022-二人でお風呂

アロウトの復旧は完全に終了した。

だが、内部のスペースにはかつての住人のスペースがあったので、そこをエリス専用の住宅にする事にした。

この「クソ」が付くほど(普通の人間にとっては)何も無いこの都市アロウトを、エリスにとって住みやすい場所にするべく、僕が頑張って前の家を拡張したデザインで再現した。

その結果.......


「僕は身体が汚れないんだけど」

「一人じゃ寂しいのよ」


お風呂に同行させられる羽目になった。


「......オルトス王国では、こういうユニットバスは普通なのか?」

「? いいえ、そもそも、お湯を張ったり、お湯を浴びたりする文化がないわ」

「....そうか」

「大抵は高速除去カプセルに入って、不純物を全部落とすのよ」

「.....」


どうやら、科学の進んだ国らしい。

風情がないなとは思うけれど、効率を重視するとそういう結論になるのだろう。


「もしかして、温泉の文化もないのか?」

「おんせん?」

「体にいい物質を含む、天然の熱い湧き水の事だ」

「........知らないけど、そういう物質ならインジェクターで直接注入すればいいのよ」


科学が進むと、魔法とそう変わらないな。

そう思いつつ、エリスと一緒に浴槽に入る。


「何だか、温まるっていいわね」

「そうだな」


僕は話を合わせる。

Ve‘z人である僕は、暑さも寒さも全く感じない。

お湯の温もりすらも、この手からこぼれ落ちていく。


「......そういえば、あなたに熱いとか、寒いとかってあるの? 平気で真空の中で活動してるわよね」

「(ギク)」


バレてはならない。


「......オンオフできる」

「そうなのね」


何とか誤魔化せたか。


「......でも、どうして貴女は...私にこうまでしてくれるの?」

「.........」


痛いところを突かれた。

そんな感じだった。


「......お前が撃たれそうになった時、僕は咄嗟に飛び出した。危険や、仲間にかける迷惑は後回しで。同情や友情なんて安い感情で片付ける気は僕にはない。居てくれるだけで、この死んだ都市の中で、生きて輝いてくれているだけでいい」


多分、これが初恋なのか?

不思議な気持ちだ。


「あなたも辛い目に遭ったの?」

「......と言うよりは、寂しかった方に近いか?」

「私、そんなこと言われたの初めてよ、居てくれるだけでいい、なんて...」


その時、エリスは急に僕に距離を詰める。

攻撃かと思い、応戦しようとしたが、そのまま抱き締められた。


「...!?」

「私、ずっと、ずっと......生きてるだけじゃダメだと思ってたわ。自分に価値が無いから、動き続けることで価値を作って、それで人も私を見捨てないって思ってた」

「エリス...」


故郷のないエリスは、嫌になった時帰る場所がない。

心のよすががない。最後の砦というものが心にない。

だからきっと、不安だったのだろう。

ずっと。


「ごめんなさい、高貴なあなたには...」

「いや、もう少し離さないで」


僕は彼女の背に腕を回し、しばらくそのまま過ごした。







『ハァ...これが新しい知見...』


その様子を、遠隔で見ているものがいた。

シーシャである。

シーシャはメモリー内に、二人の様子を詳細に書き留めていた。


『主人とペットの、美しい愛...素晴らしいです』

『何をやっているのかな、シーシャ』


その時、映像が切断され、シーシャのエリア内にケルビスが入り込んで来る。


『エリアス様が真実の愛というものを、身を以って教えてくださっていたのです、私はそれを記録するまで...』

『真実の愛...成程、そういうことですか。そういう事であれば、君の行動を咎める理由にはならないね』


通信が回復し、エリアスとエリスが両手を合わせている映像が映る。


『ああ! これこそ真実の愛です!』

『困ったものだね』


存在しない頭痛を抱えながら、ケルビスは去っていく。

しかしながら、その心には敬愛するエリアスがその身で示した真意を、自分だけが理解しているという愉悦に浸っていた。

こうして、また日が過ぎるのであった。

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