112-誰かにとっての何者か

「やはり、やはりそうだ!」


数人しかいない作戦司令室で、ファルシー・スカリッチ将軍は叫んだ。

天啓を得た、といった様子に、周囲は不安そうな視線を向けた。


「奴らの主力艦は一隻だけだ、間違いない!」

「何故そう言えるのですか?」

「フフフ、このデータを見るがいい」


将軍は配下達に、これまでの戦闘データを出す。


「我らの軍を容易に退ける力がありながら、首都星系近辺の戦いに於いては、主力艦の出現と共に去っている。これはつまり、主力艦に対しては主力艦でなければ対抗できないと悟っているという事。だが同時に、主力艦だけは容易に投入できないと知っている」

「それだけでは根拠が弱いのではないでしょうか?」


配下は問う。

当然だ、敗戦すれば自分たちまで責任を問われるからだ。


「勿論、私はただ直感で思ったわけではない。これを見るといい」

「...これは!」

「主力艦アディンバドル。それの最後の通信データをサルベージして、映像記録として映像化したのだよ。これによれば、敵の主力艦は恐らく一隻。そして、その船を潰しさえすれば、星系を跨いだ瞬間移動も出来なくなる!」

「つまり、主力艦を釣り出してさえしまえば...」

「私たちの戦略的勝利の一歩に向かって踏み出せるだろう」


飛躍した結論。

だが、それを裏付ける証拠は無数にあった。

誰もそれを超えた批判が生み出せないまま、時は過ぎていくのであった。







「よっしゃあ!」


俺はつい、ガッツポーズをした。

何故か?

そう、世はまさに大主力艦時代。

あらゆる資源が増産中の主力艦に吸われる中、リソースをなるべく減らし、余剰資源を回す事で、あるものが完成した。

それが、小惑アステロイド星級オーダークラスの新造艦。


「ふふふふ...ついに、俺の座乗艦ができた」

『けれど、貴方が戦場に向かうことはないでしょう?』

「もしものことはあるだろう。それに、これがあればより強力なジャンプポータルが生成できる。主力艦の燃料を残してジャンプさせるならもってこいだ」

『それで、武装はどうされるおつもりですか?』

「こんな事もあろうかと、主力艦用の大型砲台ソケットを通常艦専用の大型砲台ソケットに換装しておいた。戦艦の武装を、それぞれの砲塔のある場所に六機ずつ配置できる!」


強力な武装を装備できないのは残念だが、その分手数で攻める。

まあ、コレを出撃させるとなると、これまたとんでもない量の燃料が必要になるのだが。

暫くはホールドスターの背後に係留して、使えるようになったら建造施設で再度整備してから出撃させるのがいいだろう。

こいつを一回ジャンプさせるだけで、天文学的な燃料が必要になるだろうからな...

最終兵器を使う局面になれば、一発撃つだけでユグドラシル星系初期三ヶ月分の燃料が消し飛ぶ事になるだろう。


『司令官はたまに行動が読めません』

「...そう、かもな」


俺自身、こうやって騒ぎ立てて、自分を誤魔化している節はある。

だが人間、悔い過ぎ、省み過ぎても動けなくなる。

前に歩み続けるなら、こうしてたまには違う事をしなければならない。


「それに、俺は誰かにとっての何かであり続ける必要がある」


妹にとっての兄に。

友達にとっての親友に。

子供達にとっての親に。

獣人達にとっての守護者に。

ルルとネムにとっての夫に。

アインスとツヴァイにとっての司令官に。

...オーロラにとっての、相棒に。


「だからこそ、俺もそろそろ動かないといけないかもしれないな」


俺は、係留されていく小惑星級旗艦級戦艦を見た。

その名を『ミドガルズ・オルム』と呼ばれる、その巨体を。

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