107-主力艦艦長会合

こうして、主力艦の集結が開始された。

ビージアイナにある主力艦は、各方面の防衛の為に分散されていたものの、此度の連邦の侵略...主力艦の撃墜によって、それを成し得る戦力に対するカウンターの為に集められることとなったのだ。


「では、これより主力艦艦長会談を開始する」


そして、主力艦の艦長は決まって貴族...それも、皇族に匹敵する立場の者達である。

彼等が一堂に集結するということは、権力と権力の摩擦もまた同時に起こる。


「ハッ、バライエルードの艦長様は、お気楽でいいですなぁ。ハエを飛ばしてそれを見守るだけのお仕事ですから」

「ふん、突入するだけのビースミルコルドの方が、遥かに頭を使わんではないか」


犬猿の仲、と言った様子を見せるのは『バライエルード』艦長コシア・ニルフェンと、『ビースミルコルド』艦長ラディウス・ジェントラであった。

その様子をじっと見つめているのが、『クロムセテラス』艦長のクルト・ネルガル。

それを半笑いで傍観している女が、『ジルストリーク』艦長であるヘレナ・ボストロークである。


「どうかね、ヘレナ殿?」

「いつも通りでは? ニルフェン公爵家とジェントラ公爵家の仲の悪さは親譲りでしょう」


アークホルスト星系の割譲で数世代前から揉めている両家は、あらゆる場面で、家臣や兵士に至るまでいがみ合う事が広く知られている。

それを当然知っているヘレナは、そう質問されたことに少し憤った。

常識を疑われたと思ったからだ。


「そうではないよ、この有事に際して、利権もクソもあった話かね?」

「最早原因はどうでも良いのでは? あの二人はどちらかが落ちればそれを喜ぶでしょうに」


ヘレナはきっとした表情のまま、そう言い切った。

こうして笑っていられるのも、ネルガル公爵家とボストローク公爵家には諍いなど無く、かといって良好な関係でもないからだ。

ボストローク公爵家は騎士から成り上がった家柄でもあるため、その後継者には偏執的とも見られる冷静さと誇り高さが求められる。

それ故にヘレナはきつい性格であるが、


「それではいけないね、私が収めてこよう」


クルトの家...ネルガル公爵家の歴代当主は変な趣味で知られている。

クルトは今か今かとヘレナと既成事実を作る準備を整えていた。


『そこまで! ディーヴァ様がお話になられる!』


その時、画面の向こうから声が響く。

それを聴いた四人は、各々の席に戻った。


『皆の者、よく集まってくれたのう』

「「「「帝国の光よ永遠なれリア・ディーヴァ」」」」


貴族流の挨拶を済ませて、会議が始まる。

といっても、実際にはどう動くかの作戦をディーヴァに伝え、それをディーヴァが聞くという形をとって、同じ場にいる将軍達が軍をどう動かすか決める場である。


「自分はビースミルコルドですので、敵の主力艦と直に殴り合う予定でございます」

「私も同意見です。ビースミルコルドを前面に展開し、護衛艦で固めて攻撃の手を向けさせ、ジルストリークとクロムセテラスで攻撃を加えていくのが良いかと」


ラディウスとコシアが口々に発言する。

だが、それでは困る者が一人。


「待ちたまえ、それでは君の出番がなくなるよ」

「このような些事で、戦闘機隊の欠員を出すわけにはいかないのですよ」


クルトが進言するが、コシアはそれを笑って一蹴した。

要は、海賊勢力の主力艦一隻のために、艦載機を出す気はないという表明であった。

ヘレナは矢面に立たされるということだが、本人は別に気にしていないという様子だ。


「攻撃型のジルストリーク、攻城型のクロムセテラス、突入型のビースミルコルド。この三隻が揃えば、アディンバドルを沈めた程度の主力艦など一撃でしょう? 安心なさい、最初にヤツの気を引く役割は、この私が務めましょう」


コシアがそう宣言する。

艦載機は使わないが、主力感を誘き出す餌にはなってやろうという譲歩である。

その場にいた面々は、それなら仕方あるまいと納得する。

ヘレナだけは少しだけ納得のいかない様子だったが、和を乱すのも憚られたために黙り込んだ。


「皇女様、我らはコシアめのバライエルードを使い、敵の主力艦を誘き出します。それから、敵の主力艦がやって来たところでビースミルコルド、クロムセテラス、ジルストリークの順でワープし、かの主力艦へビースミルコルドが体当たりを行い、ワープを妨害してから攻撃を行いたいと存じます」

『う、うむ。どう思うか、ファルシー将軍?』

「全く問題ないかと」


ディーヴァには指揮の才能はなく、教えられてもいない。

だからこそ、将軍がその作戦を直接耳に入れ、参謀と共に非主力艦の動きを決めなければならない。


『皇女様、我々はクロムセテラスの周囲に展開し、ワープと同時に連動ワープを行います、宜しいですね?』

『う...うむ、分かった。そちの好きにすると良い』


ディーヴァは内心つまらないと思っていた。

話すのであれば、自分に問い合わせずとも会議をすればいい。

だが、それは将軍と四大貴族の身分ではあり得ない行為だ。

ホストである自分が全ての貴族を束ねる立場であるからこそ、この情報交換の場があり得るというわけであった。


「(もし妾らが勝っても、シン殿と共に居られるだけで、何も変わらぬ...)」


ディーヴァは少しだけ、本当に少しだけ。

国民を捨てて逃げ出し、シンと共にビージアイナを滅ぼす妄想に意識を傾けたのだった。

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