137-雷撃旋回砲? さあ...知らない名前ですね...
そもそも俺がマルクトを思い付いたのは、昔の記憶を思い出した時だ。
インプラントで身体強化をするなら、脊髄接続で船と繋がれないかと考えたのだ。
それで、「受けよ...忠義の嵐!」とか暴れることができればと思ったのだが、意外とうまくいかないもので、計画は頓挫した。
そもそも、俺の体を未知の技術で改造すること自体が危険だったようで、脊髄反射で操作を行うのは至難の業らしい。
『妾にも専用機をくれぬか?』
だが、頓挫した計画は唐突に蘇った。
ディーヴァに話しかけられた俺の脳裏に、あるアイデアが閃いたのだ。
ディーヴァは脳接続でNoa-Tunのシステムに介入している。
即ち、マルクトの操縦系統を使えるということだ。
『オーロラ、マルクトの設計図を見せてくれ』
俺はオーロラにそう命じて設計図を再読した。
あの設計図には、操縦系統以外にもいろいろな問題があった。
マルクトの初期案では、ゲイザーのような硬さだけを重視した艦船として扱う予定だった。
だがここで、オーロラの悪魔的提案により、二つの頓挫した計画が、その息を吹き返した。
指揮型駆逐艦「サンダルフォン」と、自律型旋回ビットである。
シールドエコーと、ナノウェーブ、それから新しい増幅システムに重点を置いた新造艦のサンダルフォンは、初期案では「メタトロン」の名を持っていた。
しかし、マルクトに合わせた事でそのデザインは王冠型に変更され、マルクトを司る守護天使...「サンダルフォン」へとその名を変えた。
『正直なところ、このビットは使い道が無かったので、丁度いい使い道ができてよかったです』
小型ドローンの代替品として、対ビージアイナ戦線で大量生産したが、一回も使わずに在庫が余ってしまった。
そこで俺たちは、これらを頑張って改造するラインを作り上げ、『シュッツェ・フリューゲルス』へと改造した。
このビット一つ一つが、ディーヴァの手となり、剣となるように。
『これが...妾の機体...?』
『気に入らなかったか?』
『いいや...妾は、嬉しいんじゃ。お主を乗せて空を舞える事がな』
『俺も嬉しい』
その時、俺も一つだけ嬉しかった事がある。
今まで戦場に、危険な場所に向かうのはいつも俺以外の誰かだった。
だが、マルクトが完成した事で、俺は戦闘の指揮を最前線で行えるようになった。
軽戦闘機に匹敵する速度、対軍・対人の広範囲・単体殲滅能力。
シールドエコー・ナノウェーブ・ハーモニックブーストという支援能力。
シュヴァルツ・フランメ機関による単体でのジャンプ能力。
これはディーヴァの翼でもあり、俺の翼でもある。
俺の王国。
俺とディーヴァだけの、二人の王国そのものなのだ。
「...と、ここまでいいところばっかり言ったんだが」
正直なところ、マルクトにはまだ課題がある。
それが、防御力である。
攻撃中はエネルギー配分が上手くいかず、シールドが減衰してしまうのだ。
燃料なしで高出力を生み出せるシュヴァルツ・フランメは、マルクトの巨体の内部のほとんどを占有している。
むしろここまでコンパクトにできた事に俺が驚いている。
ミサイルを積む隙間はなく、忠義の嵐はできない。
その代わりサーマルブラスターがあるので、単体戦闘能力も高いのだが...
『帰ったら、糖分が欲しいのう...』
「点滴を申請しておいてやる」
そして、このマルクトは俺とディーヴァの共同作業で飛んでいる。
片方が倒れると、パフォーマンスが大幅に低下してしまうのだ。
この辺は対電子妨害システムの代償と言える。
『せめてこの身体が無事であれば、シンの作ったハチミツ入りのミルクが飲めるのじゃが』
「贅沢は...まあ、程々にな」
もう胃腸も機能していないのに、よくそんな事が言えるな。
だが、彼女は強がりを言わない。
俺には彼女の気持ちがよく分かる、叶わずとも口にすれば満足できると思っているのだ。
表面だけは...な。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます