100-釣り合わぬ想い

デーヴァを帰してから数時間後。

俺は疲労で戦闘指揮所に倒れていた。

床は自動除菌なので、寝ても全く問題がない。


『中々の名演技でしたよ、司令官』

「いや...俺もちょっとだけ、いいと思ってたんだ」

『えっ!?』


オーロラが動揺したような声を上げる。

お前らしくもない...


「妹みたいだった。ルルやネムにも同じ感情を抱くんだが、守ってやりたくなるものなんだ」

『ああ、そっちですか...』

「何だ? そっちって」


他に何か感情を抱くことがあるか...?

恋とかか? まさか。


「俺は愛して貰う程の資格を持ってるわけじゃないからな」

『そうは思わない人はたくさんいると思いますよ』


オーロラがもっともらしい事を言う。

だが実際の場合、愛して貰うにはこちらも愛さなければならない。

無干渉な人間に近づいてくるのは、愛を理由にこちらを利用する気の人間だけだ。

妹は俺を慕ってくれたが、それは兄妹愛というだけだ。

それに...


『何故司令官は、自分が孤独だと常にお思いになられているのですか?』

「俺がいつ...」

『顔に書いてある、とでも言うべきでしょうか? 貴方を一人にしないために人が動けば、貴方はそれを拒絶するのでしょう?』

「...部屋の外に、ネムやルルはいないな?」

『はい』


なら言ってもいいか。

俺は本音を口にする。


「俺の本質は、基本的には与えるだけだ。何の感情的見返りは必要としない。できれば友情や恩義、恋慕といった感情を感じてほしくない。それは俺には不釣り合いなものだ」


アインスやツヴァイの忠義。

ルルやネムが抱いている畏怖や尊敬、希望的観測だが恋。

デーヴァが俺に求めたもの。

それらは全て、俺にとっては大き過ぎる。

そういうのは全て、俺の妹に相応しいものだ。

俺が受け取るべきものではない。


『...私は、司令官のそういう所が好きですよ』

「冗談はいい、それより...シエラの資源採掘リストを」

『了解しました』


俺は話題を変えるべく、資源の貯蔵リストと主力艦の建造計画について見直すのであった。







妾が敵の恐るべき居城から帰還して一週間が経った。

占拠されたシエラ星系から帰還した妾を、皆は疑った。

それ故に、妾は敵に囚われ、親切な男に助けられたと正直に告白したのじゃった。

その後は、洗脳されたのではないかと失礼な勘違いを受け、対洗脳調査などというものを受けさせられたものの、妾が洗脳されることなど有り得ぬ話じゃ。


「それにしても...酷いのう」

「恐ろしい相手です、皇女様を拐かすばかりか、一週間で五十二もの星系を奪ってしまったのです」


ノーザン・ライツ。

シン殿の仇は、妾が必ず討つ。

じゃが...これでは、あまりに不利すぎる。


「主要星系へと接続可能な星系が敵の占領下にあり、商路でも敵の艦隊が何度か海賊紛いの強盗殺人を行っております」

「敵の首魁はノーザン・ライツ主席じゃ。敵であれば誰であろうと殺すあの男が絡んでいるのであれば、そのような非道な行為も頷ける」


ああ、それにしても...

シン殿、生きておれば良いが...

通信端末は全く反応せんし、恐らく死んでいるか、重傷を負っているのじゃろうが...


「皇女様、元気がありませんな」

「大したことではない、心配するな」


妾が浮かない様子であれば、臣下に迷惑がかかる。

シン殿の前では、妾は一人の少女じゃった。

だが、今は違う。

妾が帝国の皇女であり、帝国は我が帝冠の為にあるのじゃ。

待っておれ、シン殿。

生きておれば、また会おう。

死んでおれば、貴殿の仇は必ずや取ってみせよう。


「よし。至急騎士団長達を集めよ。会議を行う!」

「はっ」


ここから盛り返す手段を考えねばなるまい。

妾はそう考え、会議に乗り出すのだった。

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