097-ロマンス詐欺
「どうだ?」
「えーと....はい、美味しいです」
二日後。
俺はデーヴァを、食堂に連れてきていた。
せめて最後の日ならと、ルルとネムを外周部に避難させ、ナージャを軽くあしらって追い出して、施設の生活を体験させてやることにした。
「それにしても、いいのですか? こんなに
「大丈夫だ。それに、今日はノーザン・ライツは視察に出ていていないはずだからな」
デーヴァには着ていた服や装飾品を外してもらい、今日だけ子供サイズの職員服を着せている。
そして、周囲ではオーロラのホログラムの職員が、食事をしている映像が流れている。
「それに.....よく食べるのですね」
「ああ」
「羨ましいです」
「.....そうか?」
「そんなに食べられなくて、もっと食べれば大きくなれると、よく言われるのですが」
「別に食べる事だけが重要ではない。バランスよく様々なものを食べて、休息をとり、運動すればいい」
「では、いつかのために、よく食べます」
その命も、俺が侵略の手を止めない限りはそう長くない。
心は痛むが、まあ仕方ない。
接待みたいなものだ。
「ここがトレーニングルームだな」
「広いんですね.....」
「ああ」
俺はデーヴァを誘って、暫くトレーニングコースをこなす。
「こんな事、やった事もありませんでした」
「そうなのか?」
「はい」
お嬢様のようだし、貴族云々の話であまり大きく体を動かさないのだろう。
「まあ、俺もそこまで鍛錬に勤しむわけではない」
「そうですか....」
「俺が使うのは、ここだからな」
頭を突いて見せる。
その時、奥のサウナエリアから、一人の女性が出てくる。
「アインスか」
「あっ.....司令官、何か御用事ですか?」
「特にはないが....これからトレーニング再開か?」
「イエス、サー」
「成程......デーヴァ、行こう、邪魔をしてはならない」
「はい」
俺たちは更に階を降り、普段あまり行かない場所へと向かう。
「.....ここは、何ですか?」
「ここが脱出艇のある場所だ。既に物資の積み込みは終わっている――――今すぐにでも、帰りたいか?」
俺は、デーヴァにそう問いかけた。
そもそも明日帰るという話は、ノーザン・ライツが帰還するうえでもっとも警備が絞られているタイミングという説明をしているからだ。
「.....一つ、聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
その時。
質問を質問で返された。
「私と一緒に、帝国に行きませんか?」
「何?」
「貴方はとても、能力が高いですし....あんな非道な男に仕える理由など、ないはずです」
「..........」
いい子だ。
とても。
だからこそ、俺はこいつを騙さなければならない。
Noa-Tun連邦の真の支配者として。
「俺は、好きでノーザン・ライツに仕えているわけではない。妹を人質に取られているんだ」
悪い、流歌。
ちょっと存在を借りるぞ。
「だったら、助ければ.....」
「場所すら教えてもらっていない。だから俺は、お前を信じている」
「.....私を?」
「もし俺が死んでも、お前は俺のことを覚えていてくれるだろう?」
「そ、そんなこと.....」
彼女はしばらく俯いていたが、すぐに顔を上げた。
「お別れしても、連絡手段は確保してくださいね」
「....考えておこう」
これで、伏線を張り終わる事が出来た。
俺は内心ほくそ笑みつつ、自分の最低さを改めて嚙み締めるのだった。
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