TS悪役令嬢の魔法革命~追放後スローライフのためにクズどもを超能力で「ざまぁ」することにしました~

ケロ王

プロローグ 女の子として生きたいだけですわ

俺――リコリス・ローゼンバーグの視線の先、砦を見下ろせる丘の上には金獅子騎士団きんじしきしだんだった者たちの夥しい死体の山が築かれていた。


彼らは1000名にも及ぶ大軍を率いて、俺が領主をつとめるガベージ公国へと侵攻した。

しかし、俺の前世の知識によって魔法――前世では超能力と呼ばれていた――を使えるようになった国民、総勢120名によって30分足らずで全滅した。

彼らの罪は、さしずめ平和に生きたいと願う俺の生活を踏みにじろうとしたことであろう。


もちろん、王国の精鋭部隊である彼らと相対するのは容易ではない。

しかし、前世において超能力として研究されつくした力は、この世界の魔法と比べると爆撃機と竹槍ほどの差があった。

実際に彼らとの戦いは、悠長に馬で駆けてくる騎兵や呪文を唱える魔法兵に対し、こちらは一瞬で地震や嵐を起こして動きを封じた挙句、無数の燃え盛る巨岩や電撃をお見舞いして一網打尽にしただけのことであった。


「ふふふ、これも全て、ワタクシの平和な生活を邪魔した王国が悪いのですのよ」


その力で瞬く間に周辺諸国を支配下に置いた女王、リコリス・ローゼンバーグ。


彼女の伝説の始まりは前世まで遡る……。


===============


俺――柴胡一郎は、小さいころから超能力に対して懐疑的であった。

そのため、周囲の人間の中には超能力の存在を信じている者もいたが、俺はそいつらのことを『中二病』と言って嘲笑っていた。

そんな俺だったが、信じている人類の可能性が一つだけあった。

それがTS(女体化)である。


どちらが現実的かなど、考えるまでもない。

何故なら、俺の周りに超能力を使える人間は一人もいなかったが、女性は何人もいるからである。


「TSは現実リアルだ。超能力なんて虚構フィクションと一緒にするな。」


これが俺の信念だったが、何故か周囲の人間は俺のことを『中二病』と言ってきた。

それは、俺にとって酷い侮辱であった。

その悔しさをバネにして、猛勉強をして薬学部に進み、最先端の研究室に入って、TS薬の開発に邁進した。


「くそっ、何故だ! 女性はたくさんいるのに、なぜTS薬が作れないのだ!」


目指すゴールである女性はたくさんいるのに、スタート地点である男性からゴールである女性への道筋が全く見えなかった。

俺は狂ったように、TSする可能性のある遺伝子を改変を目的とした薬を作り続けた。


そんなある日、いつものように作り出したTS薬(仮)を飲んだところ、全身に猛烈な痛みと熱が襲ってきた。

俺は事前に調べた情報(同人誌など)から、これはTSするときの前兆だと確信した。


しかし痛みや熱がおさまっても、身体は依然として男のままだった。

その代わり、俺は自分の不思議な光の空間が見えるようになっていた。

後に精神領域サイコスペースと呼ばれる空間を操作することによって、俺は手を触れずに物を動かしたり、密閉された容器の中身を見ることができるようになっていた。


「バカな! 超能力が、実在する、だと?!」


俺は、自分が超能力を使えるようになってしまったことを知って愕然とした。


「俺は『中二病』になってしまったのか……?!」


侮蔑の対象であった『中二病』になってしまった俺は、ショックのあまり片付けもせず、朦朧とした意識のまま家に帰った。


翌日、研究室に戻ると中で教授が待っていた。


「柴胡君、昨日君が発明した薬、素晴らしいね。早速、学会に論文と一緒に送っておいたよ」


「え、教授の名前で、ですよね?」


「何を言ってるんだい。君が開発したんだから、もちろん君の名前さ」


教授は学生の手柄を自分のものにするような下劣な人間ではなかった。

常々、学生であっても素晴らしい成果は認められるべきと言っている、素晴らしい人である。

しかし、この時ばかりは、それが仇となった。


「いやいや、俺の研究はTS薬の開発なんですよ……。今からでも教授の名前に変えてもらえませんか?」


「何を言っているんだね。君の素晴らしい発明は全世界に広めるべきだと思うのだよ。それに、もう学会に論文を送ってしまったからね。手遅れと言うやつだよ。はっはっは」


こうして、彼の素晴らしい人間性によって、俺は不本意にも超能力薬の研究者として一躍有名になってしまった。

さらに不幸なことに、その分野における才能があったらしく、次々と新しい発明や発見をしてしまった。

その結果、俺のTS薬開発の研究は滞っていった。


一方で、それを面白く思わない、アメリカやロシア、中国などの大国は、俺の研究を潰そうと、連日のようにマスコミを使った誹謗中傷を行ってきた。

俺もTS薬の研究を続けたかったため、心の中では彼らの応援していた。


俺の研究を貶めつつ、彼らは並行して自分たちの研究を進めていた。

しかし、彼らの作った超能力薬は効果が不安定だったり、副作用が大きかったりして、超能力薬は危険なものだという世論が作られつつあった。


その世論に押されるようにして、俺の開発した超能力薬の臨床試験が公開で行われた。

その試験に参加した人たちの超能力覚醒率は100%であった。

さらには何回も追跡調査で副作用の発症を調べたが、誰一人として発症しなかった。

その結果により、俺の開発した超能力薬だけが本物とされ、ますます、俺の名声は高まっていった。


「くそっ、アメリカもロシアも中国も、その程度かよ! ロビー活動なんてしてないで、ちゃんと薬作れよ!」


俺は彼らの不甲斐なさに怒り狂ったが、彼らはより良い薬を作るのではなく、俺を暗殺する方向にシフトしてきた。


「くそっ、お前らまじめにやれよ! 俺をどうこうする前にまともなものを作れよ!」


超能力研究と暗殺者対応により、ついにTS薬の研究が完全にストップしていた。

その怒りは自然と暗殺者へと向かっていく。


「貴様が柴胡一郎だな。貴様の命、貰い――」


俺は暗殺者の前口上が終わる前に、彼の周囲の重力ベクトルをかき乱した。

全身に掛かる重量の方向がめちゃくちゃになったことで、その身体が一瞬にして肉塊と化した。


「はぁはぁ、くそっ、毎日毎日、鬱陶しい……」


暗殺者を返り討ちにするのは大した問題ではなかったが、さすがの俺も毎日のように襲ってくる暗殺者の対応に疲労がピークに達していた。

そのせいで注意力が散漫になっていた俺は、油断して背後からバッサリと斬られてしまった。

とっさに斬りつけてきた男を肉塊へと変えたが、その一撃は思ったよりも深く、明らかに致命傷だった。


「くそっ! まだTS薬が完成してないんだぞ! こんなところで死ねるかよ!」


しかし、俺の意識は次第に薄れていく。


「くそぉぉぉぉ! 俺は! 俺は! TSしたいだけだったんだよぉぉぉ!」


その言葉を残して、俺の意識は暗い闇の底へと沈んでいった。

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