010-傭兵

「はぁ...」


それから数時間後。

私はステーションの中でゆっくりしていた。

どうもこのマスク、口部分だけ外す事もできるらしく、今は口の部分だけ外した状態で、トマトジュースっぽい何かを飲んでいる。


「お兄ちゃん...待っててね」


聞けば、私がこんなに警戒された理由は、古代遺物の活発化にあるという。

主人を遥か古代に失って、無関心のまま宇宙を彷徨っていた強力な古代兵器の遺物たちが、急に目的を持ったかのように動き始めたのだという。

この中心には、絶対にお兄ちゃんがいる。

お兄ちゃんがもしこの世界に来たなら、この世界の全てが味方するだろうから。


「さて」


私はトマト缶をゴミ箱に放る。

ゴミ箱に入った缶は、一瞬で分子レベルに分解される...ということはなく、普通にカランと軽い音が響いた。

この辺はまだまだ進歩が追いつかないようだ。


「商業区画は...」


このステーションは民間施設なので、当然民間の商業区画も存在する。

これからの活動に、私の傭兵組合への所属が必須らしいので、申請を出しに行くことになった。


「冷めたものだけど」


普通宇宙の傭兵っていったら、星々を巡るヒーロー、って感じなんだけど。


『登録を受理しました』


実際は、ATMのような装置の前でポートレートの撮影と情報入力だけを行いカードを発行するだけだった。

傭兵カードのようなものもなく、私の持つ情報端末にアプリと情報が追加されただけ。

実に味気ない結果となった。


「兄ちゃん、傭兵になったのか?」


私が葉柄組合の敷地を出ようとした時、横から声がかかった。

振り向くと、若干くたびれたおじさんが立っていた。


「誰だ?」

「おっと、先輩にその口の利き方はねぇだろ?」


おじさんは携帯端末を起動し、空中に何かしらのマークを投影する。


「俺はアルゴ。アルゴ・ヴェンタスだ、これでもシルバーだぜ?」


シルバー。

その意味は、傭兵組合のランクシステムによるものだ。

ルーキー<ブロンズ<シルバー<ゴールド<プラチナ<ダイヤモンド<エンフォーサーの七段階で、こなした依頼の数や功績で上がるらしい。

興味ないけど。


「そうか。で?」

「いや、何でもねえよ。ただ.....やめといた方がいい、安易な気持ちでやっていけるほど、傭兵稼業は甘くないんだぜ?」

「お前に何が分かる?」


こういうの、よくいるな。

たいして強くないのに、先輩面するのが。

お兄ちゃんの忠告ならともかく、こんなどこの馬の骨とも知れない男の忠告なんか聞く価値はない。


「よせって! ボロ船だか改造船だか知らねえが......大怪我する前にやめておけよ!」

「ああ」


なるほどね。

腕を掴まれた時に不思議な違和感があった。

義手だ。


「....忠告は、感謝する」

「あ、ああ...」


私は男を無視して立ち去った。

この男とはこれきりだと思ってたんだけど、運命の歯車はそれを許してはくれないようであった。

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