007-強烈な遭遇

それから数週間が経った。

私の船はハイパージャンプで次の星系へ移動し、そこにあるという民間用ステーションを目指していた。

もっとかっちょいい服も買いたいし、カーゴを占拠している鉱石類も売り払わないといけない。

奴隷の方は、電極を抜いて未成熟だった脳を治療してみたけれど、思考が赤ん坊同然で、育てるのに苦労している。

お兄ちゃんが素晴らしいということを理解してもらわなくちゃ困るから、今後も教育は続けていく方針でいる。


「ハイパーアウト!」


ドォンという轟音と共に、アドアステラは通常空間へと出る。

機械の計算通り、ステーションから100km以内の空間だ。

周辺に船はなし。

あんまり大きなステーションでもないみたいだな。


『通信許可が申請されました』

「許可」

『了解』


通信網が開き、少し焦り気味の声が流れてきた。


『こ、こちらアルキネスト第四セレットステーション、そちらの所属と艦名を教えてください』

「こちらアドアステラ、無所属」

『無所属? 正しい所属を言わない場合、交戦もやむを得ませんが』

「こちらに戦闘の意思はない。ドッキングを許可されたし、話し合いでの交渉を希望する」

『わかりました、ドッキング後お一人で外へ出てください。守られない場合、即座に機兵を突入させます』

「了解した」


これは、白兵戦も覚悟しておかないといけないかも。

私に武器の心得は殆どないんだけどね。

アドアステラはステーションのドッキング口から進入し、ポートのひとつに着陸した。

慣性制御が働いていない空間で無重力だが、入り口にある遮断装置のおかげで有酸素空間である。

私はドッキングを確認した後、艦内の各所を施錠してから外へ出る。

タラップを下ると、複数人に囲まれた。


「私はナイル・エーント、ステーション警備責任者です。貴殿の所属とお名前をお教えください」

「...カルだ、所属は無い」

「無い、ということはないのでは? 例えばそう、ビージアイナ帝国出身、とか」

「どこだ、そこは」


名前も聞いたことがない場所だ。


「出身は太陽系。所属は地球だ」

「は?」

「俺の所属は地球、それとも理解できないのか?」

「そんな惑星の名前は...聞いたことがありませんね」

「では記録しておけよ」


お兄ちゃんなら同じ事を言う。

確信を持って私は言った。


「話になりませんね、あなたを拘束します」

「.........拘束してどうする?」

「口を割る気になるまで、拘留いたします」

「そうか」


困った。

果たして船に戻れるかな。

私が全力で逃げ出す算段をしていたその時。


『待った!』


ドック内に声が響いた。

見れば、不恰好な小型船があちこちに船体をぶつけながらドックインして来ていた。

船は火花を散らしながら広いドックに接触し、エアロックが開いて人が飛び出してきた。


「TRINITY.だ! その男はこちらが預かる!」

「何ですか? いきなり横槍を入れるとは、いくらトリニティでも横柄なのではありませんか?」

「事は貴殿が考えていることよりずっと重大だ、大人しく引き渡せ」

「あ、あのー...」


ダメだ。

完全に言い争いが始まってしまった。

だがその時、言い争っていた男がこちらを向いて言った。


「貴殿の身元は我々が保証する、こちらの男よりは話を聞くし、事情も分かってやれるつもりだ」

「警察風情が偉そうに、私はあくまでも怪しい人物を拘留して、事情を聴取するだけですよ!」

「この男の話は、機密では済まない可能性がある!」

「知る権利はあるでしょう!」


なんというか、この国大丈夫かな。

お兄ちゃんが見たら、速攻で出国しそうだ。

でも私はお兄ちゃんのように思い切りのつく人間ではないので、もう少しいてみる事にする。


「もういい! カルとかいったな、船に来てくれるか?」

「行こう」


私は腕時計型のデバイスを操作して、船のハッチを閉めた。

そして、駆け出す男に続いた。


「君の船はいいのか?」

「問題ない、ステーション内で使える兵装如きでは、あの船のシールドは破れない」

「自信満々だな」

「実際に見ればわかるだろう」


例えステーションが自爆しようと、爆炎に直接接触しなければ必ず無事なシールドだ。

ビームライフルやレーザーガンごときでは傷一つつかない。

私たちはTRINITY.の船に乗り込み、男はハッチを閉じた。


「......ディエゴ・アレンスターだ、君は?」

「カル。カル・クロカワだ」


私はそう名乗る。

黒川と名乗っていれば、いつかお兄ちゃんに会えると思って。

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