080-Noa-Tun艦隊大決戦(後編)

突如、ゲートと共に現れた、大量の艦隊。

だが帝国はそれを見越して、救援艦隊を準備していた。

海賊もどきなど、一瞬で片付く...そう、ステーションの人間達は思い込んでいた。

だが、実際は...


「何だよ...イチコロじゃん」


そう発したステーションの子供と同じ感想を、皆が抱いた。

侵略者は、恐るべき兵装で、防衛艦隊を一瞬で踏み潰したのだ。

帝国の標準である46cm四連装レーザー砲の斉射を受けてもびくともせず、その攻撃力は小型艦であったとしても標準砲を上回っていた。

そして何より、隔絶していたのは練度の違いであった。


『こちらc23巡洋艦! 斉射を受けている、持たな...ぐわああああっ!』

『くそ、こちらも撃たれて...なっ、被弾率が...ぎゃああああ!』


侵略者の艦隊は、別々の対象を狙う帝国軍の艦隊とは違い、全ての船が同じ対象を狙っていた。

勿論、そのターゲットが沈めば、即座に別の対象へ切り替わる。

その選別方法は適当などではなく、的確に重要な役割を持った船を狙って来ていた。


『何故...何故ステーションを狙わない...?』


戦略的に攻撃対象であるステーションには一切手をつけない艦隊に、旗艦に座乗する指揮官ダウハスは不気味なものを覚えていた。

まるで、ステーションなど一撃で破壊できるとばかりに何もしないのだ。

まさか、避難民すら逃げられずに崩壊したステーションと何か関係が...? そうダウハスは疑う。

だが実際は、全く異なる。

避難民の船団は、ゲート前に多重展開された設置型ワープ妨害に引っかかり、まとめて拉致されたのである。

範囲型インターディクションは、円形の範囲を持つが、展開された時点でワープ進路がその範囲にぶつかる場合は、範囲ギリギリで停止するのである。


『ぬうっ!? 何だ、何が起きている!?』

『て、敵からの集中攻撃を受けています!』

『最早これまで...敵へ降伏の通信を送れ!』

『ダメです、応答なし!』


旗艦が集中攻撃を受け始め、ダウハスは泣く泣く降伏の意思を示さざるを得なかった。

だが、帰って来たのは沈黙のみ。

その時、ダウハスの脳裏にVe‘zとエミドという、二つの勢力が過った。

どちらも沈黙を貫く...監視者と調律者である。

であれば、目の前の敵は何か...?


『侵略者...!』


その呟きと共にシールドが消し飛び、旗艦はあっという間に宇宙という海の藻屑と化した。


『旗艦がやられた! くそ、逃げ...何で、何でワープできない!?』


旗艦が墜とされるや否や、逃げ出そうとした帝国兵達は、周囲に浮かぶインターディクションコアの存在に気が付かずにワープで逃亡を試みる。

だが、歪んだ重力場の中では、FTL航行の航路確立が不可能である。

そして、残存艦隊は......Noa-Tun旗艦セレスティアルの最終兵器「クリア・スカイ」によって貫かれ、そのほぼ全体を喪失した。

そして、射線上にあったステーションも例外ではなく...


『ママぁ、助けてっ!』

『ああ...この...悪魔めっ!』


クリア・スカイに巻き込まれ、その大部分が融解し、内部にいた人間は漏れなく全員が蒸発した。

それでも残った生命反応を確実に抹殺すべく、艦隊から吐き出されたドローンが残骸へと向かっていく。


『攻撃艦隊、最後のステーションへと回頭せよ。既にゲートの封鎖は完了した。地上攻撃隊が出撃したので、ターゲットリストから除外せよ』


シンの声が響き、その場にいた全ての艦がオーロラの意思で回頭を始める。

そして、最後のステーション攻略を開始した。

最後のステーションは非武装であり、第一、第二ステーションに防衛を任せていた。

そのため、急遽イニシエーター艦隊を出撃させ、脱出ポッドを鹵獲しつつステーション内で帝国人を屠殺する作戦へと変更された。


『やめてくれっ、故郷には家族が...あああ!』


同時に、第三ステーション内では悲痛な声が響いていた。

地上攻撃艦隊が、都市部には中性子弾頭を、過疎部には戦術核弾頭による爆撃を行なっていたためである。

都市に密集していた帝国人は恐るべき未知なる攻撃により、遮蔽物などお構いなしに死に、地方は核の炎で二度と住むことのできない地獄と化した。


『何だってんだ...俺たちが何をした!』


帝国兵の一人は叫ぶ。

だが、全ては無意味である。

無辜なる民を殺すこと、それによって生まれる無限の負の連鎖。

それが起こることを知る者による、無差別虐殺。

そして、その兵達は皆命令にのみ従う鉄の兵隊。


『突破された...!』


突入ボットが管制室の扉を吹き飛ばす。

職員達は応戦するが、レーザーガン程度で突入ボットのシールドを傷付ける事は不可能である。


『アーナの仇ぃぃ!!』


泣きながら突撃した男は、脳を撃たれて倒れた。

それを皮切りに、無慈悲な精密射撃が始まり、5分と経たずに最後の生存者たちはその命を散らした。


『作戦終了。全艦隊は記録を行うためその場で待機せよ。戦闘機隊、ドローンは一度帰還し補給を行え』


こうして。

Noa-Tun連邦による無慈悲なる進撃。

全ての国家に対して、侵略者として現れたNoa-Tun連邦の、最初の虐殺が幕を閉じた。

通信妨害によって全てが隠匿された、静かなるこの侵略は、同時期に起きたVe’zの反撃によるヴァンデッタ帝国の激戦と合わさり、各国家に大きな衝撃を与え...大いなる嵐を呼び込むこととなったのだった。

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