005-基地殲滅

まずは通信帯域をジャックして、奴らの通信を傍受する。

ハッキングは自動で行われて、あっという間に暗号化通信を解析し終わる。


『ガガッ......こちらランバル、敵のワープアウトを確認!』

『ランブ、冗談だろ? 異常な次元振動なんて検知...』


少し脅かしてやろう。

お兄ちゃんなら、無言で敵基地にノヴァ核反応弾頭のスマートミサイルをぶち込んでいただろうけど、私はあえて逆を行く。

レーザー砲の照準を基地のレーダーに合わせる。


『照準固定、発射準備完了』

「撃てぇ!」


レーザー砲にチャージされていた高出力のエネルギーがクリスタルによって変調され、収束した状態で二連装砲塔から放たれる。

真っ直ぐに飛んだそれは、基地のレーダーに直撃した。


「あれ?」


しかし、被害はレーダーだけに留まらず、爆風でその周辺にまで熱ダメージが拡散した。

こんなところにまで影響が出るんだ。

次からは気をつけないと、お兄ちゃんに近づくなんて一生無理だ。


「コルベット、フリゲートともに出航を確認。ターゲット開始、ジャミング起動。巨大構造物の周囲を旋回、アフターバーナー起動」


指示を口に出す。

お兄ちゃんが見守ってくれている、お兄ちゃんが私に指示をくれる。

そう思うだけで、何か心強い。


「ドローン射出! リーパー4! ブリッツシージ3! デュヴァーン3!」


ドローンを機体下部の格納庫から降ろしていく。

リーパーは死神の名の通り、「遮蔽装置」と呼ばれる超高性能な光学迷彩を起動してステルス状態になり、敵まで接近して射撃するドローンだ。

ブリッツシージは超高速で飛びつつ射撃を行う高機動ドローンで、リーパーが遮蔽装置を起動するまでの時間稼ぎを行う。

デュヴァーンは英雄の盾の名を冠したドローンであり、私の船の起動に追随しながら射撃を行うタイプのドローンになる。


『翻訳シークエンス、正常に完了。戦術オーバーレイ更新』


敵の艦種名が翻訳され、日本語で表示されるようになる。


「アルゴリズム級コルベット二隻、フロムネイター級フリゲート一隻か。武装の解析は.....きゃっ!?」


その時。

轟音と共にコックピットが激しく揺れる。

構造物からの射撃が、船尾に当たったようだ。


「シールド残り....」


◇AD-Astral・Per-Aspera 襲撃型重巡洋艦

シールド:14891/15000

アーマー:50000/50000

コア:100/100


「.......弱いなあ」


うん。

回復量を上回るダメージを与えることはできないようで安心した。


『クソッ! 何で当たらねえんだ!』

『ジャミングが激しすぎる! それに旋回速度が間に合わねえんだよ!』

『大体なんなんだよ! あの船! あのサイズでコルベットより速いとか!』


この船はSNOで一番早いナイトメア級超高速駆逐艦より少しだけ遅い程度。

ナイトメア級は速度の代わりに防御力が薄いのが難点だけど、この船にはそれがない。


『よし、近づけば当たる!』


気付くと、シールドにダメージが入っていた。

でも、微々たるものだ。

それよりも.....


「感謝しないといけないね! ――――「パンチは近づけば当たるが、それはつまり相手もお前を殴れるって事だ」!」


既に照準は合っている。

露出していたパルスレーザーが旋回し、追随してきていたフロムネイターを撃つ。


『クソ! 撃たれてる、離脱――――』

「もう遅いよ」


デュヴァーンの攻撃対象プライマリは既にフロムネイターに移っている。

そして、デュヴァーンには攻撃以外にもう一つの力がある。


『ダメだ! 速度が出ない、引っ張られてっ!』

「知らなきゃ無理だよね、こんなの」


デュヴァーンには「TractorAnchorLaser(通称:TAL)」が積まれている。

トラクタービームで敵を引き寄せ、速度を下げる効果があるのだ。ドローン程度の出力じゃ振り切られることも多いけど。


「では、アデュー」


パルスレーザーがシールドを剥がし、そこにデュヴァーンの猛攻が刺さってアーマーを貫通。


『だ、脱出する!』


ギリギリで間に合って、フロムネイターが爆発する瞬間にポッドが飛び出した。

ま、シールドもアーマーも貧弱でワープ能力もないので即撃墜だけど。


『ちくしょおおおおおお!!』

「エサ、その2登場」


「仲間が死んだくらいで戦略を捨てるのはバカのやる事」。

お兄ちゃんならそれくらい言うだろう。

実際、「俺が事故とかで死んだら黒歴史を隠滅しろ、3時間以内にだぞ」は頼まれてたし。

レーザー砲は当たらないし、だいいちフリゲート相手のためのものじゃない。

パルスレーザーで打撃を加える。


『ランブ、近づくな! 逃げろ!』

『黙れ、どこかに弱点が...』


弱点なんかないよ。

お兄ちゃんが考えた組み合わせしか装備しないんだから!


