129-怒りを通り越して最早無
獣人国に侵入した竜の群れは、一斉に中央の城まで飛来した。
「出ろ、獣人の指導者よ! 現れ、我らと戦うがいい!!」
「......ええ。分かりました」
ティファナが、城から出てくる。
それを見た竜たちは、嘲笑しながらその体を変化させる。
人に近い形になり、地上に降り立つ竜たち。
ティファナはそれを、怯えを隠しながら見ていた。
「ケモノのなりそこない風情が、偉そうになったもんだなぁ」
「しかも兎かよ、雑魚が」
「本日はどのような御用向きでしょうか?」
ティファナは怒りを隠しながら、にこやかに尋ねる。
だがそれは、かえって竜人たちの怒りを買う事となった。
「お前、死にたいんだな! おりゃあ!!」
「きゃああっ!!」
唐突に殴られ、ティファナは地面に転がる。
「下等種族が、調子に乗るな。我々はお前たちを滅ぼしに来たのだ。これは裁定である、逆らうな」
「.......成程。貴方達の話はよく分かりました――――どう思われますか、シン様!!」
ティファナは切った口内を抑えつつ、叫んだ。
直後、上空にシンの姿が投影される。
『中々に面白そうだな、トカゲ風情が』
「だ、誰だお前は!」
「.....幻影で惑わす気だな、堂々と向かい合う気もない雑魚が!」
だが、竜たちは怯まない。
そこには、自分たちこそが最上位種族であるという驕りが多分に含まれていた。
『お前たちが、獣人の女を攫ったのだな?』
「そうだ。神聖なる空を汚した罪を贖うため、永久牢に幽閉した。そこで発狂し、飢餓で死ぬのを待つのみだ!」
『そうか』
その瞬間、ティファナは全身から一斉に熱が抜けるのを感じた。
シンの顔から、表情が完全に抜け落ちたからだ。
『殺せ』
直後、雲を割いてドローンの群れが現れた。
それらは一斉に、竜人たち向けて射撃を開始する。
「こんなも――――」
そう言った竜人は、頭を撃ち抜かれて死んだ。
「こ、この無礼者が!」
『どうした? 神聖なる空を汚した罪を償わせないのか?』
「死ねェ!! ギギアアアアアアアアアアッ!!」
竜人が竜形態に戻り咆えるが、建物に影響を及ぼしただけでドローンの群れには一切影響がない。
そして、咆哮を放った竜人は、周囲をドローンに囲まれ、その全身を心臓だけ外す形で撃ち抜かれる。
「ぐ、ぎゃあああ! 痛い、痛い!!」
『へぇ、本当に再生能力が高いんだな。実験動物には丁度いいか』
「貴様、貴様ぁ!!」
『安心しろ、皆まとめて無限実験編に誘ってやるからな』
シンはその時目を細めて笑った。
それは、竜人たちの奥底に眠る、未知のものに対する根源的な恐怖を呼び起こした。
統率を失い、一斉に逃げていく竜人たち。
「追わないのですか?」
『逃げるネズミは巣穴に逃げ込む。そしたら、巣穴に水を流すだろう?』
「.......その通りですね」
ティファナは知っていた。
星空の王は寛大ではあるが、それは残虐性との二面性を持っていることを。
星空の王は、慈悲を掛けながら罪人を無限の苦しみの中で生かさず殺さずのまま保つ事が出来るという、根も葉もないうわさすら信じたくなるほどに。
『今回は、獣人国の介入を禁ずる』
「はっ」
ティファナは頷く。
『異を唱える馬鹿どもを抑えろ。次の徴兵は半分にしてやる』
「ありがとうございます」
『何、覚醒獣人並みに強い雑兵が手に入りそうだからな』
「......はい」
ティファナは頷くことしかできない。
もし逆らえば、どんな目に遭わされるか分かったものではないからであった。
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