094-裏切りの蜜乳

「すみません」

「構わない」


数日後。

俺は夜中に、デーヴァの悲鳴で起こされた。

よっぽど怖かったらしく、トラウマになって夢で見るようだ。


「怖かったか?」

「はい.....その、ノーザン・ライツが、みんなを.....」

「俺の主でもある。.....まぁ、快く思ってはいないが」


俺は不満そうな顔を浮かべてみる。

実際、オーロラが主君になったらと思うとちょっとゾッとするしな。


「あの....私を助けてくださったので、何か罰を受けたのでは....」

「お前が傷つく事よりは、大したことではない」


俺は部屋の冷蔵庫を開け、牛乳(?)と蜂蜜(?)を取り出す。

どちらもイルエジータで採れたものだ。

クローゼットのような覆いを外し、IH調理機のような調理装置を出し、ポットに牛乳を注いで温める。


「あ....そのような事をしなくても大丈夫です!」

「おまじないのようなものだよ」


俺はマグにホットミルクを注ぎ、蜂蜜を入れてデーヴァのところまで持っていく。


「悪い夢を見たときは、これでも飲んで落ち着いて、また眠るんだ」


妹も、これが好きだった。

ある程度大人になってからは、飲まなくなったが。

俺はそれを、一回ですべて飲み干す。

ちょっと甘すぎたか?


「ふっ、ぐっ......ううっ.....」


その時、嗚咽が聞こえてきた。

蜂蜜入りミルクを飲んでいたデーヴァが、涙を流していた。


「どうした?」

「......私は、ちゃんと家に帰れますか....?」

「俺が帰してやる」

「ですが、それだとあなたは.....」

「正しくない事を通すのは、ダメなことだ」


自分で言ってて心が痛くなってきた。

筋金入りのサイコパスっぽいシチュエーションだが、これもビージアイナを手に入れる策の一つ。

内通者を作るための一手だ。




基本的に、デーヴァは誰にも会わせないようにしている。

しかしながら、誰もいないのも疑われるので、


「シン司令官、私のホログラムはどうです、本物そっくりでしょう」

「ああ、そうだな」


オーロラの作った偽の俺の側近と会話をするところを見せる。

俺と側近との会話は日本語なので、デーヴァには分かるはずもない。


「あの、何をお話しされていたのですか?」

「君の処遇についてだ。三日後に、船団に紛れて君を脱出させる――――いいな?」

「はい.....でも、本当にいいのですか?」

「何がだ?」


俺は聞いたが、彼女の声は小さすぎて――――その先を聞くことはできなかった。


「まあ、構わない。君は君のいる場所に帰るべきだ」

「でも、貴方の.....いえ、大丈夫です」


俺の立場を心配してくれているのかもしれない。

だが、これは芝居に過ぎない。

喜劇でも悲劇でもない。

茶番に過ぎないのだから。

酷い奴だと、誹るやつもいるだろうが......結局のところ、悪くないと思っていても。

彼女は敵なんだ。

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