012-訓練

「いい踏み込みです、しかし――――速度が足りません!」

「はぁあっ!!」

「テンタクルスをもっと上手く使うのです! エリアス様ならば、容易に可能なはずです!」


僕は今、アンドロイド状態のケルビスと戦闘している。

何故こうなったかというと、人間と戦うことになった時のために僕も強くならないとと思って、ケルビスに戦闘技術を教えてほしいと言ったら『そういう事ですか』と言って、機体の中に収納していたアンドロイド体を出してきたのだ。


「いい軌道ですが、エリアス様は乱数軌道を使われないのですね、その速度についてこれるのならば簡単に見切れます!」

「やってみる!」


カサンドラに貰った装備は、計16本の機械触手を操るものだ。

触手は可動性に優れ、高速機動による切断や集束配置による防御も出来る。

だけど、ケルビスが素で強すぎるので、プリセットの動きでは全く歯が立たない。

アドバイスの通りに、触手の可動パターンをランダムに設定し、ケルビスを襲わせる。


「そうです! 思い出されましたか!」

「....ああ!」

「では攻撃に転じます、お許しください!」

「えっ!?」


直後、ケルビスが背後に回る。

動きは見えたけれど、ついていけない。

......この時のための防御か。


「くっ!」


触手を4本集束配置し、エネルギーを流してシールドを張って拳を防ぐ。

衝撃波を床に逃がすと、床に蜘蛛の巣状のひびが入る。


「では、近接戦の練習と行きましょう!」

「くっ!」


僕は触手でケルビスを捉えようとするが、ケルビスはぬるりとそれを回避して、僕の顔目掛けて左拳を放ってくる。

それを左手で受け止め、パリィ......


「読めていますよ、私を試してくださったのですね!」

「っ!」


できなかった。

受け止める直前で拳を止めて、引いてから再度突きを放ってくる。

戻した触手でそれを叩き落とそうとするが、右手で掴まれる。


「私を試す必要は.....いや、理解しました。そういう事だったのですね」

「....?」

「私の弱さに気付き、訓練に飽きられたので、失望するふりをして訓練を終わらせようとしているのでしょう?」

「......違うが?」


ドウイウコト?

失望したらなんで訓練が終わるんだ?


「成程.........分かりました、では続けましょう」

「あ.....いや待て、思いついたことがある」


このままだと弱いとバレるかもしれない。

そうなれば、この賢いケルビスは、僕が別人と気づく。

約束はあるが、それが守られることは少ない。


「では、私めは退散いたしましょうか?」

「ああ、イモの調子を見てきてくれ」

「成程.......そういう訳ですか」


ケルビスはささっとワープする。

僕は汗一つかいていない身体で、コアブロック手前にワープする。

コアブロックの、誰も見ていない場所で練習をするために。


「面白いな」


全ての頂点に立っているはずのエリアスだけれど、僕はその頂を使いこなせない。

無感情にして無感動のエリアスだからこそ、その全てを使いこなせるのだ。

僕にはまだ無理だ、そう、まだ........







「なるほど、そういう事ですか」


風の吹く大地で、三つのアイカメラを輝かせ、ケルビスは呟く。


「水を与えすぎれば、腐ってしまう........人間をこのように管理せよ――――そう伝えたかったのですね、エリアス様」


ケルビスはそう呟き、土から取り出したイモを握り潰した。

その後、植え直すのも忘れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る