015-憔悴

私たちを包囲する陣形は、見事なフォーメーションだった。

でも、問題は相手の武装。


「機関をオーバードライブさせてやっとついてこれる程度.....足を止める手段もないというのに、愚かだな」


確かに、アドアステラは前面に砲塔を持たない。


「だが、尾に無いとは誰も言っていないぞ?」


アドアステラの後部副砲は、文字通り船のお尻、重力場安定板(通称:尾羽)の少し手前に

ついている。

そこから伸びた極光が、コルベット.....メレッタ級の一隻を捉える。


『ハアッ......! 危ねぇ所だっ――――』

「では、アデュー...何?」


その時、メレッタ級にカストル級が体当たりして、軸線から逸らす。

代わりにカストル級は、直撃を受けて轟沈する。


「何て......莫迦な......」


お兄ちゃんが聞いたら、呆れるあまりに卒倒するかもしれない。

「死地にいるのに、兄弟や仲間という理由で他人を庇うのは本物の愚か者だ」って、映画を見ている時に言っていた。

お兄ちゃんの信念を穢したあいつらに、生かしておく理由はもうない。


「プライマリを設定、収束ターゲットで最適射程位置を算出する」


本当は艦隊の到着を待つ予定だったけれど、構わない。

もともと、この船ではこの規模の相手を務めるには強すぎだ。


「少し遠いな、クリスタル変更。射程を延長し、収束させる」

「あの....ご主人、様.....音が鳴りました....」

「ん?」


タコみたいな頭の元奴隷が、私に教えてくれた。

この男に担当させているのは、電力キャパシタの警告を管理する役割だ。


「参ったな、足りないか......」


レーザー兵器の使用を繰り返し、電力がだいぶ減ってしまった。

40%を切ると警告が鳴るようにしている。


「あー......お前達、とりあえず休んでいい、直ぐに戻る!」


私はエレベーターを使って機関室まで降りる。

機関室には、事前に運び込んだとあるものが積んである。


「お、重ッ......」


バッテリーである。

機関室の配電盤からコードを引きずり出して、バッテリーに繋ぐ。

一個につき25%分の電力が充填できるので、それを3度繰り返しエネルギーを補充した。


「戻らないと......」


バッテリーを充填している間、船は揺れていた。

自動航行では戦闘機動が取れないので、被弾が多くなっている。


「新人教育をしないと、致命的だ」


ブリッジに戻ると、アーマーへの損傷警告が鳴っていて、赤毛の女の子が慌てふためいていた。


「戻ったぞ」


私が戻ったことで、女の子は私に抱き着いて来る。

振りほどくのも面倒なので、そのままコンソールの前へと移動する。


「くっ、シールドが割られたか」


アーマーに損傷が入り始めていて、船内で火災が起きている。

可燃物もないので、隔壁を閉じて放置しておけばいい。


「とりあえず、ハエを蹴散らすぞ」


手っ取り早く、コルベットとフリゲートを片付ける。

だが、その前にやる事がある。


「【高度ダメージ制御】、起動!」


残存電力のゲージがガリッと減り、船の損傷が高速で修復され始める。

正確には、アーマーを修復するナノマシンを、損傷部位に集中させて、応急処置のような形にしているのだ。

だが、それだけで損傷は防げる。


「フリゲート級、撃沈。」

「ごしゅじんさま、言われたとおりにしました....」

「ご苦労」


私は男を褒めてやる。

いくら子供同然の精神とはいえ、この青年に懐かれるのは少し不気味だな。

あと、名前を付けてやらないと呼称に困る。

名前の概念を覚えてもらわないとな。


「さぁ、残るはお前だけだ」


小型艦隊は、瞬く間に全滅した。

アドアステラは、その図体の割に機動性が高く、シャープな形をしているために、ミサイルの爆発をほとんど無力化できるのだ。


「.......いや、待て」


残るはジーグベルム級巡洋戦艦一つだ。

だが、何故出撃している?

その艦砲が有効でないことは分かっているはずだ。


「どうしてだ....?」

『これでも喰らえ、糞傭兵が!』


ほぼ同時に、ジーグベルム級が見慣れた信号を発する。


「まずい! ジャンプビーコンだっ!」

「びーこん?」


ジャンプビーコン。

それは、ゲーム内において脅威の象徴だった。

艦隊をそのままジャンプさせる、ジャンプフィールドジェネレーターの目標に必須なもので、危険宙域で二隻海賊が居たら死を覚悟するのが通例だった。


「来るぞ、ワープアウトする!」


直後、ジーグベルム級の周囲に、巡洋艦、巡洋戦艦――――この船では厳しい船が、大量に現れた。

ジャンプで来ないのは不思議だけど、そんな場合じゃない。


「ワープできない!? 何でッ.....」

『周辺にジャンプフィールドが存在しています。安全装置の設定により、ワープは現在使用できません』

「何が安全装置だっ、クソ!」


無理だ。

相手が悪すぎる。

お兄ちゃんはこういう時どうすればいいか言ってたかな......

思い出せ。

思い出せ............


「.....はっ!」


思い.......出した......。

神の啓示お兄ちゃんの最強戦術を.....!


「CJD起動」


そういえば、ジャンプの反動を感じない。

というよりは、致命的な感じがないのだ。

この仮面のお陰か.....?

そもそも、元奴隷たちも反動を受けていない。


「まあ、今はいい!」


とりあえず、敵の数を減らす!

言葉と共に、アドアステラははるか遠くへと跳躍した。

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