136-天を翔ぶ自由の翼

獣人国の前に現れた竜族の中には、竜人国の王子がいた。

獣人国を蹂躙して、また別の場所に国を作る。

それが、彼らの目的であった。


「.......おい、あそこ! あれ、なんだ?」

「分からん.....」


竜族たちは、獣人国の城門の前に何かを見つけ、降下する。

そして、それが誰であるかを視認した。


『視力はそこまで高くないか』

「お前は、天空の王かっ!」

『その通り。俺こそが星空の王だ』


竜族たちはいっせいに笑い出す。

それは、踏み潰そうとした蟻が、自分たちより上だと宣言したという事と同義だからだ。


「(射程距離は10~15km程度か)」


シンは近づいてくる竜族相手に、颯爽と立ち続ける。

それを、城壁の上からティファナは見ていた。


「(星空の王様.....)」


彼を守るドローンはいない。

だからこそティファナは、それを不安視していた。


「死ね、ニンゲン程度が!!」

「効かんな」


衝撃波を、シンは携行シールドで受け止める。


「だが、お前にはできることは何もない!」

「どうかな?」


シンは震える手を、天高く突き上げた。

その震えは恐怖だけではなく、高揚の震えでもあった。


「舞い上がれ――――マルクト王国!」

『全ての生物は、我が王のもとに!』


スラスターから光の粒子を噴き出しながら、マルクトはその巨体を露にした。


「えええっ!? いつの間に、あんな大きなものをっ!?」

『使われていない地下水道を少し拝借した。後で補修するから、好きに使え』

「....はいっ!」


マルクトはロープを下ろし、シンはそれに掴まって内部へと収容された。

その大きさは五階分のビルに匹敵するマルクトは、指揮官用の専用機体でもあった。

そして、その操縦が出来る者こそが――――


『妾に専用機を用意してくれるとは、少々過保護じゃのう』

「戦略上必要だっただけだ」

「はっ、そんなデカブツが一匹あったところで――――我々の数には勝てん!!」


竜族たちは一斉に衝撃波を放つ。

だが、当然ながらマルクトには通じない。


「薙ぎ払え」

『了・解・じゃ♡』


シンが命じた次の瞬間、マルクトの左右に取り付けられた砲台が光を放つ。

そして、避けられなかった不幸な竜族数十人が、左右に両断されて死んだ。

まるでワイパーのように、二つの砲塔がレーザーで薙ぎ払ったのだ。


「シュッツェ・フリューゲルス、展開!」

『了解じゃ!』


マルクトは高度を上げ、機体後部から何かを無数に射出する。

それらはまるで見えないレールに乗せられたかのようにマルクトの後部に円状に展開され、円が埋まれば更に半径を広げた円を形作る。

それこそが、翼を持たないマルクトの真なる翼。


『攻撃...開始!』


シュッツェ・フリューゲルスの内側の円に沿っていた『羽』が、向きを変えた。

それは砲台であった。

一個一個がパワーコアを内蔵した、自律型砲台。

一発一発の威力は弱いが...


