011-永劫の忠誠

『勅命の下に参じさせていただきました。貴女の不在を理由に、背を向けた私めをお許しください』

「....構わない、それより....変わってしまった僕を、君は受け入れてくれるか?」


ケルビス=エクスティラノス。

AIのなかでも、もっとも高い思考性能・攻撃性能・指揮性能を持つ。

人間ベースのエリアスでは、ケルビスのレベルに至るにはメインコンピューターを接続しなければ及べない。

僕が別人になったら、自由意思のあるエクスティラノスである彼は裏切るかもしれない。


『申し訳ございません!!』

「っ!?」


その時。

ケルビスは、触手の一つを引き千切った。

オレンジ色の血液が飛び散る。


『私めが裏切るかもしれないなどと、貴女様の思考にノイズを生んでしまったのは、全て私めの失態....しかし、この命は貴女様のモノ。この私めの身体の一部を以てして、自壊の許可を頂けはしませんかッ!!』


物凄い早口で喋りながら、抜いたばかりの触手を恭しく差し出すケルビス。

こ、こういうキャラだったのか。


「自壊?」

『あ、貴女様の前では、壊れる事すら罰には値しないという訳ですか.....なんなりと、罰をお与えください!』

「じゃあ.....そうだな、今後何があっても僕を信じろ、それでいいか?」

『そ、そのような罰で........成程、理解しました。そういう事ですか』


何を想像したんだろう。

怖いので聞かないでおく。

まずいな、エリアスの記憶と、アラタの記憶が混じって、ケルビスを信用するかしないかが判断しにくい。


「さぁ、話は終わりだ。......まずは、僕の畑仕事を手伝ってくれ」

『分かりました、敬愛すべき御主人様』


土いじりをした仲で裏切りはしないだろう。

そんな考えで、僕はケルビスの機体に乗り、共にあの惑星へと飛んだのだった。







『おーやおや、相変わらず君は、その大きな頭脳に、ノイズをたっぷり詰めているんだねェ』


人工知能の機体が集う場所、「セントラルエリア」にて。

会議の間に入室したケルビスは、カサンドラをそのように揶揄した。


『エリアス様に最も自由な意志を与えられているからと、調子に乗らないでください。私は権限状ではあなたより上です、あなたがこの都市ヴェリアノスを離れたせいで』

『ただ裏切ったとでも?』


ケルビスはアイカメラを不気味に発光させる。


『芽を摘み取っていたのですよ、主様が戻られた時、その眼前に汚い花が咲かぬよう』

『あなたの行動は、あまりにも軽率すぎます』

『弱き人間は、愚かですからね。慎重に動かざるを得なかった結果とはいえ、奴らがワープ航法に辿り着いてしまったのは失態でした』


ケルビスは強いが、惑星を滅ぼす力は持っていない。

それはエリアス自体もそうだ。

それを起こすには、ヴェリアノス内の亜空間に格納されている兵器が必要だが、それを使うにはエリアスの許可が必要だ。

それ故に、惑星上で開発されたワープ技術の発展と、それによる国家の拡大を食い止めることはできなかったのだ。


『ですが、主様は私めをお許しになられたのです!』

『なんですって!?』


カサンドラは動揺した。

思考に影響はないが、インターフェースの動作に影響が生じるほどに。


『そればかりか、秘密の花園に私めをご招待いただき、”イモ”なる植物の生育に対する研究の成果を! この蒙昧なる私めにご教授頂いたのですよ!』

『なんと.....羨ましい.....』


その声を発したのは、シーシャだった。

「見聞を広め、知識を蓄えよ、その全てがVe’zの益となる。それを管理し、決して漏らすな」、そう命じられたシーシャは、自分の知らない知識をケルビスが持っていることに嫉妬していた。


『エリアス様の御目覚めに立ち会えず!』


ケルビスの語調が強まる。


『バカバカしく主様の命令を遂行する、などと! 慢心していた私を!』


触手が柱を破壊する。

カサンドラが溜息を吐く仕草をする。


『あの御方はお許しになられました! それだけではなく.....』

『それだけではなく.....?』

『罰をお与えくださったのです、「今後何があっても僕を信じろ」と!』

『それは.....罰ではないのでは?』


カサンドラは困惑した様子で尋ねる。

だが、そこでケルビスのアイカメラが輝く。


『やはり、貴方達の劣化した頭脳ユニットでは、エリアス様の深遠なるお考えは読めなかったようですね、これは私めを後腐れなく受け入れるための通過儀礼なのですよ』

『......そうなのですか?』


ケルビスは不思議そうに呟く。

飛躍した発想に辿り着くには、彼女は真面目過ぎたのだ。


『私は裏切りと同等の行為をしました。メッティーラやジェネラスが私のこの人工眼を目にすれば、必ずやエリアス様の居城を壊す勢いで大暴れするでしょう』

『なるほど.......エリアス様に「裏切るな」と言われた貴方ならば、もう罪も裏切る確率もない.....という事ですね』

『その通りです!』


ケルビスはそう言って、自慢げに目を輝かせた。

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