010-ケルビス帰還

「.........そうか」

「そうよ」


エリスは、オルトス王国のエージェントだったらしい。

カルメナスの基地に乗り込んで、情報を奪取したはいいものの、船を破壊されて仕方なく開発中の探検船に乗り込み、ワープしたらしい。

ただ、結果として時空の連続体...要は、時間断層に迷い込み、そこを脱出するためにワームホールに滑り込んだらしい。

結果として、宇宙の果てにあるヴェリアノスに到達したという訳だ。


「できれば、オルトスにデータを持ち帰りたいわ。回収したデータは.....」

「新型艦船のデータだな? ワープ速度、トラッキング精度に通常より改善がみられる」

「な、なんでっ!」


何でだろうか。

僕もわからないけれど、データの比較ではそんな感じだ。

カルメナスの平均的な戦闘機体より、スペックが少しだけ上だ。

だが、それは戦場に置いて、量産された場合を想定すると遥かな脅威となる。


「あの船からデータを回収させてもらった、あの新造船もVe’zの技術を一部転用したようだな」


カサンドラは『所詮は猿真似ですが、この部品の役割を理解できた技術レベルは称賛に値しますね』と言っていた。

シーシャは、あのパーツ見るなりそれを持ってどこかへ行ってしまった。


「.......消すの?」

「なぜそうなる?」

「あなた達は、自分たちの技術を奪う者を許さないでしょう?」

「.......」


そうなのか?

記憶を辿ると、遺跡から回収した技術を悪用した国家を破壊する事はあったらしい。


『カサンドラ、シーシャを止めろ。この時期に無駄な行動はさせるわけにはいかない』

『承諾しました』


戦わないでって願ってるんだが。

すぐ消そうとするのやめよう。


「.......お前は、王国と連絡を取る手段はあるか?」

「え、ええ.....通信機はあるけれど、帰してくれるの?」

「少し待て」


僕はカサンドラに連絡を取る。


『カサンドラ、Ve’zの通信妨害はどこまで有効だ?』

『既知宇宙全域に伸ばせますが、現在はヴェリアノスの存在する銀河周辺に展開しています』


既知宇宙の全域?

凄いな、Ve’zの技術。


「情報を渡せば、お前はここに住んでくれるか?」

「何が目的なの?」

「同居人でもいれば、少しは退屈も紛れると思ってな、家族は居るか? 親しい人間は?」

「.....いないわ、みんな死んだ.....エミドの反撃でね」


エミド。

この宇宙に存在する、Ve’z以外の明確な敵性体らしい。

過去に一度だけ、とある惑星がエミドの基地に艦隊を向かわせ、全滅した後にその本星が破壊された。

Ve’zにはとある面で劣るが遥かに高度な技術力を有する国家だ。


「........復讐か?」

「そんなようなものよ、故郷を滅ぼしたエミドに、私はただ逃げる事しかできなかった」

「惑星を再生する技術をこちらは有しているが」

「....結構よ、私の帰る場所はあるもの」

「記憶は消させてもらうが」

「構わないわ」


残念だ。

ここに残ってもらえるかと思ったけれど、こんな場所誰も住みたくないだろうな。

少なくとも、まともな人間なら。


「では、一週間後に出発する」

「.....どうして? あなたの領土を侵犯したのでしょう、何故私を?」


問題を起こしたくないからなのだが、どうせ記憶を消すので言わなくてもいいだろう。


「ついてこい」

「......何?」

「部屋に案内する、ここは医務室なのでな」


医務室で飯を喰ったり寝泊まりするのは、衛生的に....いや、自動の細菌分解があるので別に問題はないが、生理的に抵抗感があるので部屋を用意した。

浮遊都市は僕の意志通りに形状を変化させるので、監獄より少々マシな程度の部屋を作るのは簡単だった。


「......ここ?」

「不満だったか?」

「......あなたもこういう部屋で?」

「僕は睡眠ができないんだ」


睡眠。

ベッドに横になって目を閉じれば、数時間をスキップできる最強の切り札。

僕もやりたいが、この体の構造的に不可能だ。

疲れないので、睡眠の機能がないのだ。


「.....その、ありがと」

「ゆっくり眠れ」


僕は部屋を後にする。

そして、素早く都市の外縁にワープ。

息を吐き出した。


「はぁ~~.....」


緊張した。

人間と話すのは、疲れる。

そういう面では、僕もカサンドラ達と同類なのかもしれない。


『おやおや、何かお悩みのご様子ですね――――貴方ほどの賢き御方が、そのように悩んでいらっしゃるとは、これはやんごとなき事情のようです』

「........待ちかねたよ」


その時、頭上から声が響く。

顔を上げると、三つ目のVe’zが浮いていた。


「.....ケルビス」

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