「ナノウェーブ、展開!」

『助かるのじゃ』


マルクトは、二つの艦船の合体形である。

王冠のような指揮官用スペースこそが、指揮型駆逐艦サンダルフォン。

それより下にぶら下がっているのが、マルクトなのだ。

強化を受けた羽たちが、一斉に射撃を開始した。

放射線上に拡散したエネルギー弾が、竜族の群れを文字通り蹂躙する。


「回避せよ、総員急降下!」

「サーマルブラスター、地上を焼き払え!」

『了解じゃ!』


地上の平原を、マルクトの左右砲台が焼き払う。

直後、平原地面が爆発し、竜たちを衝撃が襲う。


「ぐああああっ!?」

「落ち着け!」


その頃、マルクト側では。

回転していたウィングが、高速回転を始めていた。


「ヴァールハイト・リヒトを放て」

『了解じゃ、収束率99%まで上昇!』


一発一発のエネルギーを、力場に流し、一点に収束する。

それこそが、ヴァールハイト・リヒト。

これまでバラけて撃っていたエネルギー弾が、まるでレーザー砲撃のように一点のレーザーとして放たれたのだ。


『角度変更、薙ぎ払うのじゃ!』


サーマルブラスターは長時間の照射が出来ないが、ヴァールハイト・リヒトであれば長時間の照射が可能である。

雲を吹き飛ばし、天に伸びる光の剣は竜族の数を確実に減少させていく。


「クソっ...お前たち、全員でやつに飛びかかれ! あれを撃てなければいいんだ!」

『突っ込んでくるぞよ!?』

「落ち着け。ディフューズペールで対処せよ」

『了解じゃ』


今まで撃つこともせず回転していた外側の円陣の羽たちが、一斉に内側を向き高速回転を開始する。

そして、内側の羽が同じ高速回転し、チャージしたエネルギー弾を連続で放ち続ける。

それらのエネルギー弾は球状のシールドに押し込められ、その中で跳ね回る。

その密度が増していくと、それはまるで白い光の球のようだった。


「エネルギー収束率98%...これでいいだろう、放て!」

『...了解じゃ!』


全ての羽が、向かってくる竜族の方向へその切先を向けた。

直後、光の球が拘束を外れ、竜族に向かっていく。


「外縁部ウィング、クライス・シルトモードへ変更」

『ちょっと疲れるんじゃが...まあええじゃろ!』


高速回転していた外周部の翼が、背後ではなくマルクトを囲むように展開され、ランダムに回転を始めた。

直後、放った球が弾けた。


「こ、これはああっ!?」

「竜王様、万歳っ!」


封じ込められていた無数のレーザー弾が、全方位に向けて放たれた。

竜たちは防御する術もなく、蜂の巣にされて墜落する。

マルクトにもそれは到達するが、クライス・シルトがそれを完璧に防ぎ切る。


「(こんな化け物...勝てるわけがない...)」


その光景を、竜族の王子は絶望の表情で見ていた。

そして、本来の目的を思い出す。


「な、ならば...仕方あるまい、俺だけでも逃げ伸び、メスを見つけて...」

『敵が逃げるぞよ!』

「逃がすものか、フリーデン・フリューゲルモード!」

『了解!』


全ての羽が回転を止め、マルクトの左右に展開する。

そして、まるで巨大な翼のように合体する。

二対の翼が、マルクトの重力制御フロートに干渉し、高速飛翔を可能とする。


『スラスター最大、行くのじゃー!』

「ああ、全ては...今、この時のために!」


マルクトは獣人国の城壁から飛び出して、130km程度離れていた竜の王子まで肉薄した。


「バカな、早過ぎるっ!?」

『その代わり、代償はでかいんじゃがな』


直後、獣人国の城壁が粉々に吹き飛んだ。

加速の衝撃波に襲われたのだ。


「近接戦ならば!」

『そう思ったのが運の尽きじゃよ』


マルクトの内部から追加の『羽』が発射され、それらはブレードの部分にエネルギーを纏って竜の王子に襲い掛かった。


「くそぉ、俺はこんなところでっ!」

『生き残りたくば恭順せよ、恐怖せよ、価値を示せ。妾の王の慈悲は安くはないぞよ』


竜の王子の全力の衝撃波であっても、羽には意味がない。

それら全てがシールドを纏っているのだから。

そして、羽によって翼を切られた竜の王子は墜ちて行った。


「クソォオオオオオオ!」

『シンは優しいのう』

「別に、生かして返そうと言うわけではない...ただ、獣人たちにも、復讐する対象は必要だろう」


シンはそう言った。

平原は竜の死体だらけであり、その中にいる王子は出血大量で長く生きられない。

その内獣人に捕まり、嬲り殺しにされるだろうとシンは判断した。


「こちらマルクト・サンダルフォン分隊。敵の首領を撃破した、そちらは?」

『こちら副司令官、敵の戦闘員の殲滅を完了した』

「よくやった、未帰還機は?」

『0です』

「よし。全機、帰投せよ!」

『了解!』


こうして、竜は何もなせすに滅んだ。

残ったのは非戦闘民と...もう一人の戦闘型だけであった。

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