第78話 さまよう菊池



「菊池くんこっち」

「あ、林さん」


 二人の時は下の名前で呼び合うけど、学校では俺が照れ臭くて名字で呼び合っている。

 二月に付き合って、もう四か月になるのに。


 昼休み、三年になってようやく入れるようになった屋上で早織と待ち合わせた。

 さほど人は多くない。気温が上がってきたからかな。


「高瀬どう?」

 早織の隣に腰掛けると、早々に話題は高瀬のことになった。

「うん、相変わらずだよ」

 俺の返事で表情を暗くした彼女に、この子はあの事件の後も高瀬を信じてそばにいた友人なんだと改めて実感した。

「まだあのままなの?」

「うん。ずっと塞ぎ込んでる。話しかけたら笑ったりはするけど、今にも泣いちゃうんじゃないかって感じで」

「そう……」

「最近は授業中もさ、ただ座ってるんだ」

「え?」

 聞き返してきた早織に、俺は大げさに首を竦めた。おどけないと俺まで落ち込んでしまいそうになる。

「教科書も見ないし、ノートも取らない。真っ直ぐ前見て座ってる。先生たちも気にしてて、でもあの蛯名ですら不気味そうにして何も言わない」

「受験あるのに」

 早織は難しい顔で呟いたが、俺は受験の言葉で笑ってしまった。

 彼女の眉間のシワが深くなったのを見て、俺は慌てて言い訳をするために両手を上げた。

「それがさ、この間の三教科テスト、学年トップだったんだよ高瀬」

「え?」

「俺らも心配してたから拍子抜けしちゃってさ」

 驚いた顔に変わった早織にホッとして、俺は両脚を投げ出した。

「もっと上の大学目指せるじゃんって言いたいけど、そんな雰囲気じゃないしさ」

「そうだったの」

 悲しそうにする早織に、結局自分のテンションも維持できなかった。

「みんなも心配してる。体育祭もあんなだったし」

 自分で持ち出しておいて、あの日を思い出した俺は気持ちがますます暗くなった。


 この間の体育祭、例年通りの種目に選ばれた高瀬は、1500mでぶっちぎりの一位で駆け抜けた後、ばったりと倒れた。

 一瞬騒然としたが、意識はあって、酸素スプレーを吸って少しして落ち着いた。

 周りは保健室を勧めたけど、高瀬は首を振って残りの二つのリレーでも全力疾走した。

 倒れたりはしなかったけど、高瀬の様子がおかしいと感じていたクラス全員の心がざわついたのは間違いなかった。


「何があったか本当に分からないの?」

 早織の視線を受け止めることが出来ず俯いた。

「そう言われるとちょっと辛いよ。仲良くやれてるって思ってたからさ。時々遠くに感じることはあったけど、理由を訊いたりはしなかった」


 高瀬の様子がおかしいと感じたとき、いつもすぐに思い当たることがあった。

 でも気付けばあれから一年以上が過ぎ、高瀬の今の状態がバレンタインの事が理由とは思えない。

 じゃあ一体いつから『時々憂鬱そうにする理由』があの事じゃなかったのか、考えてみても判断できなかった。


「何があったんだって思うのと同時に、いつからだったんだろうとか、何に悩んでるんだろうとか、なんで友達なのに一つも思い当たる節がないんだよ、って俺たちも思ってるんだ」


