128-オイオイあいつら死んだわ

ルルが居なくなった場所はすぐに特定できた。

落下地点の近くに、大破したスワロー・エッジが煙を吹いていたからだ。

問題は、脱出ポッドがどこにもない事。


「どうするか.........」

『24時間経てば、パイロットスーツの救難信号が自動で発信されますので位置を特定できますが.....』

「それまでに危ないことに巻き込まれていたらどうする?」

『その可能性は十分に考慮していますが.....そもそも、脱出ポッドは最低でも2tはあります。それを持ち去る力がある以上、何か未知の存在が関与している可能性があります』


そうなんだよな.....

衝撃吸収のため、脱出ポッドは2tを超える重量がある。

誰かが持ち去ったにしても、集団の犯行でなければ不可能だ。

であれば、回収地点からそう遠く離れてはいない筈なのだが....


『獣人国に捜索を依頼しますか?』

「いいや。これは俺たちの問題だ、捜索範囲をイルエジータ全土に拡大する。展開可能な小型偵察ドローンを全て展開せよ」

『分かりました』


誰だか知らないが、生かしておけよ。

ルルがもし死んでいたら――――全員、ナパーム弾でもクラスター爆弾でも何でも使って、散々苦しんでから死んでもらうからな。


『地上戦闘の準備をしておきますか?』

「頼む。想定は対ビージアイナ帝国精鋭地上部隊だ」

『把握しました、直ちに編成します』


俺は気を紛らわすべく、想定に想定を重ねる。

人間か? 獣人か? それとも、イルエジータに残存している何かしらの文明の遺構?

分からない、情報が不足どころか何もない。


『現在、スワロー・エッジのブラックボックスを解析中です、何か情報が掴めるかもしれません』

「ああ」


位置情報を見る限り、墜ちる直前にスワロー・エッジは激しい機動を取っていたことがわかる。

何かに追われていたのか、はたまた何かを追っていたのか。

それは、解析が終わるまでは分からない。

俺は、居ても立っても居られない状態で夜を過ごすのであった。







翌日。

獣人国の最前線にて。

三人の兵士が、開拓地の警備をしていた。


「暇だなぁ」

「だなぁ」

「今更獣人国を襲うのなんて、いねーからな」


熊獣人の男が呟き、狼獣人の二人が同意する。

獣人国は拡大を続けているが、獣人を排斥したがる人間が襲ってこない理由は明白だ。

天に広がる巨大な王国、それを統べる最も尊く、恐ろしい王。

星空の王が率いる天使の軍勢が、獣人国を保護しているからだ。

その代わり、獣人国も、神々の尖兵として人材を捧げてはいるものの、かつての人間に奴隷のように使われるのではなく、よい待遇で兵士をやっていると帰還兵から伝えられており、星空の王の人徳の深さが知られていた。


「すげえよなぁ、星空の王様」

「ああ、一夜で天罰を下すなんて」


Noa-Tunの行った軌道砲撃により、各国の城とそこに住まう王は死んだ。

神罰の雷と呼ばれたこの事件以降、各国は獣人から手を引き、国によっては獣人を返還する始末となった。

だからこそ、獣人たちは油断していた。

自分たちの空の上に何が居るかも知らぬ愚か者がいる事を。


「ん....? 何だあれ」

「でかい.....鳥か?」

「違う、なんだ?」


森のはるか向こうから、何かが群れをなして飛んできていた。

それは、彼らの知る天使とは違い、生物的であった。


「見なかったことにするか」

「あ、ああ」

「そうだな」


このまま通り過ぎるだろう、と三人は思っていた。

だが、それらは過ぎ去ることなく、真っすぐに獣人国の国境へと向かってきて、


「――――――――!!」


口を開けて、咆哮した。

その咆哮は衝撃波を伴い、木組みの家や倉庫を破壊した。


「に、逃げるぞ!」

「ああ!」

「獣のなりそこない共に告ぐ!!」


その時、飛んできた竜が叫んだ。


「我らは貴様らの尖兵を捕らえた! 神聖なる空を汚した罪、その血で以て贖うがいい!!」


そして、飛んできた無数の竜が、獣人国に牙を剥いた。

そしてそれを、空から見ている者たちがいた。


「......ほう?」


シンであった。

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