077-ふみだせ資源の森

一週間後。

俺はついに、ゲートの向こうを攻略する準備を整えた。


『2JZ-GTE星系の名称を新たに『ユグドラシル』と呼称します。ゲートの先はMT-WXE星系と仮称を付けました。MT-星系は仮称C-6JTW星系と仮称SPC-169星系に接続されており、七つある惑星の内二つに周回軌道物体――――つまり、ステーションが存在しています。入植の様子は分かりませんでした』


何しろ2分程度のスキャンだからな。

Noa-Tunのあるユグドラシル星系は、ビージアイナ帝国の中心地からは大きく離れた領域であり、あまり開拓も進んでいないようだ。


「では、通常通りバックドアをゲートから侵入させ、ジャンプフィールドで艦船を送り込む。その後はゲートを完全に開通させ、ナージャを送り込んで二つのゲートを順番に停止する。オーロラ、通信ジャミングタワーの積み込みは終わったか?」

『はい、完了しております』


現地に出たらすぐに通信をジャミングするタワーを係留し、向こう側の周波数の通信を完全に遮断する。

救援を呼ばれるのを防ぎつつ、ステーションを掌握するのが目的だ。


「.....交渉は出来ないのですか?」

「ビージアイナ帝国の領土に出現してしまった俺たちは、海賊同然だ。つまり、交渉の余地はない」


ルルが尋ねてくるが、仕方ない事だ。

かくなる上はMT-星系を奪い、少しずつ船を量産して戦争に備える他無い。

まだ小惑星アステロイドオーダーすら建造できていないので、いくら技術レベルが低くとも、帝国の主力とぶつかるには力不足だろう。


「だからこそ、新規製造ラインの船は魅力的だ」


俺は、新規製造ラインを表示する。

充分な資源とパーツの製造環境を得たために、作ることのできるようになった新しい艦船たち。

デリュージ、イニシアチヴ、クルセイダー、キングメイカー、ペガサス、スティングレイ等々....

特にデリュージは凄い。

高火力の砲撃を、名前の通り豪雨のような勢いで浴びせかける戦艦だ。

シンビオシスの小型艦に弱いバージョンと言えば分かりやすいか。


「代わりに、デリュージはキャパシターに問題を抱えているからな....オーロラ、その辺の改良は出来ているか?」

『はい。ブループリントの構造解析が出来るようになったので、より良い方向に開発しております』

「......アインス」

「はっ!」


さっきから直立姿勢のまま動かなかったアインスが、俺の命令で命が宿ったように返事をする。


「クロトザクの開拓指揮権をお前に与える。もう国民はいないが、好きにやれ」

「はっ!」


この一週間で、ドローンを総動員してクロトザクの人間らしき生命反応が集中する集落に爆撃を行った。

それでも生き残った数百人は、クロトザクの軌道上に浮かぶ新しい構造物「タルタロス」に収容済みだ。


「禍根を断つには、ただ殲滅するしかない。間違っていようと、構わない」

『.....たまに思います。司令官はずっと、私たちに近い思考だと』

「馬鹿を言え。お前みたいに無慈悲ではない」

『司令官、そんな....酷いです.....』


オーロラが沈んでしまう。

そんなコントのような状態を、ナージャからの通信が打ち破る。


『配置完了。追加の指示、請願』

「しばらくそこに展開していろ。ジャンプ艦が来る」

『了解』


今回ジャンプするのは新造主力艦セレスティアル。

機動性が高く、星系内のランダムな場所に船をジャンプさせる充填式ジャンプ輸送装置を持っているので、緊急離脱に便利だ。

俺はその出撃を、静かに見守るのであった。



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