『くそっ、離脱する!』

「スマートミサイル、オンライン!」


スマートミサイルの速度は、船のパッシブで強化されたライトミサイルよりも早く、威力はモノによるけれど、ミサイルの上位互換であるトルピードやジャベリンを上回ることもある。

何よりその性能は、旋回速度にある。


『ダメだ、振り切れ――――』


一つ目のスマートミサイルが進路上で破裂し、アルゴリズム級の前に破片をばら撒く。

それによってアルゴリズム級は進路変更を余儀なくされ、速度が落ちた。

二つ目のミサイルがそこに向けて飛び、至近距離で爆発。

破片によって両側から襲われたフリゲートは、一瞬で蜂の巣になり沈黙した。


『クソ...』


それからしばらくは沈黙が続く。

睨み合いに突入したからだ。


「ふんふーん」


「油断する時は油断しながら警戒するもんだ」とお兄ちゃんが言っていたので、私もそれに従う。

今敵は、城塞内に存在している巡洋艦クルーザークラスを出し渋っているはずだ。

だからこそ、私の気が緩む隙を窺っている。

でも大丈夫、私には秘密兵器がある。


『ルカ!』


そして、私がうとうとし始めた時にそれは発動した。

要塞から誘導弾が放たれたことを警告するアラートが。

お兄ちゃんの声が私の耳に届く。


「迎撃指示」


デュヴァーンが即座に応戦し、誘導弾をはたき落とす。


「仕方ない、蜂の巣を突いてみようか...」


出てこないつもりなら仕方ない。

私はスマートミサイルの弾倉を一度空にして、別の弾頭に切り替える。


「バンカーバスター弾頭、受けてみなよ」


小惑星表面の地下基地攻撃用のバンカーバスター弾頭が、建造物を直撃する。


『ぐあああっ!』

『ペズンっ!? やりやがったな!』


たまたま生存者を巻き込んだようで、通信のうち一つがブツンと切れた。

煽るように、低出力に絞ったパルスレーザーで建造物中の装甲に穴を開けていく。


『ブッ殺す!』


よし。

建造物から、クルーザーが現れた。

名前は...リシモス級巡洋艦。

聞いたことないけど、形状からしておそらく元の艦を弄った感じかな。

データでは抹消痕があるから、元はこの世界の海軍船とかだったのかもしれない。


「! ミサイル艦か」


リシモスは六つのミサイルを放ってくる。

その速度は遅いが、火力は馬鹿にできない。

パルスレーザーで迎撃し、デュヴァーンでダメ押しの弾幕を張る。

リーパーをリシモスの周囲に展開し、ブリッツシージを格納する。


「ふっふっふ、こっちの罠にかかったね! パラノイア出撃!」


パラノイア。

それは、宇宙を旅する輸送艦にとっては恐怖の対象。

まさに悪夢の権化といっても間違いはない。

そう、パラノイアの持つ装備は、ワープ妨害なのだ。

ワープ妨害というのは、コンピューターのリソースを大きく食らうモノであり、装備するだけでその船は多彩な戦術から切り離されることになる。

だが、パラノイアがあれば......その必要はない。

勿論ドローンを操作するリソースは食うが、大型ドローンであるパラノイアは独自のコンピューターでワープ妨害ジャミングを機能させているのだ。


『ま、待ってくれ!』


その時、通信網が開放されて敵が命乞いをしてきた。


「どうした?」


お兄ちゃんエミュを発動!

なるべく大振りになるように答える。


『頼む、助けてくれ! 命だけは...!』

「お前たちは今まで屠った獲物の数を覚えてるか?」

『な...何を...』

「残念だ」


射撃ボタンをポチ。

レーザータレットから放たれた光線が、一撃でリシモスのシールドを貫通する。

リーパーが遮蔽を解除してあらわれ、射撃を開始する。


『お前には人の心ってもんが無いのかよ!』

「ふっ、人の心?」


お兄ちゃんが聞いたら高笑いするだろう。

自分に人の心があるのかと聞かれたら。


「あるわけがないだろう、それが人間ってものだからな」

『てめえ...』

「では、アデュー」


砲撃がリシモス級を貫通し、リシモス級はワープコアの爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。

破片に巻き込まれる前にパラノイアとリーパーが離脱していく。

どうやらあのクルーザーが最後の切り札だったらしく、生存者の反応は完全に失われた。


「ドローン全機帰投。回収ドローンを向かわせる」


パラノイア、リーパー、デュヴァーンを収納し、回収ドローンのクロウグラップを向かわせる。

バラバラになった船をロボットアームで掻き分け、使えそうなパーツやレアメタル、モジュール、物資と文字通りなんでも回収する。

その間にアドアステラは、構造物へと向かうのだった。

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