第1話
時は流れ2001年、春。
俺たちは晴れて中学2年生になった。この春から俺たちは私立みなと中学校に通う事が決まったんだ。
「炎、その制服で行くの?わたしちゃんと新しい制服なのに!」
「良いだろ。前の制服好きだから俺はこっち!」
桃は新品の制服を嬉しそうに着て見せてくる。制服は自由でもいい学校だったので、炎は以前の制服を着て登校してきた。
職員室の扉を開け大きな声で「初めまして!金子炎と金子桃、ただいま到着しましたっ!今日からお世話になりますっ!」と、元気よく挨拶をするもんだから先生全員びっくりしたが同じく元気よく「よろしくね。」とあちこちから声がかかり気さくな先生が多いとすぐわかった。
「チッ。うるさいわよ、静かにしなさい。」
「あっ…。ごめんなさい…。」
「もー。炎ったら…。」
前髪が長く顔が見えなかったが先生なのだろうか?ブツブツ下を向きながらまだ注意してる。
「あの、今の人は…。」
「あぁ…。気にしないで。彼女は音楽担当で4組担任の小澤先生。口が悪いけど美声なんだよ、合唱部の顧問もしているくらいだしね。初めまして、炎くんは俺のクラスだよ。岡晃です。国語担当で女子バレー部顧問してるぜ!」
ニコッと笑った顔がハンサムで男前な印象だ。
さすがバレー部顧問!健康的な筋肉だ。
「わたしは何組ですか?炎とは違うクラスなのかな…。」
桃が不安な声で岡先生に質問する。
そりゃ同じクラスがいいけどそこまでは難しいよね、と思いつつ少し期待してしまう。
「桃君は中嶋くんの…。」
聞き覚えがある。確か黄牙の家に来たドジっ子先生!
「あぁっ、私ですぅ。中嶋です。桃ちゃんは3組で私が担任ですぅ。部活は新聞部と生徒会掛け持ちしてるので興味あったら是非声かけてねぇ。あ、炎くん。あの時はお騒がせしましたぁ。これからよろしくですぅ。」
ヘラヘラと笑いながら挨拶するもんだから本当に先生だったんだと実感する。
「授業が始まる前に少し学校案内しよう。二人とも着いてきてくれ。中嶋くんは戻っていいぞ。」
中嶋先生はヘラヘラ笑いながら何回もお辞儀した。
さすが私立!どころではなく、校内は驚くほど広い。
学食があるのは聞いていたが、通常のクラスに加え専門的な教室、生徒が自由に出入りできる部屋がとにかく多い。全学年隔て無く自由な学校だ。別棟もあるのだが今現在は通常クラスでは使われておらず5組の特別学級のみが使用しているらしい。別棟は木造で古い校舎のため、近々取り壊して新しい校舎にしてスクールを始めるとか。私立って凄い。
偏差値が低くて転入試験通るかわからなかったけど桃と勉強会を毎日やったおかげかようやく入れた夢の私立!
本当に勉強頑張った…。
「ひろーーーーーっっ!2学年は何組まであるんです?」
校内案内図を見ながら岡が説明を始めた。
「全6組まであるよ。うちの学校はちょっと特殊でね。5組、高橋先生のクラスだけは特別級になっていて偏差値が高くないと入れない組なんだ。」
ゲッと思わず声に出る。どんな奴らがいるんだよ。
「定時制も取り入れていて自宅で勉強してネットで宿題や課題を提出するシステムなんだ。…君たちが探してる子、このクラスにいるよ。」
桃と静かに目を合わせる。鼓動が高鳴る。
やっと見つけた!