 知らずため息が出て、幸せが逃げて行かないよう早織の手を握った。


「高瀬はさ、前からそうだったよ」

「そうって?」

「人に見せないところがあるって言えばいいのかな」

 早織は空を見上げて、ベンチに深く座り直した。

「私は、高瀬が甲田と揉めてグループから抜けた後に友達になったんだけどね、その時からたまに不思議に思うことはあった。距離感が絶妙に遠いっていうかな」

「てっきりあの事件のせいかと」

「ううん、それよりも前から」

 早織がポケットから飴を二つ取り出して、一つを俺にくれた。

 二人の周りにさくらんぼの香りが漂う。

「高瀬って、自然にしてたら凄くモテるのよ」

「今でもモテるけど?」

「今は女子のこと避けてるでしょ?」

「まあ、クラスメイトとは話すけど、自分から話しかけるのは新田くらいかな」

 言いながら、高瀬と新田が二人で話していたことがあったのを思い出した。あれは確か学校祭のあたりだ。

 最近は二人でいることはなくなったけど、新田にも話を聞いてみようか。

「一年の初めの頃はそうじゃなかった。女子ともよく一緒にいた。でも、付き合ってるのかなって思ってた子ともそうはならなくて、他校に彼女がいるんじゃないかってみんなで話してた」

 それは俺もちょっと思ってた。でも付き合いが長くなって、そんな嘘をつくやつじゃないって分かったし、今は童貞だということも信じてる。

 信じてるけど、ここ最近の状況で正直よく分からなくなっているのも事実だ。


「あの事件の前にね、いつものメンバーでお正月に神社に集まったとき、松島さんと森崎さんに会ったの」

「へえ」

 それは初めて聞く話だ。

「声掛けたらって言ったけど、高瀬は自分からは声を掛けるつもりがなさそうで、私ね、わざと二人に見つかるように仕向けたの」

「え?」

 驚いた俺に、早織は気まずそうに首を傾けた。

「意地悪だよね。高瀬は困ってたけど、寄ってきた二人に綺麗だねって言った。二人、振袖着てたから。その時ね、森崎さんが私を一瞬睨んだの」

「え」

「高瀬と私が二人でいるように見えたみたい。持田と鶴見もいたんだけどね。それで彼女が高瀬のことが好きなんだって分かった。それから高瀬が森崎さんの後ろで恥ずかしそうにしてる松島さんを褒めたの。今日はメガネじゃないんだね、髪を上げるのも似合うねって」

「サラッと言うな」

「二人が行っちゃったあと私たちもそう言った。悪い男だねってからかって。そしたら高瀬、本当に驚いた顔してね、冬休みが明けたあとから二人とハッキリ距離を取った。会わないように昼休みは教室からも出て。そこまで? って思ったけど、からかったせいかなって気にしてたら、あの事件が起こった」

「そうだったんだ」

「高瀬は自分のせいだって思ったと思う。私たちもあんな風に言っちゃったし。でも高瀬は悪い男じゃないし、あの二人のことも弄んでない。プレゼントは断ってたし、二人が知り合いだったことも知らなかった」

「うん、分かってるよ」

 だんだん必死になる早織の手をぎゅっと握った。

 きっと早織は後悔しているんだろう。ちょっとした悪戯があんなことの後押しになってしまったかもしれないと。

「高瀬はみんなに優しいの。ちょっとした変化にも気付いて褒めてくれるし、好きそうな物を見つけたら教えてくれる。そういうことが自然とできちゃうから、ああいう噂も出たんだと思う。女子だけじゃなくて、男子にも同じだったんだけどね」

