092-白馬の(?)司令官
「...........」
ディーヴァは、暗い部屋で静かに震えていた。
その理由は、地上戦力の壊滅にある。
「な、何なのじゃ......あれは.....!!」
地上に落下してきた大型のドロップシップ。
彼女の側近たちは、そこから出てきた戦闘ボットを大したことがない雑兵だと踏んだ。
本隊はその後に送られてくる――――そこを一気に叩く予定だったのだが。
戦闘ボットは、まさに制圧専用のものといっても過言ではなかった。
圧倒的な制度と射程を持つ精密レーザーにより、シールドやデコイ、防壁等を無視した一方的な射撃を受け、現地の陸上戦力はあっという間に壊滅した。
サーマルステルスを看破する驚異的なスキャン能力、死を賭して小隊が放った艦砲すらも無力化するシールドを持ち、まさに絶望そのものだった。
「みんな....みんな死んでしまった.....」
彼女の側近たちは、ディーヴァを地下倉庫に閉じ込めると、出ていった。
しばらくして、彼らの通信機からの通信は完全に途絶した。
『ココニイタカ』
そして。
地下倉庫の扉が破壊され、四機の戦闘ボットが入り込んでくる。
そして、その中央には、ノーザン・ライツが立っていた。
戦闘ボットからの高解像度ホログラム投影だ。
「.....ッ!」
『排除スル』
「待て....ッ! お前たちは何者なのじゃ! 何故、ビージアイナに手を出す!」
『排除スル』
戦闘ボットが、ディーヴァにスキャンの光を浴びせる。
彼女が目を瞑り、死を覚悟したとき。
「待てっ!!」
彼女の前に、一人の男が立ちはだかった。
「ノーザン・ライツ主席! 民間人に手を出すなと言ったはずだ!」
立ちはだかった男――――シンは、バッと右腕でディーヴァを庇う。
『命令違反ハ処罰スル』
「くっ、逃げるぞ....立てるか?」
「貴殿は....?」
「俺の名はシン・クロカワ。.......死にたくなければ、俺の手を取れ」
「.......はい」
ディーヴァは差し出された手を取る。
シンはディーヴァをそのまま抱きかかえて、戦闘ボットの真横を離脱する。
「ひゃっ!? も、もう少し丁寧に――――」
「俺から離れるな、戦闘ボットは俺を撃てない!」
「は、はいっ!」
『シン、貴様!』
戦闘ボットは、シンの周囲に乱雑な射撃を放つ。
それらを避けながら、シンは地下倉庫から逃げ出した。
そして、それから数十分後。
「大丈夫か?」
「あ....あなたは....? 何故わら....私を助けて...?」
「俺はシン。Noa-Tun連邦の司令官だ。.....この戦い、本来は要人の君を捕縛するはずだったのだが....あのノーザン・ライツ主席が殲滅作戦に切り替えたのだ」
ディーヴァは、目の前にいるのが怨敵だと認識する。
だが同時に、ならなぜ自分を助けたのかと考える。
全員を殺戮したのなら、自分を助ける意味はない。
「わ、私が誰だかわかっているのか?」
「知らないな....だが、おそらく貴族だろう? 何より.....その気品からは、特権階級の気配を感じる」
ディーヴァは一瞬葛藤する。
この人は、自分を助けてくれた。
彼の誠実さに背くのは心が痛む。
だが、この男は同時に、非情さを宿した瞳を持っている。
自分が皇女であると知れば、必ずあの恐ろしい男に自分を売るだろう。
「(.....それに....ちょっと、かっこいいのじゃ.....)」
ディーヴァはシンに何か、新しい気持ちを感じていた。
「安心しろ。君は必ず、本国に送り届ける」
「.....はい(こ、これは...情報を盗むためにじゃ。決して裏切りなどではない!)」
ディーヴァは自らの心と身分を隠しながら、強く頷くのだった。
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