006-『TRINITY.』
海賊の拠点は、まさに宝の山だった。
まず、大量の冷凍食品と水。
これはまぁ、ありがたく頂こうかなという感じだが、何より違法物品っぽいものが多すぎる。
死体だの、それを利用した謎のクリーチャーっぽいのだの......奴隷だの。
「どうすればいいの...?」
流石に奴隷は連れていけない。
酷い扱いを受けていたらしくて、艦内で生活させても出来ることは力仕事だけ。
力仕事ができても、アドアステラでは基本的にあまり需要がない。
とはいえ、このまま置いて行っても彼らは餓死するだろう。
「言われたことしかできないように調教されてるんだもんなぁ...」
息を吸え、食事をしろ、眠れ......
その全てが、脳内に埋め込まれているらしいチップで制御されていると、医療スキャナーは判断していた。
勿論自我も殆どないし、話し相手にはなってくれそうにない。
「うーん...」
こいつらは自分で考えて動く能力をとにかく剥奪されていて、もう人間としても生きていけないかもしれない。
でも見捨てるのはなぁ...
お兄ちゃんが聞いたら、「生きている人間なら助けてやれ。そいつがナイフを持ってない限りはな」って言うだろうし。
「よし、助けよう」
アドアステラの医療ポッドなら、電極の除去とメンタルケアくらいは出来るはず。
というわけで、男女の奴隷12人も回収。
そして、最後はデータなわけだけど...
「つ、使えない...」
この星系の周囲の星系図しかない。
しかも、ステーションのデータの他に海軍や警備隊の基地のデータまである。
「まあいいや、撤収!」
私はドローンを引き揚げさせ、ハイパージャンプで周辺の惑星軌道まで移動するのであった。
誰もいなくなった海賊の本拠地、そこに七隻の艦隊がワープしてきた。
戦艦二隻、駆逐艦五隻で構成された艦隊であり、その船体には「TRINITY.」という文字と何かの紋章がプリントされていた。
その艦橋では、船長帽を被った金髪の男が報告を聞いていた。
「子爵様、何か変です」
「警視と呼びなさい」
「アレンスター警視、敵構造物からの生命反応が確認できません」
「なんだと?」
予想外の事態に、警視と呼ばれた男はもっと接近するように指示を出す。
「デブリを複数確認、艦船の残骸です」
「戦闘後か...しかし、何と戦った?」
この辺の宙域には、海賊は一つしかない。
海軍から横流しされた巡洋艦を持つ彼らに、民間の宇宙船で勝てる訳もない。
「警視、構造物の動力も沈黙していました」
「何か証拠になるようなものは?」
「フリゲート艦のブラックボックスを回収して解析してみます!」
「頼む」
アレンスターらは、構造物の中にも侵入して調べを進める。
「物資が完全になくなっていますね」
「水も食料もか?」
「はい、鉱物の類もです」
「やはり他の海賊団の襲撃か...?」
「警視、薬物や違法物品の類は残留しています!」
部下の報告に、アレンスターは頭を抱える。
「は? では、一体何が目的なんだ?」
巡洋艦を相手にするには、駆逐艦級の戦力が必要だ。
だというのに、相手はそれを倒して、奪ったものは食料と水、鉱物だけ。
奴隷の檻が空になっているとはいえ、違法物品を売ればかなりの儲けになるはずだというのに...それらは奪われず残存しているのだ。
「アレンスター警視、報告がありました! 他のダミーの基地は完全に無事です!」
「となると...この基地はジャミングで隠されていたわけか」
そのジャミングを打ち破り、巡洋艦を破壊して、違法物品すら奪わずにどこかへ行った存在。
警視としては、軽視できない問題であった。
『アレンスター警視、ブラックボックスの解析が終了しました!』
その時、部下から報告が入る。
「わかった、すぐに戻る!」
アレンスター警視は乗艦へと戻り、ブラックボックスに残された映像記録を見る。
「なんだこの船は...既存のどの国籍の船でもないぞ...」
「侵略者の類でしょうか...?」
「いや、それならば我々に直接コンタクトするだろう。こんなケチな真似はしないはずだ」
アレンスター警視は過去に起きた大虐殺を知っている人間だ。
この世界には「エミド」と呼ばれる勢力があり、愚かにも「TRINITY.」に所属する国家の一つがそれの逆鱗に触れてしまったのだ。
エミドは即座にその星間国家に宣戦布告を行い、10日もかからずにその星系は粉々に破壊された。
何百億という人間が死んだ、歴史に残る大虐殺であった。
「あの時の船は恐ろしい強さだった。それに比べれば、この船はまだ常識の範囲内だ」
もっとも、積んでいる小型の飛翔体の正体もわからない以上は無視もできないが。
「警視、なぜ逃げなかったんでしょうか?」
「他の基地の位置も特定されていたと見たほうがいいだろうな」
「しかし、適当な位置に逃げてから戻れば...もしかして、ワープを妨害する方法を相手は持っているのでは?」
部下の震える声を聞きながら、アレンスターは大笑いした。
「ハッハッハ、あり得るはずがない。ワープを妨害する手段なんて、どれほどの技術があっても無理だろう」
ワープすら、アレンスターたちの文明にとっては先進的な技術である。
それを超える技術など、想像すらもできなかったのだ。
「とりあえず基地に帰投する、全艦連動ワープ!」
「全艦連動!」
艦隊は一斉に方向を変え、基地に向かってジャンプアウトしていった。
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