「そうだよな」

 コンビニの新商品が美味しかったって買ってきてくれたり、料理を始めてからは、俺が好きな鶏肉料理を多めに持ってきてくれてたこともわかってる。

「何度も高瀬のせいじゃないって言ったけど、結局高瀬はそれからほとんど一言も喋らなかった」

「一言も?」

「二年に上がるまでね」

 ポケットからミルクコーヒーの飴が出てきて、二人の周りがコーヒーの香りに変わった。

「高瀬って、自分に自信がない感じがするんだよな」

「そうね」

「モテるし勉強も運動もできるのに、そこが見合ってないって言うか」

「あの事件のせいじゃない。きっと何か別の理由があるのよ」

「サッカーを辞めちゃったこともそれが理由なのかな」

「そうかもしれないし、分からないわね」






「新田」

「なに?」

「ちょっと聞きたいんだが」

 気楽に話しかけるつもりが、なんだか堅苦しい口調になってしまった。

「おう。丁度良かった、私も聞きたいことがあるんだが?」

「え?」

「高瀬くん、最近大丈夫じゃ無さそうだけど大丈夫?」

「あー」

「あーってなに」

 新田が面白がる顔をして俺に寄ってきた。

「いや、俺もそれの答え探しててさ」

「あ、そうなんだ」

 驚いた顔の新田を眺めて、いつの間にか化粧が派手じゃなくなっているな、なんてどうでもいいことを思った。

「新田さあ、前に高瀬と二人でなんか喋ってたじゃん? 学祭ごろ」

「そうね」

「あれってさ、なんだったの?」

 教えてもらえるのか定かでないが、できたら教えてもらいたい、という気持ちを目に込めて新田を窺う。

「んー、あれは多分今回のとは関係ないと思うけど、ちょっとね」

「ちょっとね、かあー」

 思わず大きく落胆した俺を新田は少し黙って見た後、「あれは、甲田君だよ」と少し声を潜めて言った。

「甲田?」

 また変わったやつの名前が出てきたな。

「高瀬君、一時期甲田君にからかわれてたの」

「は?! なんだよそれ」

「私も詳しくは分かんないんだけど、でももう解決したみたいだし、あの二人、今はそこまで仲が悪いわけじゃないと思う」

 俺は頭がハテナでいっぱいになった。

「どう言うこと? からかわれてたけど、今は仲良しなの?」

「いや仲良しって言うと違うと思うけど、ホラ、全部が嫌な人間って居ないじゃない? 良いところもあるものでしょ?」

「まあ......そうだな」

 俺は初め新田が嫌いだったしな。

「そういう感じで、甲田君にも良いとこがあったんじゃないかな。仲が良いとは言わないけど、一緒に話してるのはちょっと前に見掛けられてる。まあ、ああなる前ね」

 ああなる前か。

「新田は本当に今の高瀬と甲田は関係無いと思うか?」

「私は無いと思うけど、絶対は無いからね」

「そうだよな」

 うーん、一応当たってみるか。

 甲田の顔を思い出して、正直に言うと全然気は進まない。

「高瀬君って謎が多いよね」

 新田が言って、えっと思った。高瀬が普通に話しかける女子は早織と新田くらいなのに、二人とも高瀬について多くを知っている訳ではないらしい。じゃあ誰が高瀬をよく知っているんだろう? 俺たちも気は許してもらってると思うけど、原因は全く思い付かない。

 家族なら知ってるのかな。

「新田は高瀬のことどう思ってるんだ?」

「いい人だと思うよ」

「そっか……」

「ああ、初めは疑ってたもんね私」

 新田が肩を竦めた。

「そう」

「今は悪い噂は信じて無いよ」

「分かった」

「うん」




 


「高瀬? 俺に聞いてどうすんだよ」

「時々話してるってある人から聞いてさ」

「ああ? ああーあいつの情報屋か。なんでも知ってるやつ」

 情報屋? 誰のことだ? ますます分からなくなってきた。

「なんか振られたーとは言ってたな」

「え?! 彼女いたの?!」

「いや片思いのやつ。知らねえのかよ」

「……知らない」

 知らなくて、やっぱりショックだ。どうして新田や甲田が知っていることを普段ずっと一緒に居る俺が知らないんだろう。

「あいつ変なやつだもんな」

 まるで俺の心情を見透かしたみたいに、甲田がフォローするようなトーンで言った。

「……そんなことはないけど」

 自分の声に全然自信が乗っていない。

「アイツにいい奴な部分があるのは知ってるよ。でも振られたっつってたのは結構前だぞ? 別に様子がおかしいって程じゃなかった。もともと叶う相手じゃなかったーとか言って。俺は話半分に聞いてたけど」

