139-ビジョン

こうして、イルエジータ内紛は完全に鎮圧された。

俺の総評としては、得るものはあったが割いたリソースが多すぎたことだ。


「竜族の非戦闘員は、手先が器用な代わりに空を飛べないんだな」

『はい。どうやら、成人する際に特殊な儀式を受けることにより、戦闘型か非戦闘型に分かれるようですね』


竜族は「空気」を扱う種族だ。

戦闘型はそれを攻撃に、非戦闘型はそれを作業に使う。

飛翔するために得る推力を、尻尾の付け根にある排気口から排出し、体内に溜め込んだ空気を急速振動させて衝撃波を放つ。

逆に非戦闘型は、腕から空気の刃を放つことでものを切断し、五本指で作業を行うのだ。


「だが、何から分離した種族なんだ.....?」

『確かに、進化の系譜が不明ですね』


この惑星は、通常のプロセスを辿っていない。

地球と同じ環境であるのに対し、恐竜は存在しない。

古代竜種と呼ばれる、恐竜より遥かに強大な種族である存在は確認されていて、石油の元はこいつらだ。


「獣族も謎だ、正直なところ、核戦争でもあって、その変異個体だと言われても納得するぞ」

『生物の変異は、あくまでその遺伝子構造の延長線上でしかありませんから、翼竜からこういった進化を辿る可能性は限りなく低いのです』


まあ、生物学の話をしても仕方ないか。


「それより、まだ解析は終わらないのか?」

『はい、完全に未知の鉱物です。そもそも、何故この分子が結合しているのかが説明できないのです』


何より、今回は特大の爆弾が投下された。

竜族の里をがさ入れしたところ、彼らが信奉するという『竜寂の輝石』を発見した。

この惑星のあらゆる地表構造からも検出されない未知の結晶。

オーロラの分析によると、何かしらの触媒らしいのだが.....


「生体に反応するんだよな?」

『いいえ、今のところそれが反応するのは、司令官だけです』


俺が触れると波紋が走ったが、他の人間にはそれはなかった。

異世界から来たことが、関係しているのだろうか?


「ちなみに、破壊は出来そうか?」

『不可能です』

「そうか」


竜族の信仰は不変。

壊れることなく、光を放ち続けるこの石を、竜たちは信仰しているのだ。

しかもこの光、チェレンコフ光ではない。

つまり、放射性物質ではないのだ。


「こいつの謎を、いつか解き明かして見せる」

『そうですね、それから――――クローン兵についてなのですが』

「実用化できそうか?」

『難しいですね、造反防止システムと耐用年数の設定、遺伝子散逸による遺伝的弱点の克服など、課題は多いです....それに、本当にいいんですか?』

「俺は構わないな」


クローンの製法は、誰かの遺伝子である。

だが、既にキメラ遺伝子は完成させてある。

獣人の成長遺伝子を入れてあるので、成長が早く、設定した寿命に沿って5年程度で死に至る。


『本当にいいんですか?』

「クローンが禁忌だというのは、人間の定めたルールだ。自分たちの居場所を奪われたくないんだろう」


Noa-Tunは人手不足だし、クローンだからといって待遇を落とす事はない。

耐用年数はあるが、短い人生だと思ってもらうしかない。


「........まあ、言いたいことがあるやつは、この世にごまんと居るだろう」


だが、全員に付き合ってられん。

やってる事が誰かにとっての悪でも、これは俺の選択肢だ。

そもそも、ビージアイナ帝国を滅ぼした時点で、もう止まらない、止められない。

この宇宙をNoa-Tunの一色に染め、人間が存在するのはユグドラシルだけ――――そんな状況を作り出す。


「それが、俺のビジョンだ」


俺は静かに呟いたのだった。

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