シーズン1-悪夢の始まり

021-”睡眠”入手

「ん..........」


目を開けると、眼前にケルビスの顔があった。


「う....わっ」

「御目覚めですか! やはり、私めの理論は完璧だったようですね!」

「あ、ああ」


僕は今、何をしていたかと言うと、「睡眠実験」だ。

ケルビスの理論に基づき、短時間なら疑似的に睡眠ができるようになった。

負荷をかける形にはなるが、これでエリスとも暮らせる。


「エリアス様、次は何をなされるのですか?」

「農園に行く」

「わかりました!」


ケルビスは犬のように僕について回る。

二人で農園惑星にワープし、イモの様子を見る。


「順調に生育しているようですね、エリアス様」

「どうしてわかる?」

「正常な生育パターンのサンプルを採取いたしました」


褒めて褒めて、といった様子でもなく、僕の前にカプセルに入ったサンプルを差し出してくるケルビス。

僕はそれを受け取り、まじまじと観察する。


「実が小さいな」

「そうですね」

「まぁ、エリス一人分であれば困る大きさではないな」

「なんたる寛大なお考えでしょうか」


このくらいの大きさで、この周期で育つなら食事としては十分だ。

エネルギーブロックだけだと彼女には辛いだろうから。




戻ると、エリスは新設した練兵場にいた。

ジェネラスのアンドロイド体...厳しい顔をしたそいつに、体の動かし方を学んでいるようだ。


「腰の可動部はもう少し広いはずだ、なるべく動かせるように努めるのだ」

「ええ、そうするわ」

「よろしい......エリアス様!」


その時、僕の存在に気がついたジェネラスが駆け寄ってくる。

この浮遊都市の中では、大抵のAIがアンドロイドの姿で過ごすようになった。

僕と違ってアンドロイドの姿に意識を移しているだけなので、義体に何かあってもすぐに戻れるのだ。


「あっ、エリアス様!」


立て続けに、小さな義体が駆け寄ってくる。

タッティラ=エクスティラノスだ。

作業特化型のため、身軽な小型義体を使っているのだ。


「探していました、口頭での呼び出しにしか応じないようでしたので...四番ラインに不具合が生じました」

「原因は?」

「送信しておきました」


それを見ると、倉庫の資材不足だった。


「あー...済まない、一度全生産ラインを止めろ」

「はいっ!」


そういえば、資源の採取って以前はどうしていたんだろうか?

僕は気になって、エリアスの記憶を探る。

その時。


「ッ!?」


視界にノイズが走り、あらゆる接続がエラーを発する。

思わず僕はよろめき、膝を突いた。


『......は.........のか......?』

「何が......!?」


知っているような、知らないような声が、どこか遠くで響いて消えた。

ノイズにかき消されて、何を言っているかは全く聞き取れなかったが。


「エリアス様!?」

「エリアス!?」


その場にいた全員が、僕に駆け寄ってくる。

僕はそれを手で制すると、立ち上がる。


「......大丈夫だ、少し不具合が...クローンに意識を移す」


僕は近くの壁に寄ると、そこに自分の義体を埋め込んで自害する。

すぐにシステムが起動して、クローンへ意識が転送された。


「ハァ...ハァ...」


何だったんだ、今のは?

起き上がって、保存液が蒸発するのを確認する。

そのまま外に出ると、そこにエリスがいた。


「あ...あなた...」

「そ...その、すまない」


謝ろうとした僕に、エリスが飛びついてきた。


「だ、大丈夫!?」

「大丈夫、僕はクローン体を...」

「そうじゃない...心配したのよ、また...居なくなっちゃうんじゃないかって...」

「それは...」


みんな、同じなんだ。

僕は気付く。

僕は大切な弟に。

エリスは家族たちに。

Ve‘z達はエリアスに。

出会いたくても、もう会えない。

エリアスは僕じゃないから。


「ところで...その、僕、裸なんだが...」

「きゃあっ! は、早く服を着なさい!」


エリアスはVe‘zだが、女性的特徴はまだ身体に残っている。

エリスは飛び退くと、僕に向かって叫ぶ。


「そうするよ...」


僕は服を取りに、コアブロックへと移動するのであった。


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