「ただ…。最近、このクラスは物騒でね。去年あたりから高橋先生の性格も少し変わって生徒に暴力を振るうことが増えてきたんだ。注意しても聞いてもらえずで。黄牙くんは高橋先生が囲っていて近づける状況じゃなくて…。申し訳ない。接触するなら気をつけてくれ。」
不穏な言葉を聞いて心配な気持ちが募る。
「えっ…。だ、大丈夫なんですか…?」
「うーん…。黄牙くん本人は特に普通で何ともないと思うけど。あぁ、3組に新聞部部長が5組を執拗に調べてるみたいだから彼女に聞くといいよ。俺より内部事情詳しいと思う。」
…不穏すぎる。
***
2年1組。
「おーい!転校生だぞ、席につけーい!」
担任の岡が授業開始のチャイムが鳴り終わったと同時に教室に入ってきた。
そう、彼は突然やってきた。
「初めまして!金子炎です!サッカーが得意で、自分で言うのも何ですが上手い方だと思います!この学校でカノジョ作るぞー!よろしくお願いします!」
最近この地区に引っ越してきたとかではなく、電車通学で通ってきているらしい。
2学年から私立に転校、珍しい。ボーッと他人事のように転校生を眺める。目が合ってニッコリと笑顔で返されたが正直面倒臭い。
「おーい!海。隣空いてるよな?炎、あの美形の隣な。」
…うざっ!いちいち名前言わないで下さいよ。鬱陶しい。
岡は海の横に空いている席を指差し転校生に指示する。彼は席に着くと笑顔でこちらを見て元気よく言う。
「かい…くん?いや、面倒臭いや!海でいいよな!よろしくっ!」
思わず女性が好きそうな甘い顔だな、なんて思ってしまって挨拶が遅れてしまう。
「あ…はい、こちらこそよろしくお願いします。同じ金子苗字ですし。炎…さんって呼びますね。」
最後ににっこり笑って見せた。
我ながら完璧でしょう。これなら悪い印象は持たれないはず。
炎さんはずっとニコニコ笑ってこちらを見ていた。
「無理して笑顔作らなくていいよ。これから1年長い付き合いなんだから仲良く行こうぜ!」
またにっこりした顔を見せてピースサインを作って見せた。
…ウザい。なるべく他人と仲良くしたくないので社交辞令で「そうですね。」とだけ言うとすぐ教科書に視線を落とす。
ため息を聞かれないよう小さく吐き、窓の外に目をやる。
炎さんは私との会話が強制的に終わると周りの生徒と話し始め既に仲良さそうだ。
顔ではにっこり笑い、無難な返答を返してきた人生。
私は金子海。頭脳明晰、生まれつき顔も良くスタイルもいいです。(自画自賛)
本当に頭は良い秀才ですよ。誰よりも勉強して学年1位を獲る瞬間。たまりません。…と言うか、皆さんより寝る間を惜しんで勉強してるだけですが。怠けて遊んでいる時間があるなら勉強です。
しかし、勉強以外苦手で運動と日差しが苦手です。運動の授業は仮病で毎回見学ですね。外に出る時は長袖に日差しがきつい夏は日傘登校ですが何か?
ああ、苦手なものまだありました。女性です。集団生活なので当たり障り無く接していますが本当は喋るのも触るのも苦手です。
私は友達も作らず、先生たちの事もあまり知らない、担任でさえも必要以上の事は喋らない。
金子炎さん…もう友達作ったのですか?教科書を見せてもらって笑いあっている。
…もう私に話しかけないでくれるといいな。
と、嫌味をボーッと考えながら授業に集中する。
何も考えないようにしよう。私には関係のない人なのだから。
***
翌朝、いつものように誰よりも早く学校に着き、学年主任の金子昇に挨拶する。
「おはようございます。」
「おはよう、海!毎朝早いな!と、言いたいんだけど今日は残念だったな。炎が一番のりだ。」
…は?
「炎、偉いんだよ。お前に似て努力してこの学校に馴染もうとしてるみたいで俺たち先生の名前全員覚えてまずは1組全員と仲良くなるんだ、って意気込んでたぞ。あいつならいい親友になれるんじゃ…あ、喋りすぎたな。悪い悪い。」
罰が悪そうに昂は自分の頭を掻いた。
無言で会釈をして教室に向かう。…私と同じように努力している人だった?