 いい奴な部分って何だよ、と思いながら、「話半分って何で?」と聞き返すと、甲田は整った顔を嫌そうに歪めて、「あいつは性格が悪いからだよ」と言い放った。

「悪くないだろ」

「いや悪いんだよ。少なくとも俺には」

「まあ、それは……お前のせいじゃね?」

「ちげえよ!!!」

 激昂した甲田にびっくりして、絶対コイツのせいだと確信した。





「片思いの相手に振られた? 本当かそれ」

 田中は眉を寄せて甲田の話をハナから疑って掛かった。

「まああの甲田の言ったことだからな」

「話半分が良さそうね」と早織が言って、「あいつも話半分だって言ってた」と報告すると、「半分の半分でほぼ出鱈目じゃん」と熊田が大雑把なことを言った。

「それじゃまたヒントが無くなっちゃうよ」

 鶴見が穏やかに言って、俺も思わず頷いた。


 高瀬の様子に危機感を感じた俺たちは、早織に言って、鶴見と持田にも合流してもらった。二人も無言が続くグループチャットに、高瀬のことを心配していたらしい。


「いくら周りを当たっても、想像力が鍛えられるだけだぞ」

 田中がもっともな意見を落として沈黙が訪れた。田中はそもそも詮索には乗り気じゃなかった。

「あれこれ想像されるのも嫌なのかなって思うけどさ、やっぱ心配だし」

 持田が言って、俺はシンクロした気持ちの持ち主に出会えた感動で持田の肩を馴れ馴れしく叩いた。

「ねえ」

 後ろから声を掛けられて振り返ると、新田が立っていた。

「あれ、新田じゃん」

 手を上げた俺に、新田も手を上げてそばまで来た。

「高瀬君の話だけどさ、溝口先生に聞いたら、家の人は特に気が付かなかったって言ってたみたい」

「え? 先生に聞いたの?」

 びっくりして声を上げると、新田は何か問題ある? と言うように眉をあげた。

「先生も心配してた。でも提出物とかはちゃんと出してるし、授業中に教科書開いてないのはマイナスになるかも聞いたけど、当てられたらちゃんと答えてるから、授業を聞いてるって判断して貰えてるみたい。板書は義務じゃないしね」

「新田有能か」

 驚いた顔の田中が褒めて、俺たちも頷いた。

「何があったのかは分かんないからさ、とりあえずこの状態が将来に影響がないかどうか確認しとこうと思って」

 俺と持田と鶴見で思わず拍手してしまった。

「高瀬君は――」

 新田が少しためらって、みんなの視線が新田に集まった。

「結構、弱いところがあるんだと思う」

「何でそう思う?」

 田中が言って、新田は珍しく自信がなさそうに眉を下げた。

「何となくよ。あの甲田にもちゃんと向き合ってあげる強さもあるのに、自分のことは二の次三の次っていうか、諦めてる感じさえある。告白されても一度も考えもしないで断ってるし、そもそもそうするつもりが無いっていうか――」

「でも、甲田君には失恋したって言ったらしいの」

 林さんが言って、新田は驚いた顔をした。

「そもそも叶わない相手だったって」

「へえ……じゃあ心に決めた人がいたから断ってたってことなのかな」

 新田がなんだかちょっと嬉しそうにしている。やっぱりこいつも俺にはよく分からない人間だ。

「ま、甲田の言うことだけどな」

 持田が言って、それでも新田は何かを考えるように黙った。

「もし本気で理由が知りたいなら、私は役に立てると思うけど」

 新田が試すように俺たち一人一人を見渡す。

「どう言う意味だ?」

「私、色々調べるのが得意なの。高瀬君には甲田君のことで手を貸した。あんまりこういうのは喜ばれることじゃないだろうし、でも明らかにおかしい状態は心配と言えば心配」

 甲田が言っていた高瀬の情報屋って言うのは新田のことかと腑に落ちた。あの言い方は相当色々と暴かれたんだろう。

「調べるとしたら何を?」鶴見が訊ねた。

「まずは過去かな、中学時代の同級生に当たって、サッカーを辞めた経緯とか、仲の良かった友人とか、行けそうならクラブの顧問とか担任の――」


「いやいい」


 言ったのは田中だった。

「そんなことはこそこそ調べるもんじゃない」

「そうね」

 新田は分かってたようにあっさりと頷いて、それじゃ、と去っていった。


「そこまではやり過ぎだよな」

 言うとみんなが頷いた。

 新田が確認してくれたお陰で将来に影響はなさそうだと分かった。受験に影響がないのなら、また元気になるのを待ってやるのがいいのかもしれない。

 誰にだって話したくないことはある。俺にはー……別にないけど!


