045-蠢く意思

Noa-Tunの存在する星系には、巨大なワームホールが存在する。

そのワームホールは、遥か古代に遺棄された装置によって今も維持され続けている。

その奥底で、思考する者がいた。


『2JZ-GTE星系にて大規模なエネルギー変動を確認。これは危険な兆候と判断する』


ワームホールは出口のないポケットへと接続されており、中では夥しい数のドローンと、何かの残骸が浮遊していた。

その中で最も異彩を放つ、奇妙な形をした大型の戦艦。

その内部にて、その者は考えた。


『異変を調査しなければ』


自らの主に伝えられた、遥か昔の使命...「視認せよ、認識せよ、分析せよ、理解せよ、判断せよ、排除せよ」...ソレに従い、彼らは動き出した。







「平和だ!」


俺はベンチに座って叫んだ。

場所はNoa-Tun内部にある温室。

植物なんて贅沢なものは置いていなかったが、イルエジータから移植した。

お陰で、擬似太陽照明と空調による風が吹き抜ける快適空間になった。

大抵の時間は、ここで読書をして過ごしている。


『司令官に残念なお知らせですが、平和はサービス終了いたしました』

「...そうか、状況は?」

『所属不明の艦隊が、こちらとクロトザク戦争跡を巡回しています』

「どこから来たんだ...?」

『目下、調査中です』


敵がどこから来たか分からないのはちょっと怖いな...

領域隠蔽ユニットに異常でも起きたか?


「クロトザク周辺には艦隊がいるはずだが、戦闘は?」

『奇妙なことに、スキャンすら飛ばしてきませんでした』

「うーむ...」


こういう時は、敵が何を求めているかから探るのが一番だ。

戦場跡を見回っているのならば、クロトザクとNoa-Tunの戦闘を察知して...残骸でも漁りに来たか?

いや、それなら長く戦場にとどまって残骸をサーチするはずだ。

何より、領域隠蔽ユニットを無視してこの星系に入って来れる技術力からして、Noa-Tunの技術を盗む必要は無さそうだ。


「敵の目的がわからない。今は観察に徹して、刺激を与えるな」

『分かりました』


しかし、事態は急展開を迎える。

まあ、予想通りというべきか.....


『司令官、B-02採掘艦隊が攻撃を受けました。敵は何らかの方法でワープを阻害しており、艦隊は逃げ場がありません』

「分かった、アコライトとアンブロシアとデヴァスターの混成艦隊を編成して向かわせろ、敵の総数は?」


俺は思った。

なんで毎度毎度採掘艦が襲われるのかと。

そりゃあ、SSCでは採掘艦隊なんてちゃんとした艦隊の前では餌にしか過ぎないが、ここまで的確に狙ってくるとはな。


『敵の総数は244、殆どが小型ドローンのような大きさですが、巡洋艦の標準火力を持っています』

「待て、戦力を再編成する。イシュタルとエクサシズムの混合艦隊で行こう」

『了解しました』


イシュタルとは、SSCで一番安い部類の中でも一番硬い船だ。

愛と美の女神の名前を冠してはいるが、西部劇で転がってるやつ(タンブルウィード)に例えられるその船体は美のかけらもない。


『では、司令官らしく』

「ゴホン......防衛艦隊、出撃!」


俺は声を張り上げて、指示を飛ばした。

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