016-『フォートモジュール』

『お前に教えてやろう』

『なに? お兄ちゃん!』


今から三年前と二十二日、十五時間前。

お兄ちゃんは私に、教えてくれた。


『もしお前が、数十の艦隊に囲まれたらどうする?』

『それって.....死ぬしかないんじゃ?』

『それで終わりか? 悔しくないのか?』


あの時の私は、その通りだと思った。

ただ理不尽に船を落とされて、悔しく思わないはずがない。


『お前が使っている船――――アベリアは、襲撃型戦艦だ。つまりは、襲撃型の特徴を受け継いでいるわけだな』

『....うん』

『つまり、戦術武装が使えるわけだ』

『戦術武装?』

『高度ダメージ制御のようなやつだ』

『....ああ!』


私が当時乗っていた船は、襲撃型アサルト・戦艦バトルシップのアベリア。

アドアステラより安いのは、まあ当然だろう。


『お前が使う高度ダメージ制御は、戦術武装の中でも最下位に位置する』

『そうなの?』

『それの上位版を今から紹介する。【フォートモジュール】だ』

『フォートモジュール?』


フォートモジュール。

お兄ちゃんは、馬鹿な私にそれを懇切丁寧に説明してくれた。


『お前が使う高度ダメージ制御は、電力を消費するモジュールだが、中位の戦術武装は船のキャパシタとは別に、燃料を消費する。』

『燃料......確かに、使うね』


アドアステラとは違い、アベリアは稼働に燃料を使う。

環境に優しい水素反応機関だ。


『だが、その燃料とはまた違うぞ?』

『えっ?』

『水素燃料じゃない、反物質燃料だ』

『反物質ゥ?』


特殊天体からしか入手のできない燃料で、私のお財布的には当時少し厳しかった。

だがお兄ちゃんは、代替燃料も教えてくれた。


『一応だが、ダークマターも燃料として使えるぞ。飛んでるだけで溜まるから、そっちがおすすめだな』

『効率はいかほど?』

『そうだな....大体反物質の15%くらいだな』

『少なっ!』


そんなやり取りをしたものだ。

懐かしい。


「お兄ちゃん、あのことは忘れないよ!」


CJDでジャンプした私は、右目に痛みを感じた。

だが、立ち止まるわけにはいかない。


「【フォートモジュール】、起動」


物凄く高い反物質燃料だが、今はカーゴスペースの一角を占拠するレベルにまで貯められた。

全く、ひと箱でシタデル建造物が建てられるんだよね......ヤレヤレ。


『フォートモジュール起動。推進装置へのエネルギーが遮断されました、ワープコア停止。副航行機関系統へのエネルギーを停止。シールド増幅システム起動、兵装へのエネルギーを増幅、ターゲティングシステムへのCPUノードを増幅』


私はお兄ちゃんの説明を思い出す。


『このモジュールは、ひとたび起動すれば推進系が全部使えなくなる』

『ええっ? 弱くなっちゃうんじゃ.....』

『その代わり、まず射程が10倍になる上に、攻撃系統の単体ダメージは概算で5.5倍。戦闘機やドローンの制御範囲や攻撃力、防御力に機動力まで上がる』

『強すぎない?』

『その代わり燃料は高いし、動けなくなるけどな』


確かに、それはかなりのデメリットだった。

負けそうになっても逃げられないんだから。


「フフフ、フハハハ、ハハハハハハ!!! 圧倒的な射程の前に屈しろ!」


アドアステラの主砲が、眩い光を放つ。

何百倍にも増幅されたレーザー砲撃が、巡洋戦艦の一隻を叩く。

シールドが一瞬貫通して、装甲板にまでダメージが入った。


「おっと、そういえばスキャンを忘れてた」


レーダーに船の詳細が表示される。


「........は?」

『カラドオロズ級襲撃型戦艦7、メリローグ級攻城戦艦5、アリステロン級艦載機母艦4、ケルジェッドエイン指揮型戦艦2、ケイロン級戦艦8、カラッド級巡洋戦艦12、イリース級巡洋戦艦6、ジーグベルム級巡洋艦5、リシモス級巡洋艦2』


妙に数が多いと思ってたけど、明らかにおかしい。

こんなの、海賊の主力級だと思うんだけど....もしかして、今回の相手って、かなりの大物なの..........?


「あんの野郎.....」


道理で、破格の報酬だと思った。

にっくきアレンスターの顔を思い浮かべ、私は拳を握り締める。


「こうなったら本気で行くぞ」


私はドローンを展開する。

その名は「オルトロス」。

神話の狼の名を冠した、超強力なドローンである。

流石に強すぎて、一度に二機しか出せない。

護衛に「アイギス」を出す。

防衛ドローンで、援護対象を庇うように動くし、ミサイルなどを自動で迎撃するのだ。


「これでドローン系はネタ切れだ」


いくらこの船が大きくとも、積めるドローンには限りがある。

これ以上新しいドローンはない。

...戦闘機はあるが、あれは有人で尚且つ個人の腕がモノを言う。

私が乗っても100%の能力を発揮できるわけではない。


「帰ったらアレを使わないとな...」


ドローンの処分先に見当をつけつつ、私は一気に攻勢へと出る。

まずは艦隊の先鋒に布陣しているカラドオロズ級とメリローグ級を集中的に砲撃し、ドローンはドローンで指揮型戦艦コマンダーシップを直接叩かせる。

勿論コマンダーシップは硬いので、装甲の薄い場所を優先的に狙わせる形になるが。


「生き残るんだ....!」


生き残って、もしお兄ちゃんに会えたなら.....

その時は――――!

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