114-主力艦決戦 後編
「全艦載機を発艦させよ!!」
涙を抑え、コシアが命じる。
全ての艦載機がバライエルードから発艦し、敵へ向けて最後の突撃を行う。
その脇では、
「撃て! クロムセテラスの犠牲を無駄にするな!」
ヘレナが叫び、ジルストリークがたった十門の四連装砲台で砲撃を行う。
その必死の抵抗をあざ笑うかのように、オーロラが命じる。
『全支援旗艦・戦略支援旗艦は、シールドウェーブを展開。全旗艦、シールドエコーを開始』
艦隊の中から広がったナノウェーブが、旗艦艦隊全体のシールドを高めた。
そして、直後にシールドエコーの輝きが、艦隊全ての艦のシールド効率を格段に増加させた。
「全艦、ドゥームズデイ発射態勢に入れ」
『了解。
目標は、ビースミルコルド。
初めて見たときから、シンは「硬そうだな....この船....」と思っていたので、ドゥームズデイ・デバイスの一撃で確実に仕留めるつもりでいた。
『敵、戦列を変更! ビースミルコルドに対して軸線を合わせています!』
「させはしない! 全砲門を敵旗艦に!」
「赤い船が旗艦」と知らされていたヘレナは、艦隊の中に唯一紛れていた赤い大型戦艦を狙って攻撃する。
だが、それは罠である。
「引っかかったな。ゲイザーは硬いぞ」
指揮型巡洋艦――――ネムの乗艦である、白い機体のラムブレードの上位互換である。
その特徴は、その辺の旗艦級戦艦よりも分厚いシールドと、天文学レベルのアーマー硬度、冗談かと思われるほどの船体防御力を誇る。
二つ弱点があり、武装を装備できないことと、建造にかかるコストも驚異的という事だけだ。
「どうせ高価な主力艦が120隻もいるんだ、この際250Tの船なんて誤差だ誤差!」
というのが、シンの言い訳である。
どんなに頑張っても上位プレイヤーで月1T程度が限度のSSCにおいて、無視できるコストではないのだが...しかしここは異世界。
建造に金を払う必要などないのである。
「チェック、オーロラ。二番をプライマリーにセット。最終兵器チャージ中の艦船以外は攻撃開始」
『了解です』
支援旗艦と戦略支援旗艦が砲撃を、母艦の類が一斉にドローンで攻撃を開始する。
攻撃対象となったバライエルードは、瞬く間にシールドを抜かれて炎上する。
「コシア閣下、シールドが突破されました!」
「未帰還機、350機中348! 正体不明の攻撃によりまとめて破壊されました!」
主力艦の兵器はとんでもない威力を誇るが、大抵のSSC主力艦は、それに何発も耐えられる耐久力を持っている。
それを活かして、前面に展開している船の何隻かが、ブラストウェーブで戦闘機を撃墜したのだ。
自らを守る術のなくなったバライエルードは、砲火の中轟沈する。
『コシアッ! くっ、貴様の仇は俺がとってやろう、感謝しろよ』
『ドゥームズデイデバイス:ランサー・オーロラ・グランツ、一斉発射』
コシアが死んだことで、奮起するラディウスだったが、無駄である。
直後に放たれた光の奔流がビースミルコルドの分厚いシールドと装甲を突き破り、まるで紙細工を突き破るような容易さで撃沈へと追いやった。
『...コシア、あの世で貴様と決着をつけてやろう!』
ラディウスは咆哮しながら、爆炎に飲まれた。
同時に、こうも思った。
ああ、領土が奪われるなら、もう下らん争いもなし、か。
と。
『コシア閣下、ラディウス閣下! くっ...攻撃を停止させなさい』
『しかし、ヘレナ閣下...』
『非効率なことは、するべきではないのです...』
帝国一の火力を誇るジルストリークの集中射撃が、全く効いていない。
そう悟ったヘレナは、攻撃を止めるように指示した。
『敵の旗艦との通信を...』
「バカだな、俺の軍隊の前に立ったのなら。それは等しく敵だ、情状酌量の余地もない」
攻撃を辞めたジルストリークに対し、Noa-Tun連邦主力艦隊は集中砲火を浴びせ掛ける。
『こちら、ジルストリーク! こちらは降伏する、砲撃を...砲撃を停止...くっ!』
ヘレナは歯噛みしてコンソールに拳を打ちつける。
コンピューター制御のジルストリークに、ヘレナ以外の乗員はいない。
「これは罰ですか?」
そうして、ジルストリークは構造を保てなくなり、内側にひしゃげるようにして圧壊、内部からの爆発により粉々に吹き飛んだ。
「そんな......」
「バカな......」
司令部の空気は最悪であった。
当然だ。
帝国にとっても最後の希望、余裕でいるための最後の防波堤が、粉々に打ち砕かれたのだから。
『て...敵旗艦が動き出しました、場所は...司令部、ここです!』
「くっ、こうなれば恥も外聞もあったものではない、将軍の首をもって降伏するのだ!」
こうして、将軍の部下達は心神喪失状態の将軍を殺し、それを土産に降伏を願ったのだが...
「なんでモザイクが掛かってる?」
『人の生首ですが、見たいですか?』
「あー...ステーションごと焼いてくれ」
『了解』
最終兵器の掃射により、敢え無く宇宙の塵と化したのであった。
司令部の崩壊で最終防衛ラインのナータリアはNoa-Tun連邦の支配下に置かれ...
ビージアイナは最早帝国ではなく、海賊と同格に成り下がったのであった。
かつてNoa-Tun連邦をそう判じた彼等は、完全に立場が逆転してしまったのだった。
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