1組の扉をそっと開ける。そこには転校生の炎が居た。炎さんが熱心に見ているのは岡先生の出席名簿?
机を触りながら名前をフルネームで言いながら顔写真を眺めている。…仕方ない、図書室で勉強しようかと思ったのですが「…私も手伝いましょうか。」と、思わず声をかけてしまった。
しまった、と目が合った時には遅かったようで炎さんが嬉しそうに近づいてきた。
「あっ!海!助かる。早くみんなの名前と顔一致させたくて!」
炎さんは頭を掻きながら笑って見せる。無邪気に笑うんですね。
「わざわざ遠いこの学校にどうしてきたんです?」
思わず続きで自ら他人に質問してしまった。炎さんは丸い目を更に丸くさせて笑って見せる。
「…謝りたい奴がこの学校に居るって聞いてさ。追ってきた、で答えになる?」
炎さんは名簿を見ながら話し始める。
「俺、そいつに酷い事してさ。そのまま前の中学校で別れちゃって。どこに行ったかずっと探してたんだ。で、この学校に居るって突き止めて!編入試験めちゃくちゃ難しかったけど乗り切ったぜ!」
「…。」
「自分勝手だと思ってる。謝りたいんだ、そいつに。この話し、内緒な。」
炎さんは笑顔でこちらを見てまた笑った。
…自分の非を認め、こうして努力しているんですね。さっきの昂先生の言葉が脳裏に過ぎる。
「あ!そういえば…。」と炎は言ってから「海って学年ナンバーワンって聞いたけどなんで5組じゃないんだ?」と質問された。
メガネを直して「5組はダメですよ。」と口に出す。
カバンを机の上に置き大きなため息を吐く。
「5組はダメです。」
「えっ、2回もダメって…。海レベルでも入れないって事?」
炎さんは苦笑いで私を見ているので伝えておきましょうか。
「違います。私なんてあのクラス余裕ですよ。そういう話じゃないんです。いいですか、良く聞きなさい。」
「は、はい???」
炎は自分の席に着き、海を不安そうに眺めている。
「いいですか。美貌です、私の美貌。」
「は?」
炎はまた丸い目を丸くさせて海を見る。
「…このクラスにいればわかりますよ。」
にっこり炎に笑って見せた。
炎はその笑顔が綺麗で女子にモテそうだよなー…と何となく考えていたらまさか予想的中どころか凄いクラスだったんだと思い知らされることになる。
ホームルームが終わり、帰宅の準備をしようとした時だった。
「炎くんっ!朝、海くんと二人っきりだったのっ?!」
机を叩かれ顔を近づける女子が現れた。
同じクラスの女子が食い気味に聞いてくる。後ろには大勢の女生徒を引き連れて。
か、顔近いって…。
「ねえ!聞いてるの!答えて!」
ひぇぇぇぇ!なんなんだ!海は俺を見ながら教科書で顔を半分隠しながらこちらを見ている。
「う、うん。朝早くて一緒だった。この学校の事とか色々教えてもらったんだよ。」
納得行かない顔だが、うーーん、と言いながら他の女子に相槌を打つ。
まだ顔が近い。いい加減離れて欲しい。
「ま、いっか。男子生徒で海くんと仲良い人珍しくて尋問しちゃった!ごめんね。」
コホン、と咳払いすると女子生徒が続けて喋り出した。
「紹介が遅れました。わたし!!海くんファンクラブ代表、モブ子と言います!同じクラスだよ!1組の学級委員長もしてるよ。」
はぁぁぁ?海くんファンクラブゥゥゥ?!?!
