093-束の間の平穏
貴族のお嬢様を保護した。
とりあえず味方につける方法は成功したな。
これであのお嬢様に、Noa-Tun連邦は一枚岩ではないと思わせることができたはずだ。
「オーロラ、彼女の様子は？」
『現在は、司令官の私室で休んでいます。退出する様子はみられません』
彼女はどこかのお嬢様らしく、解析したビージアイナ語でも正統な流派の言葉遣いだった。
名前はイーヴァ、もしくはデーヴァ、そんな感じだ。
とりあえずはデーヴァと呼んでおくことにする。
「どうだ、シエラ星系の状況は」
『敵対存在の99%を殲滅しましたので、現在領有権ユニットの係留中です。それから、プリメイドジャンプゲート、プリメイドアクセラレーションゲートも係留を完了。現在リンクは維持されています』
「よし」
ジャンプの際に燃料を消費するものの、プリメイドジャンプゲートは実質的なスターゲートである。
それから、アクセラレーションゲート。
これは、明確な座標がなくても目標の銀河に次元運河の軸を合わせることで、船を送り込める一方通行型のゲートである。
これでジャンプピンガー展開艦を送り込み、攻略をしていく予定だ。
「今日の戦闘は、アインス、ツヴァイ。お前たちとオーロラに任せる」
「イエス、サー！」
「イエス、マスター」
俺は席を立ち、二人に戦闘指揮を任せる。
前回の戦いのフィードバックデータがある以上、俺、アインス&ツヴァイ、俺、アインス&ツヴァイの組み合わせで回していけばいいだろう。
「オーロラ、今回も頼む」
『お任せください、司令官』
俺は戦闘指揮所を後にして...ナージャとばったり出会った。
いや、これは...恐らく
「あー...何の用だ？」
『糖分の嗜好的摂取、要請。ぱふぇ、配給要請』
「ああ...」
食堂ではほぼ何でも食べられるが、ルルとネムの健康管理のために、普段は食堂のシステムを俺の権限でロックしておりAM6:00〜8:00、PM0:00〜15:00と18:00〜20:00の時間のみ使えるようにしている。
その中でも健康に悪いものは、俺が許可しないと食べられないようになっているので、彼女は俺に強請りに来たというわけだ。
「今から一時間だけロックを解除する。逃すな」
『感謝』
ナージャは足早に去っていく。
心なしか足取りが軽そうに見えた。
「これで許してくれるといいのだが」
シエラ星系のスターゲートは破壊した。
特に向こうの星系に用事もないためだ。
正直、一度でもアクセラレーションゲートを設置した時点で勝ちは見えている。
だが、一応Ve‘zの遺産ではあるし、それを恨まれたら困るので報告を入れておいたのだ。
返事は淡白だったが、恨まれていないか不安でもある。
「.........」
俺はエレベーターを使い、居住区近くの庭園に向かう。
そこでは、ルルとネムが遊んでいた。
二人は俺の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「シン様！」
「シンさま！」
俺は二人を屈んで受け止め、抱きかかえる。
流石に俺の筋肉だと、二人分はちょっと重いが.....
「はは....ちょっと大きくなったか？」
「うん！ 毎日ご飯食べてるから！」
ネムが答える。
子供の成長は早いな....妹を思い出す。
「さて、今日は何をする？」
俺は二人を降ろしてやると、その頭を撫でてやる。
「さ、さっかーを....」
「かくれんぼ！」
「よし、サッカーとかくれんぼだな。どっちが先だ？」
「かくれんぼ！」
「そうか.....分かった」
俺は後ろを向き、二人が隠れるのを待った。
――――その後、本気で隠れた二人を探すのに途轍もない時間をかけるのだが....
今の俺はまだ知らなかった。
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