004-海賊狩り

この船のスキャンは、超高密度ナノ粒子スキャンという特殊な方法で行われる。

カプセルを複数射出して、爆発させることで、自己増殖型のナノマシンによる絨毯爆撃のようなスキャニングと、超高速リレー通信による情報伝達が行われる。

......って、お兄ちゃんが言ってた。

私にはさっぱりだったけれど、お兄ちゃんは普通見ないようなゲームの資料でもちゃんと読んで記憶してるからすごい。


「ふむふむ...前哨基地らしき中型建造物四つ、そのうち稼働しているのは二つ。係留されている船は八隻ずつだけど、多分放棄されてるな...それで、恒星の軌道上の“月”に超大型の基地が一つ。係留してる船は...まあ、そんなでもないか」


正直他の基地を狙ってもうまみはない。

あくまで前哨基地であり、この世界にも存在すると思う警察の目を誤魔化すためのデコイだから。

ジャミングを全開にしてセンサーから逃れているような超巨大基地とは格が違う。


「武装までは分からないか...まあでも、割と何とかなるかな?」


これくらいなら、NPCとのPvE戦とあまりやる事は変わらない。

これがPvPなら、コンステレーション中から味方を呼んできて死ぬのは私だけれど...

どうもこの宙域にはスターゲートもコンステレーション間の長距離ワープに必要なジャンプピンガーもないので、救援はおそらく来ないだろう。

もちろん未稼働の状態で放置されてたら分からないし、油断はできないけれどね。


「そうと決まれば早速準備だね」


お兄ちゃんの言葉を借りるなら、「準備は入念に、100%勝てる戦いを120%にしておくんだ」って事だ。

そうすれば20%足りなくて負ける時に、100%で勝つことができる。


「今回使用するのはこちらの装備...って、一人じゃ意味ないか」


今回私が使う装備は、まずパルスレーザーに連射用変調クリスタルを装備。

コルベットとフリゲートのお掃除にはこれが欠かせない。

そして、レーザータレットに遠距離用の高出力で収束型の変調クリスタルを装備。

今回はあくまで敵の掃討が目的で、ストラクチャーに攻撃を加えると物資とデータが失われてしまう。

スマートミサイルはフラグメント弾頭へと切り替えた。

フラグメント弾頭は、爆発によるダメージではなく爆裂することで破片を飛ばしてダメージを与えるタイプのスマートミサイルだ。

スマート/ライト/ヘビー/クルーズ/アルティメットと分類されるミサイルだが、実はフラグメント弾頭に限り使いやすさではスマートが最高なのだ。

ミサイルは小さければ小さいほど速く、捉えにくい。

その分航続距離が犠牲になるけどね...


「そして最後!」


もう拠点を特定している以上、ワープ妨害は意味をなさない。

だからこそ、私は全てを破壊する兵器をこの船に搭載した。


「あとは防御系とかだけど、今更間違えるわけもないしなぁ」


夢に出てくるほど見たモジュールたちだ。形を間違える事はない。


「よぉーし、出発しようか」


場所はここから10万光年先。

本来であればワープするところだけど、ワープだと敵に勘付かれる。


「ハイパースペースサーチ!」


ハイパースペース航行。

この宇宙とは異なる次元へとダイブして、時間軸や現実空間とはズレた座標軸をもとに移動する旅のお供。

ハイパースペースへの入り口を探さなければいけないんだけど...


「この辺にはないか...」


やっぱりそう簡単にはいかないか。

でも問題ない、なければ作るだけだから。


「ハイパースペースフィールドジェネレーター起動!」


HyperSpaceFieldGenerator、通称HSFG。

それを起動し、簡易型ワームホールを作り出した。


「ハイパードライブ起動!」


ハイパースペース内では通常の推進装置はエネルギー出力を維持できない。

ハイパードライブを起動し、アドアステラはハイパースペースへと突入する。


「っぉお!」


ドォン! という轟音と共に、あらゆる色の光線が飛び交う空間へとアドアステラは飛び込んだ。

慌ててブリッジの閃光防御を展開して、極彩色の空間のダメージを軽減する。


「あと13秒!」


ハイパースペース内での移動は、光が進む何万倍もの速度で行われる。

理屈で言うならば、自分で撃ったレーザーを追い越して、自分で自分に被弾させることもできるのだ。


『まもなく、ハイパースペーストンネルを離脱します。衝撃に備え、再起動をお待ちください』


直後、光が弾ける。

マスクの光量抑制機能がそれを軽減し、ほぼ同時に私の視界に巨大な建造物が映る。

一拍置いてシステムが再起動し、コンソール類が光を放つ。


「さぁ、戦闘開始だっ!」


初の全力戦闘が、幕を開けた。

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