111-流通寸断

Noa-Tun連邦は悪辣な手でも容赦無く使い、敵に嫌がらせを続ける国家である。

何故ならば、嫌がらせを続ければ相手が焦りを感じるからである。

大国としての矜持が、この挑発行為で徐々に揺らぎ始めているのだ。


『あー、こちら二番艦、周囲に異常なし』

『こちらも異常なし。通常通りゲートに到達できそうだな』


宇宙を、輸送艦の艦隊が飛んでいた。

その数は総勢六隻。

護衛艦一隻を随行させた輸送艦隊であり、ビージアイナの流通を支える優秀な働き手達である。


『細心の注意を払え。ここは近くで連邦の奴らの侵略が行われてるからな...』

『確か、侵略されたら通信が切れて終わりなんだろ? おっかねぇよなぁ...』


もうすぐ彼らの魔の手に掛かるとも知らずに、艦隊はゲート前に到着した。

全ての艦にデフォルトで組み込まれているゲート起動システムが作動し、船が一隻ずつジャンプしていく。

ジャンプした先には...何もいなかった。


『ふぅ、この時が一番ヒヤッとするんだが』

『心配しすぎだろう、第一並の海賊なら、我らが護衛艦様が一撃でやってくれるぜ』

『だが油断はするな、もし相手が悪かったら、俺はお前達を逃して死ぬからな』


護衛艦の艦長はそう口にした。

特に、カルメナス所属の艦船は注意が必要であり、近年において、強力な武装や未知の妨害手段を用いてくる可能性があった。

そして、カルメナスの内部粛清組織として名だけが伝わっているシャドウ・カルメナス...それに遭遇して仕舞えば、その命はそこで終わるだろうとまで言われている。


『とにかく、一隻でも辿り着くことが重要だ。一隻いれば、軍隊への支援もできるし、帰り道に避難者を乗せられる。護衛艦も、辿り着けさえすれば調達し放題だ...だから、その時は頼んだぞ』

『ああ、わかってる!』

『できれば全員生きて帰りたいけどね』


そんな事を言い合いながら、輸送艦隊はワープへと入る。

広くスペースを取るため、そのワープ速度は遅い。

だが今回は、ゲートとゲート間の距離が短かったために、40分程度で到着する事ができた。


『おい、なんかスキャンされてるぜ?』

『放っとけ、直ぐにジャンプする!』


艦隊は急いでジャンプする。

すぐにワープに入れば、海賊艦を振り切れるからだ。

しかし...今回は違った。


『一体何だぁ!?』

『分からん、ワープが出来ない!』


ゲートの先で、重力が異常に歪んだ空間が展開されており、輸送艦隊はそこで足止めされてしまった。

直後、


『艦影多数、待ち伏せだっ!』

『くそっ、護衛艦長...頼む!』

『ああ、分かってる!』


護衛艦が颯爽と前へ躍り出て、その主砲を敵へと向ける。

直後、砲火が一隻のフリゲートを捉え...


『避けられた!?』

『まずい、五番艦が撃たれて...くっ!』

『注意しろ、敵は魚雷を使ってくるぞ!』


弾速が速く、着弾と同時にシールドを中和して装甲に食い込んで爆発するタイプの魚雷であった。

輸送に特化し、防御力を削っていた輸送艦では耐えられなかったのだ。


『くそっ、ならば...! ダ、ッ!?』


直後、護衛艦からの通信が途絶した。

フリゲート艦隊の中に混じっていた妨害艦、ブラインドファイスの上位互換であるモノ・クリードが、護衛艦にECM、グラビティアンカー、キャパシタバニッシャーによる妨害を仕掛けたのだ。

そして、フリゲート艦隊を割って現れた大型の一隻が、動けない護衛艦に息をつく暇もないレーザーの連射を浴びせ掛けて、撃沈へと誘った。

凄まじい連射力を持った襲撃型戦艦、デリュージは、引き続き輸送艦隊に襲いかかる。


『残存艦点呼! 第一!』

『第三!』

『第六!』


もう三隻しか残っていなかった。

歯噛みしながら、第一輸送艦に乗る青年は決断する。


『シールドを最大にしろ、このフィールドの外に一隻だけ押し出す!』

『だが、それじゃあ!』

『生きて、生きて物資を届けろ! その金で俺たちの分まで...幸せに!』


第一と第六輸送艦がシールドを展開しながら第三輸送艦に突進し、衝突の衝撃で足の遅い輸送艦をフィールドの外まで追い出した。


『...ちっ、馬鹿野郎が!』


第三輸送艦に乗る男は、涙を抑えて一旦惑星へとワープした。


「はぁ...はぁ...はぁ...」


男は息を荒げてワープ先を見守る。

そして、幸いなことに、その先には何もいなかった。


「やった...逃げ切った...!」

『残念! 狩りは終わり、あなたの負けだよ!』

「何だ!?」


直後。

輸送艦の目の前の空間が歪み、一隻の船が姿を現した。

その姿は小さく、白い。

だが、男にとっては不運な事に、その船の両翼には、いかつい大型の砲台が付いていた。

ハッチが開き、左右でそれぞれ六門のレーザーが放たれて、第三輸送艦のいつの間にか消えたシールドを通過、装甲を貫いて破壊する。


「ずるい...だろ、それは...ハハっ」


第三輸送艦は機関部が停止した状態で、ワープしてきた爆撃艦に囲まれる。

気が付けば、白い機体はどこにも居なくなっていた。

魚雷の集中砲火を浴びて、男もろとも第三輸送艦は宇宙の塵と化したのであった。

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