108-餌の時間

こうして、順調にビージアイナ戦線を進めていた俺たちではあったが...

スターゲートをガン無視して襲ってくる敵も偶に存在する。

それが、この一例であった。


「他に手段が無かったとはいえ、流石に頭がどうかしているとしか思えないな...」


なぜかと言えば、防衛側は周辺からいくらでも戦力をかき集められるのに対し、攻撃側はゲートがないために数は有限である。


「で、総数は?」

『3200ですね、主力艦ではありませんが超大型艦がいます』

「やっぱりバカだな」


帰還の見込みもないのに大型艦を投入するとは...

くわえて、こちらはジャンプドライブによって50星系くらいを範囲としてジャンプが出来る。

そこからプリメイドジャンプゲートとアクセラレートゲートを経由しジャンプを続ければ、数時間で応援が到着出来る。

司令部との通信もリアルタイムで行えるのだ。

あの艦隊程度では勝てる術があるとは到底思えない。


「よし、ルル」

「はいっ」

「ネム」

「は、はいっ!」


楽勝っぽいので、俺は二人に告げる。


「ネム、お前は巡洋艦隊の指揮を任せよう、ルル、お前はスワロー・エッジに乗ることを許可する、ユリシーズにて天空騎士団の皆と共に戦え」

「「はい!」」


二人は最近頑張っているが、実力を示せない事に苛立っている様子だった。

だからこそ、俺は二人に出番を与えたい。

前線に立つことの多いアインスやツヴァイは、換えの効く存在に過ぎないが、この二人は違う。


「いいか、危険な事はするな...ああ、戦うことは既に危険か。...もし覚醒を切る局面になったら、必ず逃げに転じるんだ。艦はいくら沈んでも構わないが、お前達は...俺の妻なんだろう?」

「はい、分かりました!」

「きもに、命じます!」


二人の、決死というにはあまりにも可愛い覚悟を目にして、俺は顔を厳しいものへと変えた。


「よし、艦隊集結開始! 四時間後には出発する!」

『天空騎士団に招集を掛けました。ルートはどうされますか?』

「ジャンプフィールドジェネレータで、最も遠い星系に艦隊をジャンプさせ、そこから最短ルートを通れ」

『了解』


今回はナージャには首都防衛に努めてもらう。


「頼むぞ」

『その代わり、デート』

「ああ」


彼女が人間の恋愛行動について学びたいというので、ある程度は付き合ってやるつもりだ。

流石に肉体関係を迫られたら逃げるつもりだが...







数時間後。

Noa-Tun連邦領土内『ZC-XFR』星系に鎮座するビージアイナ艦隊旗艦『クーデルハイド』では。

艦長であり、総指揮官であるハーマン・アーラウェイ伯爵は、不気味な静けさに不安を覚えていた。


「ダメです、完全に通信が遮断されています」

「レーダー感度良好、ただし周辺に敵影なし」

「何をしている...? 我々は、領土内に陣取っているのだぞ...?」


ハーマン艦長が警戒心を露わにする中、それは起きた。

レーダーが、新たに出現した対象を示す音を上げたのだ。


「何だ...何が起きている!?」

「分かりません、急に艦隊内に不明な艦船が出現!」


直後。

艦隊を綺麗に覆うような形で重力異常が発生し、それを行った船は合流する事なく各個に分散、ワープアウトした。


「追え、ラッセン艦隊を五分隊に分け、追撃開始せよ」

「か、閣下」

「どうした? 何か問題が発生したか?」


ハーマンは滅多に口答えをしない部下の言葉に耳を傾ける。


「ワープが出来ません、正確には、ワープドライブの次元回廊が構築できないのです」

「何っ、まさか!」

「レーダーに感あり、ワープではない!」


その時、艦隊の後方に小型艦、凡そ300隻が瞬時に出現した。


「敵艦隊、ミサイル、もしくは魚雷らしき投射物を発射!」

「げ、撃墜するのだ!」


一瞬平静を失いかけたハーマン艦長だったが、すぐに正気を取り戻し、撃墜するように命令する。

だが、もう遅い。

発射された時点で撃墜されていなければならないそれを、通常の旋回速度の砲台で撃つことは不可能であった。

艦隊の中央で、複数の爆発が巻き起こる。


「ぐ、おおおお!!」


衝撃波で艦列が乱れ、クーデルハイドもまた衝撃波をもろに受けて大きく傾く。

更に二発目、三発目が着弾し、


「クーデルハイド、シールド出力が大幅に低下!」

「友軍の61%をロスト!!」


シールドが耐えられなかった小・中型艦船の殆どが残骸へとなり果てた。


「反撃開始! あの艦隊に向けて砲撃を!」

「ほ、砲撃開始!」


砲撃が開始されるが、既に爆撃艦隊はワープに入っており、射撃が到達する前に消える。

体勢を立て直そうとハーマン艦長が指示を出そうとしたとき、再びアンノウンターゲットの増加を示すレーダーアラートが響く。


「艦隊直上に敵艦隊出現!」

「更に、艦隊右舷後方に大型艦を含む艦隊が出現!」


こうして、局面――――否、「調理」の過程は最終過程へと移ったのであった。

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