「俺は気になるよ」

 一同がこの話はここまでかという空気を共有し合ったところで熊田が言った。

「熊田」

 田中が責めるように呼ぶと、熊田はずっと黙っていた口を少し曲げて、

「詮索はしないけどさ、あんなあからさまにおかしいんだし、本人に聞いてもいいと思う。言いたくなきゃそれでもいいけど、もし何かできることがあるならしてやりたいし、そう思ってることも伝えなきゃ、高瀬にも分かんない」

「そりゃそうだけど」

「気を遣い過ぎなんだよ友達なのにさ。俺はその森崎さん達とのことは知らないから黙ってたけど、普通にどうした? って聞けばいいじゃん」

「そうなんだけど、あれだけおかしいと訊くのも勇気がいるっていうか」

「俺は聞けるよ」

「言えないって言われたらどうすんだよ」

「なんでっていうよ」

「それじゃ詮索じゃんか」

「あんだけ様子がおかしいんだから理由聞かれることは分かってるだろ」

「取り繕うこともできないくらい落ち込んでるかもってのを心配してんの!」

 まあまあと鶴見と持田に宥められていると、田中がゆっくりと立ち上がった。


「俺が聞いてみるよ」


「なんで」


 俺と言い合っていた熊田が田中に向き合う。熊田は少し気が立っている雰囲気がある、俺は少し熊田のそばに寄った。


「心当たりがあるから」


「今さら?」


 全員が思った言葉が、熊田の口から怒気を含んで溢れた。

 田中も分かっているのか神妙な表情で俯いた。

「理由知ってたのかよ」

「いや、俺もあの雰囲気にびびって聞けてない」

「でも想像はつくのか?」

「いいや、なにも分からない。でも、高瀬のことで俺だけ知ってることがある」

「お前だけ?」

 みんなの心がまた熊田の口から溢れた。

「偶然知ったんだ。去年の十一月に。でも聞けなくてさ。二月に様子がおかしかった時に思い切って聞いたら、そうだった」

「そうって?」

「それは俺の口からは言えない」

「高瀬、二月からおかしかったの?」

 早織に言われて俺は言葉に詰まってしまった。正直そんなことは思わなかった。

「今みたいじゃなかったよ。もっと普通に装ってた。でも、おかしかったんだよ」

 田中に言われてなんとか記憶を掘り返してみる。二月、早織と付き合って毎日浮かれてたけど……。

「……SNSを公開設定にしてた」

 思いついたのはそれだ。

「そう」

 田中が頷く。

「やたら凝ったお菓子作ってきたりしてたな」

 熊田が呟く。

「バレンタインのクッキー。あの模様作るの結構面倒なのよね。作ったことないけど」

 早織が言って、持田がずっこけた。

「思い当たるフシがあって、確認したらあってたのか」

 熊田はまだ少し言葉がきつい。

 喧嘩は止めてくれと思いつつ、田中を窺うと、田中はますます暗い顔で頷いた。

「うん。でもその時は大丈夫そうだった。連休が明けるまでは……」

「なんで早く聞いてやんないんだよ! お前しか知らないことだったならお前しか聞いてやれねえのに!」

「熊田! 怒るなよ!」

「怒ってねえよ!」

 嘘つけ! 怒ってんだろ!

「田中君の気持ち分かるよ」

 突然鶴見が声を張った。

「バレンタインのあれよりひどいことが起こったかもしれないなんて、俺でも怖くて聞けないよ」

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