042-エミドの秘密

ジェキドは、戦いの行く末を見つめていた。

数の力による高速拠点構築により、後は係留を待つのみとなった基地に対して、敵がどう出るかを。


「シールド転送装置の出力、安定しません」

「恐るべき技術力だな」


キシナの報告に、ジェキドは唸る。

Ve’zから回収した技術であるシールド転送装置は、エミドの圧倒的な技術力を以てしても解析不可能で、仕方なくそのまま利用しているのだが――――


「我らの誇る『バクタの井戸』から引き出すエネルギーですら、この装置を動かすには少々不安定という訳だな」


バクタの井戸とは、エミドの本拠地に存在する超巨大なホワイトホールである。

膨大なエネルギーを吐き出すホワイトホールは、エネルギー転送装置によってエミドの艦船にエネルギーを供給している。

本星と遮断されたエミド艦が動かなくなるのは、これが理由である。

無限のエネルギー。

しかしそれは、一度に引き出せる量が制限されたうえでのものであり、エミドが常に小規模で動く理由でもあった。


「その圧倒的な力――――この宇宙の秩序と平和のためには危険すぎる。滅ぼさなくてはなるまい」


ジェキドはそう呟く。

キシナはその背中をじっと見ていた。







エミド艦隊が動き始めた。

それと同時に、こちらもワームホールからアドラス艦隊を出撃させる。


『が、頑張ります!』


アドラスは僕の前だと自信なさげに振る舞うが、元々ワームホール内の星々を暇つぶしに蹂躙していたような存在である。

この程度の敵相手に緊張するようなタチではないだろう。


「グレゴル、ポラノル、丁度いい。お前たちも出ろ」

『はいはーい!』

『本意ではありませんが、良いでしょう』


ポラノル達の機体性能も見ておきたい。

僕は、アロウト外部のカメラを開いて出撃する二人を見た。

ポラノルは中型程度、グレゴルは超大型の艦体だ。


「エミド艦隊は残留隊と迎撃隊に分かれたようです」

「なんのために?」

「恐らく、残留組はシールドの維持に使われるのでしょう」

「...成程な」


エミドは巨大なホワイトホールからエネルギーを得ており、引き出せる量は蛇口の数に比例する。

あのシールド発生装置に、緊急でエネルギーを注ぎ込むために、あれらの船は存在しているのだろう。


「哀れとは思わないが、人間とはこうでもしなければ統合を果たせないんだろうな」

「.........」

『.........』


カサンドラとケルビスが黙り込む。

おおかたエリスのことを考えているのだろう。

僕もエリスのことを考えていた。

僕にはエリスの気持ちはわからないし、たまに僕を見透したように振る舞うエリスですら、僕の本質を見ているわけではない。

これが数千数万パターン存在していれば、一つに纏めたくなるのも分からないではない。


「まあ、それはそれとして...」


僕は、アドラス達の戦いを見守った。

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