138-新人の洗礼

「ここは........はっ!?」


竜族の少女、カレンは牢の中で目を覚ました。

場所はタルタロス、クロトザク本星上空に浮かぶNoa-Tun連邦の牢獄である。


「捕まったのかっ!? でも、出口がない.....」


部屋は完全に密封されており、カレンの入れない大きさの通気ダクトがあるだけである。

カレンは壁に向かって衝撃波を放とうとする。

だが、衝撃波は出なかった。


「......ダメか...」


竜族は空気を扱う生物である。

息を吸い込まなければ衝撃波も飛行もできず、ただ爪で戦うしかない。


「いいや、お父様を守らないと! ハアアッ!!」


カレンは爪を飛び出させようとする。

だが、爪も綺麗に丸められており、破壊力はない。


「どうして......」

『お目覚めかな?』


その時。

カレンの背後に、一人の男が立っていた。

カレンの最後の記憶、ルルを奪還した人間である。


「お前.....魔法使いなのか.......?」

「魔法? さぁな」


カレンは猛然とシンに襲い掛かるが、シンはその手を片手で抑え、そのままカレンを制圧した。


「な、人間が.....どうして!?」

「人間で悪かったな」


ここにいるシンは、そのままのシンではない。

ドッペルフィギュアと呼称される新技術により、シンに化けているオーロラである。

そして同時に、ノーザン・ライツの中身としての側面も持つ。


「司令官、どうする?」

『フフフハハ、ルルを助けてくれた恩には報いよう――――ただ、お前の父親は骨も残らず死んだがな』

「.....貴様、オレの父親を...!」


その時、ノーザン・ライツが手に光を浮かべた。

光は空中に、玉座にふんぞり返るシンの姿を映した。


『逆らうべきではない者に対して喧嘩を売ったんだ、当然だろう』

「そうして、皆殺しにしたのか! お母様も!」

『いいや、生きている。ルルの慈悲に感謝せよ』


ちなみに、シンがいる玉座があるのはマルクトのブリッジである。

サンダルフォン内部に普段は格納されており、天空騎士団への指揮用に存在している。


『お前たちの山脈上空にいた敵戦力と、それから別れた獣人国への分隊は、全て生命活動を停止させた。お前の父親は最初に吹き飛ばしたので、遺体の返還は出来ん』

「.......父は、オレの手で殺したかったんだ......お前らなんかに、殺されていい竜族じゃない!」

『熱いな、親子対決か』


その時、カレンは悟った。

自分と向こうでは必死さが全く違うのだと。


『折角だから、見せてやろう。外の景色を』


その時、カレンは地面が下に降りているのを感じる。

そして、壁がなくなり――――カレンは見た。


「な、なんだこれ.....」


眼下に広がるのはクロトザクであるが、カレンはそれをイルエジータと勘違いした。

広がる大地が、はっきりと目に見える。

そして、果てのない黒い闇も。


「空の上....天上か....?」


その時、巨大な窓を艦船が横切る。

哨戒任務中の戦列型駆逐艦スターグレアである。

自分より、自分の父親より遥かに大きい船を見たカレンは、それに絶望する。

自然の法則において、大きさは強さである。

だが、まだ余裕があった。

彼女の中の竜の血が、負けを認めることを許さなかったのだ。

しかしそれも、すぐに終わる。

帰投中の採掘艦隊が、ワープアウトしてくるのが見えたのだ。

タルタロスで一度補給を受け、ヘーパイストスに移動するのだ。


「瞬間移動....? 勝てるわけが....」


自分たちをはるかに上回る強さを持った種族に、自分たちは不敬を働いてしまったのだと、カレンはその時初めて理解した。


『さて、外も眺めたところで、お前の行く末は決まった』

「な、何をする気だ....?」

『戦闘型で成人しているのはお前だけになったからな、サンプル採取と治験が待っているぞ~頑張れ』

「た、助けて! たすけ――――」


カレンの悲鳴が、天に浮かぶ冷たい牢獄に響いたのであった。

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