◇6 【過去】皇女フィオネとの出会い
──それは、遠い過去の記憶。
ふわふわの金髪が絹のように柔らかそうだ。綺麗な色をしたエメラルド色の瞳がきらきら輝いていた。肌は白く、背は小さい。
妖精のような人だと思った。
その人はしずしずと長いドレスの裾を持ち上げながら歩いた。上質なドレスには小さな宝石がいくつも付いていて、彼女が歩くたびにきらめいた。そのきらめきのせいか何故か彼女から目が離せない。
「皇女フィオネです」
鈴の音のような声がテセウスの耳に届いた。にこり、と彼女が微笑むと、花のような香りがする──ような気がした。こんな綺麗な人をテセウスは初めて見た。
フィオネはテセウスの手をキュッと握った。その手はひんやりとしていたが、テセウスの手は逆に熱くなった。
「あなたがルーク様?」
その声が耳に入った途端、テセウスはぶんぶんと首を横に振った。
「……違います!」
「あら?」
「僕は第二王子テセウスです」
「そうだったの」
フィオネはぱっとテセウスの手を離した。「間違えてしまってごめんなさいね」と眉をほんのり下げながら。
「いいえ、全然」
「ルーク様はどちらにいらっしゃるの?」
「兄は……」
そのとき、扉がバンと音を立てて勢いよく開いた。
「悪い、遅れた!」
テセウスはハッと目を見開いた。「まあ」とフィオネが驚いたように声を上げた。
ルークは赤いマントを翻しながら入ってきた。金の肩飾りが揺れ、首元には白いクラバットが付いている。彼が歩くたびにカツ、カツ、カツ、と激しい音が鳴る。
「兄さん、服、着てる……」
「お前、いつも俺が服着てないみたいに」
ルークはテセウスの肩を笑いながら小突いた。
だけど、テセウスにはそれぐらい衝撃だったのだ。いつも庶民のような服を着ている兄がこんなにきっちりした服を着こむとは。
そして、その様子は誰よりも凛々しく、かっこよかった。
「申し遅れました。セプタン王国第一王子のルークと申します」
「ハバーナ皇国第一皇女フィオネですわ」
二人は目を合わせて微笑んだ。
テセウスはどこか置いてけぼりになったような気がした。だって、その様子は絵画のように完成されていたから。
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