039-油断の代償
『ホールドスター、戦闘モードに移行します』
戦闘指揮所の灯りが赤い非常灯へと変化し、外周リングが互いに合体してホールドスターを守る。
ホールドスターは戦闘要塞でもあるため、こうした防衛設備だけではなく――――
『超大型タレット、巡航ミサイル共に発射準備完了。大型ドローン発進準備完了』
攻撃設備も充実しているのだ。
「攻撃開始!!」
俺の指示と同時に。タレットがレーザーを放つ。
だが、それはラー・アークの直前で何かに阻まれ、最終的には消失する。
「シールドだと!?」
『敵戦艦の推定シールド残量、残り81%、分間2%で強度回復しています』
やっぱりあの船、拿捕したいな....
明らかに皇国の技術レベルではありえない船だ。
「だが、こちらには鉄壁のシールドがある。向こうの回復力を上回る火力で潰せばいい」
『敵戦艦、先端部にエネルギー集中』
「何だ...?」
俺が敵の意図を測りかねていると、戦艦の先端にある鋭角が輝きを放った。
直後に戦闘指揮所全体にアラームが鳴り響く。
『シールド出力が大幅に低下、強度ではなく出力が低下しています!』
「原因を調査しろ!」
『調査中です』
未知の兵器か...!
流石に出力を下げられると、ホールドスターの膨大なシールドも意味を成さない。
その瞬間、俺の中にとあるアイデアが閃いた。
「そうだ、あれを使えば...」
『ホールドスター、シールド消失!』
シールド消失のアラートが鳴り響き、直後に轟音と共に戦闘指揮所が激しく振動した。
「な、なんだ...!?」
『未知の砲撃を感知、アーマー耐久値が91%まで低下』
俺は外周リングのカメラから、ホールドスターの状態を見る。
土手っ腹に大穴が空き、そこから内部構造が露出している。
「そうか...超兵器まで搭載してるんだな...」
『ハハハハハ、どうした? ゴミのような力でイキがるからこうなるのだよ!』
お前こそ借り物の力で粋がってるだろ...
だが、これは好機だ。
わざわざザヴォートの力を披露する機会を相手がくれたのだ。
「ザヴォートのリペアシステムを起動せよ」
『了解。ザヴォートのリモートアーマーリペアタレット稼働』
直後、敵戦艦から見てホールドスターの右にあったザヴォートが、ホールドスターに謎のビームをぶっ放す。
『血迷ったか、自らを攻撃させるなど...何!?』
「そして、オーロラ!
『リペアの完了を確認、強化システムを起動します』
ホールドスターの下部から上部にかけて光が走る。
リーンフォースモードとは、戦争中においてシールドの消失した建造物が使える一時凌ぎの手段である。
要は、無敵アイテムを取ったアクションゲームの主人公みたいなものだ。
味方からの支援以外は全てを無力化し敵の前に立ちはだかる。
それがリーンフォースシステムだ。
『天誅!』
「悪いな、効かないぞ」
ラー・アークが超兵器を放つが、ホールドスターにダメージはない。
ただ、このままだとジリ貧だな...
敵のシールドを一瞬で抜ける手段があればいいんだが、こちらの戦力だとそれも難しい。
やはり今からでも戦力を呼び戻すべきか...?
『司令官、私にいい考えがあります』
「聞こう」
その時、スススッと寄ってきたオーロラが、どうせホログラフなのに俺の耳に口を近づけてきた。
戦闘指揮所は俺一人なんだがな。
『......実は、ゴニョゴニョ』
「(無駄に高度だな)」
ゴニョゴニョ言いながら、正面のモニターに提案内容が表示されていた。
確かに、遠隔戦力がない俺たちには、打ってつけの作戦か...
ルルはスーツを身につけて席に座る。
シートベルトを締め、耳を畳んでヘルメットを着用する。
マスクを装備し、言った。
「る...ルル、発進準備完了しました」
『よし、じゃあ操作を教えるぞ』
「はい!」
ルルは元気よく返事する。
『まずは、右のところにあるキー...取っ手を回せ』
「はい」
キーを回すと、ルルの背後で重低音が響き出す。
「できました」
『そしたら次は、操作だ。左の棒が減増速、右の棒で上昇と下降、左右への旋回ができる』
「...はい!」
『中央の画面に、機体の今の状態と簡易レーダーが出る、弾は機関が動いている限りは無限だが、積んでいる爆弾は一個だけだ、わかったか?』
「...やってみます」
ルルは内心とてもワクワクしていた。
それは、未知のものに対する幼稚なものではなく、やっとシンの役に立てるという純粋な胸の高鳴りであった。
ルルを乗せた戦闘機「スワロー・エッジ」は格納庫の床を離れ、スラスターを起動して加速し始める。
「私...飛べてる!?」
『では、任務開始だ。ビーコン......灯に従って格納庫から出て、事前の指示通り頑張ってくれ』
「...はいっ!」
スワロー・エッジは、スラスターから光の粒子を噴出させて加速し、宇宙空間へ飛び出したのであった。
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