131-変わり者

二日後。

俺は代表者同士の会談に臨んだ。

竜族のプライドの高さから、交渉に応じないとは思っていたが.....どうやら、それは少し違うようだった。


『貴様が星空の王とかいうニンゲンか』

「そうだ、そちらで捕縛している少女を引き渡せ」

『はっ、ニンゲン程度が.....図に乗るなよ』

「そうか」


俺は頷く。

まあ、こいつらならこんなもんだろう。


「では、人間程度でないことを、証明してやろう」


俺は、彼らに遺体を返還することにした。

恐怖に歪んだ顔で、発狂死した竜族数人の遺体を。

ポイと捨てられたそれを見て、竜族の長の顔が険しくなった。


『貴様ら.....何という残虐な事を....!』

「お前たちは何に逆らったかを、いま一度確かめるべきだったな」


俺は内心とても怒っている。

だが同時に、後悔してもいる。

俺は、ルルの気持ちに気づいてやれていなかったのだと。

心のどこかで、隅に追いやって逃げていたと。


「三日与えよう。その間に人質を引き渡すか、俺たちと戦うかを選べ」

『人間風情が......我らに勝てるとでも思ったか?』

「ああ、トカゲ程度に負ける武力では、星空の王は努められない」

『貴様ぁ....!』


”トカゲ”と口にした瞬間、その場にいる竜族全員が顔を険しくしていた。

どうやら、相当の暴言だったらしい。


「勘違いするなよ、トカゲ。人質さえいなければ、俺たちはお前を100回滅ぼしても痛くも痒くもないんだからな」

『......その言葉、後悔するがいい』


放射性物質にも耐えられない脆弱な生物が、俺たちに勝てると思っているのが滑稽でもあるが、支配種族というのは得てしてそういうものだ。

俺たちの持つ兵器でも倒せない敵はいるし、強さに慢心するのは生物の特権だから、俺もそうしたミスを犯すこともある。

とりあえずは....こいつらを地上から消そう。

幸いにも、後遺症を残さず綺麗さっぱり消し飛ばせる兵器は既に完成したからな。






夜。

牢屋の端で眠っていたルルは、鍵の開く音で目を覚ました。


「あなたは....カレンさん」

「また飯を持ってきてやったぜ」

「あ....」


ルルは、カレンの持ってきた食事を見る。

パンが、牛乳に浸けられ、ふやかされている。


「死なれたら困るしな!」

「どうして、ここまで?」

「......オレは、お前に話を聞きたいから連れ帰ったんだ。どうやって飛んでたのかとか、その....星空の王様の話とかをな。.....けど、親父は空を飛ぶのは竜族だけの特権だとか、ケモノ風情には死がお似合いだとか......ワケ分かんねえ事を言うんだ」


カレンの表情には迷いがあった。

それは、竜族としての誇りと、彼女自身の優しさの間に生まれた葛藤でもあった。


「.....なら、私をここから」

「ダメだ。それはできない」


カレンは首を振った。

どうして、と聞く前にカレンは答える。


「オレはいずれ竜族の長を継ぐから、ここで問題は起こせない。いずれお前を死んだことにして匿うから、オレが長になるまで待ってくれ」

「それは.....!」


そこまで長引けば、シンがキレるに違いない。

ルルはそう思ったが、同時にとある疑念が浮上した。


「(シン様の事だから....もしかして、放置されているのでしょうか)」


獣人すら駒として見ているかも怪しい男である。

妻であっても、見捨てるかもしれない。

ルルはその恐怖に震えた。


「あ、そうだ。今日、その星空の王みたいなのが、父様たちと話をするらしい」

「そうなのですか?」

「お父様は、幻影でしか話の出来ない雑魚だって言ってたけどな」

「........」


ルルは、少し考える。

自分は見捨てられてはいなかったと、だが同時に、シンは容赦のない男でもあった。

せめてカレンだけは守ろうと、ルルは決意したのであった。


「ん? なんだ?」


その時、地下牢に何人かが入って来た。

それらは全員が竜族であった。


「カレン、何をしている!」

「人質に食事を与えていただけだ!」

「貴様...罪人に食事など要らぬわ! ルルとか言ったな、お前はこちらに来い!」


そしてルルは、強引に引き摺られて牢を出た。

カレンがその後を追おうとするが、掴み掛かった一人の竜族が、その手から鍵を奪い牢を閉めた。


「何をする!?」

「お前は竜族の恥だ! そこで暫く反省しろ!」


カレンは、同族に裏切られた事でショックを受けていた。

そして数時間後。

ボロボロになったルルが、牢に投げ込まれた。


「...ルル、その傷は?」

「シン様について教えろと、拷問されただけですよ」


ルルはそう言って気絶した。

カレンは、その時初めて、大きく揺らいだのであった。

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