025-里帰り

「とはいえ、計画を止めるわけにはいかないからな」


僕は、四日連続で惑星を選定していた。

時間を止めた数千の惑星から、

「人間がおらず」、「豊富な鉱物/燃料資源が存在し」、「『宝物殿』から取り出しやすい」惑星を。


「......エリアス、ご飯持って来たわよ」

「ありがとう」


これでもカサンドラが絞り込んできてくれた方だ。

『宝物殿』と呼ばれる、基地の宇宙空間ではない亜空間に、Ve’zの宝物の全てがある。

かつて世界を混沌に陥れた惑星破壊兵器や、惑星を新たに創造する装置も。

だが、前者はVe’zの陥った「虚無」状態により、飽きて使われなくなり、後者は構造の欠陥が発覚し封印されたのだ。


「ねえ、エリアスは普段何をしてるの?」

「僕?」


エリスが尋ねてくる。

普段か。

何もすることのない時間は、短期睡眠をクローンの寿命を削る形で実行している。

それ以外は、惑星の様子を閲覧したり、読書をしたり、エクスティラノス達との意思疎通を図っている。


「星を眺めたり、本を読んだりしている」

「私とだいたい同じね」

「....エリスは?」

「私も同じよ! 図書館の本、凄い数よね」

「ああ、ありとあらゆる星々の、全ての国の全てのジャンルの本があるらしいからな」


Ve’zの本質はもうとっくに失われたが、初期命令は生きている。

シーシャは命令を守ったのだ。


「ねぇ、エリアス」

「どうした?」


僕が聞き返すと、背後でエリスが少し離れたのが見えた。


「私、ちょっと行きたいところがあるんだけど」

「どこだ?」

「オルトス領内の、ガゼラーク星系、その端にあるガゼラークⅣよ」

「.....」

「逃げやしないわよ! あそこに残してきた家族がいるの! 彼らに感謝と別れを告げないと」

「.....別に、後生の別れというわけではないぞ?」

「え?」

「ん?」


僕とエリスはしばらく固まった。

エリスが固まっているので、復帰も早かったが僕も黙っておく。


「........そのために、私をさらったんじゃ?」

「別に、行動まで縛る気はない。死にさえしなければ、どこに行っても、何をしても自由だ」


全ては無駄だと理解しているからこそやらないが、僕も性格が違えば、クローン体で地上に降りて、「淫蕩」「金銭欲」「怒り」.......それに並ぶ欲望を満たしていたかもしれない。


「じゃあ......人のいない星に家を建ててもいいの?」

「何故、人がいない前提なんだ?」

「......もう失うのは嫌だから、人とは関わらないわ」

「成程な」


じゃあこれが最後か。

僕はケルビスに連絡を入れる。


『ハッ、何でしょうかエリアス様』

「オルトス領内への遠征軍の指揮をメッティーラに任せる、至急連絡を入れろ。それから、現地を刺激しないよう即座に隠密可能な部隊を編成、ワームホール生成器で現地までのルートを作れ」

『お任せください! メッティーラの部隊の指揮権をジェネラスに移譲してもよろしいですか?』

「構わない」


僕はそう言うと、エリスの方を見た。


「これでいいか?」

「....一人でこっそり帰りたかったんだけれど」

「勿論、送迎は任せろ.....僕は僕で、その星を見てみたい」

「....分かったわ」


というわけで、旅行の始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る