075-獣人たちの道
「ああ.......いい....」
俺は見ていた。
至高の光景を。
資源が溜まっていくモニターを....
「あの....シン様....何が良いのですか?」
「いや、大丈夫だ...」
それよりも、獣人たちのこれからの身の振り方についてだったな。
「....ルル、獣人たちは役目を失った訳だが、これからどうしてほしい?」
俺がなぜこんなことを聞くかと言うと。
抽出装置が完成し、惑星から資源を自動で掘り出せるようになったからだ。
獣人国以外の国々の領土に、「抽出アンカー」という基地を打ち込み、作業ドローンによってパイプラインを敷設、警備を行っている。
獣人の旧式の採掘設備による抽出作業より効率がいいので、もう獣人たちに労働者としての役割は期待できない。
「.....その、ただ生きているだけではダメなのですよね?」
「ああ、そうだな。人間の脅威から保護している以上、対価を求めないのは俺のルールに反する」
「.......」
俺は別に、獣人たちに死ねとは命じるつもりはない。
ただ、利益をもたらさないなら、それは俺にとって「無関係」にあたる。
ルルが悲しむという、小さなリスクのためにコストを投じる気はない。
「天空騎士団の人数だけではダメですか?」
「ああ。彼らに対価は与えるが、種族全体に対しては貢献が足りない。俺は神じゃないから、信仰や忠誠を対価だとは思わない」
俺は神ではなく、「王」だ。
心の拠り所として依存するだけの信仰と、確実かもわからない忠誠は利益にはなり得ない。
どちらも過去に、痛い目に遭った思い出がある。
「重く考える必要はない、別に俺は命を差し出せ、なんて事は言ってないからな」
「では....畑仕事などでは....」
「畑仕事か.....食糧生産は間に合っているからな」
Noa-Tunの装置で食糧は生成できる。
この人数と、これから来る天空騎士団四十名を賄うには十分だ。
「さらに言えば、兵力としても期待していない。あくまで天空騎士団はルル、お前を一人で戦わせないための建前でしかない」
冷酷だと思いたければ思うがいい。
ただ、全てを守りたいと自分の身を削るのは愚か者のする行為だ。
「.....でしたら、一つだけ考えがあります」
「聞こう」
ルルは口を開く。
そして、その案に、俺は感心する事になる。
「ネムを指揮官として育成するのでしょう? でしたら、他の獣人も、現地派遣の戦闘員として雇用するのはどうでしょうか? もしこの宮殿との連絡が途絶えたとき、自分で考えて動く指揮官と、兵士は必要だと思います」
「だが、今の前線にそれだけの数は必要ないだろう?」
「ですから、希望する者を集め、教育を受けさせるのです。そうすれば、将来的に領土の拡大計画の役に立つと思うんです!」
成程、凄いな。
この間まで、非力さを噛み締めていた少女とは思えない。
「認めよう、確かに通信の難しいゲートの向こうで、活動できる人間は欲していた」
オーロラのコピー任せでもいいのだが、メインのデータバンクが無いオーロラは指揮官としてはポンコツだ。
「ただし。その教育の過程で、宗教についてを少し是正する必要がある。獣神とやらに忠誠を誓うのではなく、俺に誓ってもらう事になるが――――獣人国の元姫よ、それを許容するか?」
「........形だけの信仰であれば、許していただけるのですか?」
「ああ」
俺は頷く。
獣人たちにも、心の支えは最低限必要だろうからな。
「指揮系統を維持できる程度であれば信仰は認める。だが、俺を崇拝するような姿勢を見せれば再教育する。頼むからそれだけはやめて欲しい」
俺は崇拝など、一欠片たりとも望んではいない。
それは俺の人生と信念、妹の未来に泥を塗る行為に等しい。
俺のような矮小な人間がもし、欲しいと思うのであれば、それは尊敬と信頼だけ。
根拠のない盲信をして欲しくないのだ。
自分の足で立って、自分の信じたいことを信じて、未来へと進んでほしい。
神なき世界の秩序とは、そういうものなのだから。
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