099-逃避行(後編)

数時間後。

シンと妾は、遥か下まで降りてきていた。

場所は、夥しい数の戦闘機が並ぶ格納庫である。


「物凄い数の戦闘機ですね」

「ああ、これが全て出撃すれば、主力艦などあっという間に沈んでしまう」


シン殿の物言いに、妾は恐怖する。

帝国が保有する主力艦は5隻。

それぞれ各地に配備されており、もしこの戦闘機隊と遭遇すれば必ず沈められてしまうじゃろうと。


「こっちだ」


妾はシン殿と共に、格納庫の端を歩き続ける。

人気はほとんど無いものの、一応と言うことであろう。


「これがエレベーターだ。近道を通れたのは僥倖だったな」

「...」


妾たちはエレベーターに乗り込み、下の階へ向かう。

そして、エレベーターの先を警戒しつつ、開いた扉を潜った。


「こっちだ」


シン殿の言う通り、妾は角を曲がって...

そして、その先にいたものを見た。


「ノーザン主席.........何故、ここに!」

『オマエノ策ナド、オ見通シダ』


直後、シン殿は妾を強引に引き寄せ、駆け出す。


「ひゃわっ!?」

「逃げるぞ!」


直後、妾たちを狙ってか、飛んできたレーザー弾が床や壁に当たる。

シン殿は追手をかわしながら、着実に進んでいく。

その判断の早さは、とても素晴らしいものじゃった。


「いいか、これからエレベーターに乗り込む。そうすれば、不用意に発砲できないエリアに降りることができる。そうすれば、より安全に移動出来るはずだ」

「わ、分かりました」

「よし、入れ!」


エレベーターに滑り込んだ妾たちだが、廊下の先から銃を構えて兵士達が駆けてくる。

しかし、そ奴らが辿り着く前に、扉は閉まり、エレベーターは動き出したのじゃった。

エレベーターは下降を続け、途中で止まったりしないかと、妾は散々気を揉む。

その度に、シン殿は妾を慰めてくれた。


「よし...ここは殆ど安全だ、行くぞ」


降りた階層は、何やら巨大な機械音の響く場所であった。

妾たちは、円周状の回廊を歩き続ける。

何かを囲むような形状の回廊じゃった。


「ここは...?」

「重要な施設だ。この障壁があるとはいえ、不用意に射撃をすれば厳罰になるだろうからな」


シン殿はそう言うが、妾は少し不安だった。

しかし、ほとんど何もなく、妾たちは下へと降りることができた。

そして...


「ここが脱出艇の区画だ、急げ!」


妾たちは急いで、脱出艇のある場所へ向かう。

幸いにも、脱出艇には何もされていなかった。


「元気でな」

「待ってください」


妾はシン殿に呼び掛ける。


「...もう一度、聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「我が国に来ませんか? 私があなたを守りますから」


このままではシン殿は、叛逆の汚名を着せられ殺されてしまうだろう。

それはあまりにも、情けない。

妾が好いた男一人守れぬのは。


「...前にも言っただろう、俺は」

「ここで裏切ったとしても、妹を取り返す好機は必ず来るはずです」

「...だが、無理だ。悪いな」


取り付く島もない。

この男の決意は本物なのだと、妾は理解した。


「シン殿...」

「心配するな、俺は不死身だ」


シン殿は、壁面のボタンを押す。

直後、妾とシン殿を隔てていた壁が締まる。


「ま、待って! 待ってください!」


扉を叩いたが、それはびくともしなかった。


「ノーザン・ライツ、勝負だ!」


直後、激しい銃声が響き。

静かになった。


「...」


妾はもう迷わなかった。

脱出艇を、教えてもらった手順通りに起動する。

そして、懐かしき帝国へ向けて、逃げ帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る