076-皇女の断罪

それから数日後。

混乱の続くクロトザク本国の、全ての通信網が突然ジャックされ、皇女マリアンヌが映し出された。


「お、おい! あれ...!」

「マリアンヌ様だ!」


国民たちは、皇女の無事に安堵したが、同時にある一つの疑問を抱く。

なぜ皇女は無事だったのか、と。

マリアンヌは可憐な笑みを崩さず、信じられない言葉を口にする。


『国民たちよ、私のもとに集いなさい。そうすれば、Noa-Tunの偉大なる司令官である、シン様が慈悲をくださいます。愚かにも彼に歯向かった私でさえ、生きることを許してくださった彼の下に――――しかし、私が洗脳されたのでは、と思う民もいるでしょう。ですが....大丈夫です、必ず幸福になることができますよ、私のように....』


皇女の言葉に根拠はなかったが、国家という基盤を失った国民たちには強く響いた。

もともとが高貴な皇女に従うように洗脳された国民たちは、その言葉に耳を傾け始めた。

反逆の手を止めて。


『三日後に、皇城跡に集まりなさい。選ばれた民だけが、この地獄から救われるでしょう。選ばれなかった民たちは、外へと出ることをおやめなさい。今までこの星の外へと出ようとした民たちは、皆死にました。外へと出なければ、シン様の慈悲はあなた達を許すでしょう』


ふざけるな、こんな惨状にしておいて。

外へ出るなだと。

そんな感想を抱くはずの国民たちは、洗脳教育の賜物か皇女にすんなりと従う。

城を破壊し、皇女を拐かしたNoa-Tunだが、皇女が無事であれば、自分たちが余計な事をするのは皇女を危険に晒す事であると理解したのだ。


「ふざけるな! 皇女なんかより、俺たちの生活を保障しろよ!!」


そう叫ぶ者もいた。

もともとは上級国民だったのだろう、洗脳教育を受けなかった者だ。

上に立つ者が自分たちの生活を保障する――――そう信じてやまない人種だ。


「お....おい、何だよお前ら....なんだ、なんなんだ....その目は!! やめろっ!!」


だが、そんな事を公言すればどうなるか?

結果は見えていた。

怒り狂う国民たちに、その男はリンチされて、当然のように死んだ。

それを見ていた者達は、恐怖でなりをひそめた。







それから三日後。

皇都には、たくさんの人間が詰めかけていた。

「選ばれた者」になるために、下級、上級を問わず生き残った全ての民がそこにいた。

逆に、Noa-Tunを信用できない者は、そこにはいなかった。

そして、集った者も、集わなかった者も、その選択を後悔することになるということを、彼らはすぐに知ることになる。


「な、何だあれは!?」


時間になり、画面が切り替わる。

するとそこには、腕組みをして座るシンと、その足を舐めさせられているマリアンヌの姿があった。


『ようこそ、君たちの墓場へ。バカが餌を用意したらすぐに飛びつくというのは本当だったようだな』

「こ....皇女様を離せ!」

「そうだ! よくも皇女様にそんな辱めを....!」

『いいのか? ア...マリアンヌ?』

『そんなぁ...やめないで.....』

『だそうだ』


国民の憧れであり、象徴的存在だった皇女が、支配者の足を舐め、悦んでいる。

それは国民たちの脳を即座に破壊した。


『さあ、アインス、判断せよ』

『サー、イェッサー!!』


その時、シンがそう命じた。

途端、マリアンヌは立ち上がって敬礼し、画面の方を向いた。


『これより、クロトザク国民の即決裁判を開始する!』

『ん?』

「こ、皇女様....?」

「俺たちは何もしてねえっ、皇女様、助けてください!」

『諸君らは戦争に加担し、抵抗の意思も見せずにNoa-Tunの財産に損害を与えた。よって、即決で死刑とする! 偉大なるNoa-Tunに栄光あれ!』


直後、空が輝きに満ちた。


「何かが落ちてくる!!」

「皇女様ぁああああああああああ!――――」


皇都に、ランサー:オーロラグランツによる光の柱が直撃し、そこに集っていた人間達は高密度の衝撃波によって一瞬で蒸発した。

周辺に拡散した衝撃波は都市を完全に破壊し、周辺地域に分布していた生き残りをも纏めて始末した。


「よっ....よく決断を下したな、アインス」

「はっ! 我が心はNoa-Tunにあります! シン司令官様のご命令であれば、即座に決行するまでです!」


敬礼をしたまま動かないアインスに、シンはドン引きしつつオーロラに尋ねた。


「オーロラ、原稿通りにやったが.....これで良かったか?」

『はい――――』

『はいっ! シン様、凄くかっこよかったです!』

「...それはよかった」


かつて栄華を誇ったクロトザクの本国は、元皇女の下した判決により、その国民のほとんどを失って消滅した。

そして、生き残った人間達は、皇都に何が起こったかを知り、死なないために、生き残るために宇宙船を捨て始めるのであった。

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