーっ」と言いながら開いている手で人差し指を自分の口許に当てた。

それを見てハッとしてから彼の抱えているミレイナを見た。

「もしかして、この子が僕の妹ですか?」

「そうだよ。仲良くしてくれ」と言ったら少年は意気込みを見せるべく背筋をピンと伸ばした。

「了解です!!」と小声でそう言った。

そして、自分の妹を見たくて背伸びして父親の腕に抱かれてる彼女を見たら、すやすやと眠っていた。

「とても…可愛いです…」と言いながらうっとりとした表情をするけれど次の授業を思い出して少し離れて一度頭を下げた。

「それでは次の授業に戻ります!」と言ってからスタスタと走っていった。

「こうもタイミングが合わないとは…」


出産の日はもちろんのこと彼女の兄に当たる少年がいる。

誕生の日はすやすやと眠っていて、さらに少年には後継者として分刻みなスケジュールが組み込まれていた。

そのせいで彼は今日まで妹の顔をまともに見れていなかったのだ。

反対にも同じな上でだ。

「でも、今夜はちゃんと対面させてやるからな。ミレイナ」




続く

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