「男子生徒なら仕方ないけど。ちょっと説明するね!」
女性徒たちが一斉にノートを取り出し炎を囲む。クラスにいた男子生徒たちが徐々に廊下に避難していく。
廊下から海が最高の笑みを向けている。
「いちっ!同じクラスの女子は優遇して海くんと話すことができるっ!にっ!他のクラスの女子は触れ合い禁止!部活が一緒の場合は例外!さんっ!告白抜け駆け禁止!以上っ!」
開いた口が閉じなくなってしまい、目をぱちくりさせていたらモブ子が炎の口を力ずくで閉じる。
「炎くん、わかった?一緒に転校してきた3組の桃ちゃんが、海くんに惚れないように見張っててね!ファンクラブ入会なら大歓迎だからっ♡」
にこーーーーっ♡
「じゃ、そう言う事だから!これからもよろしくね、炎くん!」
女子たち(ファンクラブたち)がようやく去った。
「す、すげぇ…。海ってめちゃくちゃモテるんだな。」
男子生徒たちがゾロゾロ教室に戻ってくるなり
「災難だったな、炎。」
「ドンマイ。」
とか憐れみの言葉をかけてくる。
「炎さん、わかりました?私、あまりにもモテすぎまして5組に入れなかったのですよ。性格も申し分なく悪いの分かってるはずなのに先生たちにも人気で普通クラスのこの組になったのです。ね、5組向いてないでしょう?」
ね、と言われましても。
「あなたと話してると素の自分で何故か喋れるんです。喋ると口の悪さが全面に出てしまうのでなるべく喋らないようにしてただけですが。まぁ、同性には嫌味だと言われ嫌われて友達いないんですけどね。あなたの努力に感銘しましたよ、炎さん。」
メガネを直して炎の手を握る。
一呼吸してからにっこり笑顔で炎の顔を見る。
「炎さん、これからも私の友達として仲良くして下さいね。委員長さんたちとも仲良くしてください。よろしくお願いします。」
クラス中から拍手が沸き起こり、教室に入ってきた昂先生も感動したのか泣いて拍手している。
初めての海の友達。
炎は不思議そうに海やクラスメイトを交互に見て状況把握ができていない様子。
汗ばむ握手がこんなに心地が良い物だなんて思いも見なかった。
初めて他人を受け入れた瞬間だった。
***
大阪。
中学2年の5月。ここはとある一軒家。
金子緑が住む家だ。
郊外から離れ、この一帯は森林が多く広い公園が多い。少し距離はあるけど万博記念公園もある。
そんなゆったりした場所にいる緑の話しである。
わいは緑!
大阪に住む根っからのたこ焼き好き関西人やで!
この家はお母さんのお祖母さんの家で少し前からお世話になってるんや。
通ってた中学校が少し遠くなって通うの大変なんやけど、頑張って通う理由はこれ!隣に住む小林家の真鶴お兄ちゃんの自転車の後ろに乗って学校行くのが楽しいんやぁ〜!
