091-降下攻撃開始

「貴様らは雁首揃えて何をしていたのだ!」


側近の叱責が、艦隊の主力艦艦長たちに飛ぶ。

場所は、シエラⅫに設けられた皇女の離宮。


「まあ待て。落ち着くのじゃ、敵も無慈悲というわけではあるまい。必ず和平の申し出があるはずじゃ」


ディーヴァが発言するが、その場にいる人間全員が、同じ感想を抱いた。

「そんな訳ねえだろ」と。

無警告で一つの星系を沈黙させた勢力と、まともにコミュニケーションが出来るわけがない。


「とにかく、大気圏内での戦闘は困難で、制宙権はあちらにある。もし生き残れたら、貴様らは全員死刑だ!」


側近は最悪の発言をする。

これから死闘が始まるというのに、早速戦意を削ぐような事を言い出したのだ。

ディーヴァは止めようかと思ったが、言っても無駄かと諦める。

状況は悪い、敵が空にいる以上一方的な爆撃で殺されるかもしれないからだ。


「(怖い...)」


ディーヴァは心の中でそう呟く。

だが、君主としてどっしり構えていなければならない。


「皆の者、戦闘準備を......」


そのとき。

唐突に、その場にあった全ての端末が点灯する。

そして、その端末には...不気味な仮面をつけた男が映っていた。


『ビージアイナ帝国ノ人間ニ告グ。直チニ武器ヲ捨テ投降セヨ。コレハ我...Noa-Tun連邦主席ノーザン・ライツニヨル直接ノ勧告デアル』


人間のものとは思えない抑揚のない声が、恐怖と不安を煽る。

だがすぐに、ディーヴァは声を振り絞って叫んだ。


「お前達に降伏などしないぞ! 妾達は屈強にして精強なる軍隊を持つ。一度敗れたほどで恐れはしない」


その場にいた艦長達は、一斉に「おいおい、冗談だろ?」といった顔をする。

だが、ディーヴァには戦争はわからない。

敵がどういうレベルでこちらを上回っているかを理解していないのだ。


『宜シイ。デハ、コレヨリ降下襲撃ヲ開始スル』


そして、ディーヴァの軽率な発言は、Noa-Tunを刺激した。

いや、彼女が悪いという訳ではないだろう。

なぜなら...


『ごほん、これで良いですか? 司令官』

「ああ、ナイスデザインだろ?」


不気味な仮面の人物は、オーロラのアバターであった。

その名はNorthern lights(北の光)...つまりはオーロラの別名である。


『司令官のセンスについては、私の中にデータが不足しているためにお答えできませんが...しかし、こちらを容赦なく攻撃できる理由は出来ましたね。それから、敵に対する計画の一歩目にもなるかと』

「ああ」


シンは頷く。

これで、外に対する実質的な指導者はノーザン・ライツとなり、シンは数多くいる(設定の)司令官の一人となった。

戦略的な重要度は大きく下がり、狙われる可能性も限りなく低くなった。


「あ...あの!」


そのとき。

ネムが発言した。

ルルはまた困らせて、という顔をしたが、シンはそれを咎める事はしなかった。


「何だ?」

「ち、地上攻撃って言っても...どうやってやるんですか?」

「ふふふ、良い問いだな」


シンは笑うと、コンソールを少し操作する。

すると、とある機体の情報が表示された。


「ちじょうせんよう、ぼっと...?」

「突入ボットの亜種だ。地上に降りて惑星の採掘施設や加工施設を破壊するための兵装だな」


SSCの時代は、この地上戦用ボットを投下して惑星産業をしているプレイヤーの設備を荒らしていた。

ボットを投下するドロップシップランチャーを装備している艦が惑星の周囲からいなくなるか、アーマーが消失すると防衛成功となる。


「こいつらは装甲突入型、迫撃砲装備型、対人特化型の三種類がいて、ドローンによる支援も合わせると強力な存在になりうる。ある程度敵を倒したら、俺が降下して例の作戦を実行する。」


シンはそう言い切った。

直後。


「し、シン様! それはあまりにも...危険です!」

「そう、そう!」


ネムとルルが姉妹で反対し始める。

だが、シンは微笑む。


「安心しろ、俺にはゲブラーとケセドが付いてる」


背後に控えていたゲブラーとケセドが、自慢げに胸を張る。

確かに、彼らのセンサー能力と反応速度、武装であれば即座に敵性存在の制圧が可能である。


「それに...俺にはこれがある」


シンは自慢げに、大きく膨らんだポケットから何かを取り出す。

それは、六角形の謎の物体に、電池らしきものが乱雑に接続された装置だった。


「俺の日曜大工品、短期高出力範囲シールド発生装置だ。効果時間は3分、俺を中心に半径50mの円形のシールドを作り出す。」

『本当に大丈夫なのですか?』

「俺のFac品だ、性能は保証する」


小学生の夏休みの自由研究並みの物体を完璧と言い張るシンに、その場の全員が困惑するのだった。

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