020-プレリュード

「..........」


僕は、静かに目を開ける。


『クローンの正常な起動を確認。おはようございます、エリアス様』

「ああ」


起き上がってカプセルから出る。

カサンドラから衣服を受け取り、身につける。

それで、「再起動」試験は終了した。


「前のクローンは色々と不完全だったからな」


正確には、「再起動することを前提としていない」クローンだったのだ。

エリアス=アルティノスは自害したのだから。


『前回のテストを経て、必要な機能をいくつか足しておきました』

「ありがとう」


生地に衝撃・エネルギー耐性のための特殊繊維が編み込まれているようだ。

僕の肌と振れている間は、表面に偏向シールドを展開するようにもなっている。


「過剰じゃないか?」

『はい、ですが.....その』

「もう一人で突っ込んだりはしない」

『.......その言葉だけでも、嬉しい限りです』


僕は都市の外に出る。

外縁部はもうすっかり完成し、浮遊都市を守る三重のシールドの範囲と効果を増幅している。


「エリアス!」

「エリスか」


その時、エリスが駆けてくる。

僕はエリスの手を取り、共に都市の外縁部に向かう。

彼女と出会った場所に。


「本当に良かったのか?」

「ええ。私は.....私に、知恵のリンゴは要らないもの」

「そうか」


エリスはVe’z化手術を受けなかった。

ジェネラスが残念がっていたが、人間の身でも彼女の身体能力は高い。


「必要になるかは分からないが、Ve’z式格闘術を履修しておけ」

「ええ、そうするわ」


エリスはそう言って頷く。


「そういえば.....食事はどうしていたんだ?」


僕が再起動試験をしている間、彼女は空腹だったはずだ。

あの食事も確か完食したはずだ。


「それについては私めが。エネルギーパックをお渡ししました」

「ケルビスか」


ケルビスのアンドロイド体が、ゆっくりとこちらに向かってくる。

その手には、銀色のパックが握られている。


「エリアス様も頂かれますか?」

「やめておきなさい、美味しいものじゃないわ」

「知っている」


エリアスの記憶が教えてくれる。

中身は青白く発光する真四角のブロックで、そこそこ硬い上に無味無臭だ。

しかし栄養はある、所謂僕らの血液と似たようなパターンである。


「ケルビス、十二ツヴェルフ・暴君デスポートの帰還はどうだ?」

「現在は、アドラス、ポラノル、グレゴルとの連絡が取れており、早急に帰還される模様です。後のケイトリン、シュマル、ナルとの連絡は依然として取れません」

「そうか」


十二暴君とは、「エクスティラノス」系列の名を持つ十二体のAI機体を、僕が纏めて総称としてつけた名前だ。

ティラノスは、暴君という意味もある。

だから、ドイツ語でつけてみた。

前世の”友達”に知られたら、社会的に死ぬだろうが....まあ、それを知る者はもういない。


「ナルはもともとそういうヤツだからな」

「お恥ずかしい限りです」


ナル=ラストティラノスは、所謂最後の騎士的な変わったAIで、本当の緊急時にならなければ出てこないだろう。

独自の指揮系統と中規模の艦隊を率いていて、最後のエリアスの記憶では、人間側に取り入って組織を持っていたはずだ。


「まあ..........なんだ、ここはそういう組織なんでな、慣れろエリス」

「ええ....きっと、あなたがあなただから、”そういう組織”なのよ、エリアス」

「........?」


エリスの言葉の意図を測ることができず、僕は一日中考え続けるのであった。

こうして、僕たちの物語の序章は終わった。

だが、これは、新たな始まりに過ぎなかった。




僕の知らない、この宇宙を繋ぐ物語。

その終わりへと紡がれる大いなる流れ。

壮大な終焉への、静かなプレリュードでしかなかったのだ。

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