真鶴お兄ちゃんはわいの1個上で背が高くて(学年で一番背が高いってこの前自慢してたなぁ。)チビなわいの憧れのお兄ちゃんなんや。
お兄ちゃんは剣道部の大将で、何度も部を優勝に導いてるんや。マスコミの方も年中学校にきて、お兄ちゃんは地元じゃちょっとした有名人。凄いやろ?実家は畳屋さんで将来は家業を継ぐって聞いたけどわい的には剣道で有名人!もいいんじゃないかなぁ、って思ったりしてな。
今日も一緒に登校するために家の前でお兄ちゃんを待つ。早く来ないかなぁ。
「りょーくーくーん!お待たせっ!今日の占い見てたら少し遅くなっちゃったっ。」
隣の家だというのに少し小走りで走ったのか汗ばんでいる。
「なんやなんや、何位やったん?」
自転車の後ろにいつものように座り真鶴の腰に手を回す。
よいしょ、という声と共に自転車が動き出す。まだ5月だというのに少し暑い。顔に当たる風が心地良い。
「え〜。微妙な9位。失うものあり、ってちょっと不吉じゃない?」
見慣れた商店街を抜けいつも寄る精肉店のおじさんが「おはよう!」と声かける。
「おじさんおはよー!行ってきまーす!」と挨拶を返して「なんやろなぁ?文房具なんか無くすんちゃう?」と話しを続け、けけけと笑いながら真鶴の背中に顔を当てる。
今日でこの日常ともお別れ、最後にぎゅっと力強く抱きしめた。
***
これはまだわいが中学校1年の時、いつものように学校で勉強していた時。
その日は突然訪れた。
「母さんが交通事故に遭ってそのまま亡くなった…?」
学校の授業中、先生に呼ばれ病院からの電話でそう告げられた。目の前が真っ暗になりその後はどう帰宅したかわからない。
母親は夕飯の買い出し中、信号待ちをしていたら居眠り運転のトラックに轢かれてほぼ即死だったらしい。
電話をもらってそのまま教室は戻らず病院に先生と向かい、母親の変わり果てた姿を目の当たりにしあまりのショックに気を失っていたらしい。
気がついたのは翌日の朝だった。
「あっ!緑くん、起きたぁ。心配したんだよ。」
昔おばあちゃん家に行った時に遊んでもらったことがある人だ、えっと名前は…。
「ごめんね、ボクの事覚えてないよね。隣に住んでる小林真鶴です。覚えてない…かな。最後に遊んだの随分前だから覚えてないよね。」
真鶴は苦笑いを浮かべながらエヘヘと笑う。
目元が疲れ切っている、ずっとわいを見ていてくれたのかもしれない。
「何ゆーとんねん。覚えとるで。お兄ちゃんや、背が高い優しいお兄ちゃんや。」
真鶴は目をうるうるさせわいに抱きつく。
「緑くん、目が覚めて本当によかった!しばらくの間、ボクの家で面倒見るからね。安心してね!」
ああ、これからが大変なんやな。母さんが亡くなったのか。
まずは銀行関連に連絡して、それから死亡届に…お父さんにも連絡せなあかんな。お葬式も…。
忙しくなるさかい。寝てられへんな。
抱きつく真鶴を剥がし、ベッドから起き上がる。
「うううっ。緑くん、無理しないでまだ寝てていいから。」
「お兄ちゃん、情けないなー!わいが元気にしないとどないすんねんっ!寝てる場合ちゃうねん!お世話にもならんよ、祖母の家で生活することにしたんや、今決めた。おばあちゃんには迷惑かけないようにせんとな。腹減った!たこ焼きパーティーするでっ!」
わいがへこたれてどないすんのや。元気にやっていかなきゃ母さん悲しむで!そうやで、寂しいからってへこたれてられへんねん。
真鶴お兄ちゃんの援助も借りず、しばらくおばあちゃんの家で生活をした。時折、真鶴お兄ちゃんは様子を見に来てくれて、一緒に登校したり、夕飯を食べたり。いつしか用がない日も遊びに来てくれるようになった。
「緑くんは偉いね。」
真鶴お兄ちゃんはいつもそう言って緑の頭を撫でる。くすぐったくて本当のお兄ちゃんみたいで安心する。
優しいおばあちゃんと真鶴お兄ちゃんがいれば…何もいらない。母さんもきっと喜んでるよな?ずっとこの先こうして幸せに生きて…と思っていた矢先だった。
ひっきりなしに無言電話がかかってくるようになった。
家の郵便ポストには被害者なのに誹謗中傷の言葉が並んだ心無い手紙。
マスコミからの電話も絶えずインタビューに出ないか?としつこく学校まで追っかけてくるようになった。
居眠り運転の末に家族を殺された悲劇の家族のインタビュー、視聴率取れますから!と。
中にはお金をちらつかせて無理やり言わせようとしてくるマスコミもいた。
段々と嫌気が差してきて、しまいには家から出るのが億劫になった。
おばあちゃんはそんなわいを見ていつも心配そうだった。
「金子さーん!お話聞かせてくれませんか?うちなら高待遇しますから!」
今日も家の外にマスコミが来ている。
嫌や!!!!
