116-降り注ぐ死の使徒

「――――ヴァ様、聞いておられるのですか!」

「......ああ、聞いておるとも。そうまくし立てる必要もあるまい」


ディーヴァは、目の下に隈を浮かべてそう言った。

日夜、首都防衛関連の書類に許可をしているため、寝る暇もないのだ。


「大体、妾に何が出来るのじゃ? この手には武器も持てず。お主らのように賢くもないのだから」

「それは....」

「帝国の皇女にそんな物は必要ないと切って捨てたお主らの責任でもあるのじゃがな」


会議室に重い空気が満ちる。

既にあらゆる戦略が、Noa-Tun連邦には通じないことが分かっている。

通常の艦隊戦では勝てず、主力艦はもうない。

八方塞がりの状況は、自然と上でふんぞり返るだけの皇女にヘイトが向くことになる。


「かくなる上は、皇女様を差し出してでも....」

「愚か者が! それは、属国になるという事ではないか!」


会議が紛糾しかけたその時。

凄まじい振動が帝城を襲った。

直後、耳を劈く轟音。


「何事か!?」

「たっ、大変です! 首都のど真ん中に、不明な物体が.....ああっ!?」


直後、続けて震動。

轟音が遅れて響く。

そして、また震動が連続で帝城を襲った。


「.....ッ!」


ディーヴァは、会議室をこっそりと抜け出し、上階のバルコニーへと向かう。

そして、そこで見たのは――――


「何じゃ.....あれは!」


空から、無数の黒いものが墜ちてきている光景だった。

黒いモノ――――ドロップシップは、地上に墜落すると同時に周囲の家屋を巻き込んで衝撃波をまき散らす。

直後、三つのハッチがまるで足を広げるように開き、そこから戦闘ボットが虫の大群のように沸き出した。


「状況報告!」

「不明です! この惑星全体の主要な都市に、同様の落下物が落下し、中から何かが出てきているとの情報のみです!」

「バカな......ビルジースプライムの惑星上には、艦隊が待機しているはず.....ならば、どこから!?」

「し、司令部上空にも!?」

「何!? がぁ――――」


ビルジースプライムには依然として降下攻撃が続いており、夥しい数のドロップシップが落下を続けていた。

それらは都市機能をマヒさせ、吐き出した戦闘ボットは冷酷な高精度射撃で市民を虐殺していた。

壁越しに貫通レーザー射撃を放ってくる戦闘ボットに対して、警備隊や兵士にできることは何もない。

一日も経過せずに、ビルジースプライムの都市の殆どが、ほぼ掌握されてしまった。

だが、制圧はされていない。

何故なら――――戦闘ボット達が、一斉にある地点に集結を始めたからである。

艦隊の降下地点に――――


「もう我慢できん、降下して奴らを殲滅――――」

「司令! 敵が現れ――――ぐわっ!?」


至近距離に突如出現したデリュージ艦隊が、首都上空に待機していた艦隊を襲った。

凄まじい連射によるレーザーの豪雨のような猛撃が、戦艦のシールドすら容易に破壊し、一隻ずつ蜂の巣にして無力化していく。


「反撃だ、反撃せよ!」

「直上に艦載機編隊が出現!」


奇襲に次ぐ奇襲。

全く訳の分からない状態で、司令はパニックに陥った。


「司令、指示を!」

「お願いします、指示を!」

「う、ああ、ああ?」

「後方からも敵が!」

「い、一体何が! 何がどうなっとる!?」


すっかり現実逃避に陥った司令により、防衛艦隊は瞬く間に壊滅状態に追いやられた。


「まだだ、このビルジースプライム第二ステーションがある限り!」

「主力艦と思われる艦影が七隻出現!」

「勝てるか! クソ!」


基地となるステーションも、主力艦の投入によってランサー:オーロラ・グランツによって貫かれて残骸と化した。

こうして。

あらゆる防備を固めたはずのビルジースプライムⅠは、一日にして壊滅状態に追い込まれたのであった。

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