部屋に篭るようになり完全に他人を遮断していくようになった。
そんなとき、ある中学校から面会人がきた。岡、と名乗っていた。
神奈川県にあるみなと中学校から来たという。
「わざわざ遠路はるばる…どないな用件でしょう?」
祖母が困った様子で聞く。
「お子さんを…緑くんを我がみなと中学校に預けてみませんか?我が学校は両親が居ないお子さんのサポートをする施設が十分備わっている中学校です。高齢の方が子育て、大変ではないですか?責任を持って卒業までサポート致します。もちろん、高校入学までしっかり面倒見ます。お金の面も気にしないでください。」
ニュースを見てわいが両親がいなと調べてわざわざ神奈川から大阪まで来たらしい。
「…この家にマスコミもう来ないんか?おばあちゃんに迷惑かからんか?」
「緑…。」
祖母の瞳に涙が溢れている。毎日毎日辛かったよな。
わいたちのせいじゃないのに、悪いのはトラックの運転手なのに毎日毎日お涙頂戴のネタを探しにハイエナの如く我が家に湧き出るマスコミ。
わいが居なくなればあいつらも諦めるだろう。
「もちろん、返事は急ぎません。こんな学校があったな、ということだけで構いません。ただ、我が中学校なら全力で緑くんをサポートできますので、何卒…」
「行きます。」
岡の真剣な眼差しに心が動いた。
マスコミが嫌でウジウジしていた自分にも段々腹が立ってきた。なんて無駄な時間を過ごしていたんだ!
「わい、みなと中学校、行くで!本場のたこ焼きを教えに行くさかい!」
***
真鶴の不安な占いが的中してるなぁ、なんて考えながら教室には行かず職員室に直行した。
「緑くん、おはよう。荷物はこれだけでいいのかな?」
昨日家に突然来た岡が校長と仲良く喋っていた。
「入学して1年と少しでしたが、金子さんと過ごせて楽しかったですよ。新しい地でも頑張ってくださいね。これはワタクシから…。」
にっこり笑顔で校長からこの学校の卒業証書が渡された。
「あ…ありがとうございます。お世話になりました。岡先生、荷物はこれだけで大丈夫です。」
お父さんが使っていたたこ焼き器。屋台で使う用の大きなものだけどわいにとって大切でこれだけでいいんや。思い残すことはない。
「はい。」
車に機器をしまい、先生たちに挨拶をする。真鶴のお兄ちゃんにまた会えるといいな。
「では、大事な緑くんをお預かりします。高校卒業後にはまたこの地に帰ってこれると思いますのでその際はご支援のほどよろしくお願い致します。」
岡と一緒に車に乗り込む。
そのときだった。
「緑くん!」
真鶴お兄ちゃんの声だ。自転車を漕ぎ、こちらに向かっている。振り向いたら行く決心が鈍ってしまう。
「岡先生、お願いします。出してください。お兄ちゃんとはまた出会える。最後の別れにしたくないんや。」
岡はサイドミラーを見ながら車を発進させる。
「緑くん!!!!サヨナラなんて言わないからね!!会いに行くから!それまで元気でたくさん友達作って過ごすんだよ!またねーーーーーーっ!」
遠ざかる真鶴の姿がどんどん小さくなる。
わいの両親が離婚した時も、わざわざ会いに来て遊んでくれた。
内気なわいのために友達を作れるように声かけてくれたり、本当に色々気にかけてくれた優しいわいのお兄ちゃん。
本当に本当に今までありがとう。内緒にしていてごめん。
永遠の別れなんてしない、会いにくるで!
それまで元気でな。
わいは新しい地で頑張るから、見守っていてくれやー!
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