040-乾坤一擲

宇宙空間に飛び出したルルは、戦場を俯瞰する。

自分たちの第二の家となった城は光り輝き、光の矢や無数の爆発する筒を飛ばして敵の船と戦っている。

しかし、敵の船は見えない壁を展開してそれらを防いでいて、戦況はあまり良いものではない。

だが。


「あのお方の妻になるのです、この程度...!」

『あ、私には聞こえていますよ』

「...ハイ」


ルルは一瞬萎むが、自分に追随するように飛んできたリペアドローンと共に戦場を飛翔する。

ルルとネムは、シンに結婚を申し込んだ。

けれど、シンは「今は婚姻だけにして、大人になってからまた自分の判断で決めるといい」とお茶を濁した。


「(きっと、私に魅力がないから...)」


ルルはそれを、そう解釈した。

魅力がないなら作ればいい。


「生きて帰って、必ず...!」


ルルはスワローエッジを上昇させ、ラー・アークの上を取る。

だが、上に出たスワローエッジはいい的だ。

あっという間に砲撃がシールドを掠め、コックピットにアラートが鳴り響く。


「あわわ...」

『ルル! 離脱しろ、SWDの起動ボタンは真ん中のコンソールの赤いボタンだ! 押すと緑に点灯する! 即座に離脱しろ!』

「は、はい!」


リペアドローンが散開し、スワローエッジは飛んできた砲撃をバレルロールでかわし、ラー・アークの周囲を旋回する。

ラー・アークからの砲撃は続いているが、亜光速で飛翔しているスワローエッジを捉えることはできない。


『ルル、落ち着いて聞いてくれ。この作戦は別に重要でもなんでもない。あの船と皇女を無事に捉えたいという、俺の個人的な願望でしかないからだ』

「ではそれを必ず完遂...」

『しなくていい。もし危ないと思ったら即座に離脱しろ』


スワローエッジの積んでいる兵器は、とても強力なものだ。

だがそれは、範囲外に逃げる事を怠ればスワローエッジそのものが危ないということと同じである。


「......」


ルルは黙ったまま、操縦桿についたボタンに指を触れる。

直進しかできない爆弾、それを確実に当てるには直線進入の軌道を取るしかない。

だがそれは、考えなしに撃たれに行っているようなものである。


「......シン様、お願いです。隙を...作ってくださいませんか?」


ルルは慎重に、自らの夫になる男へと問うた。

それを聞いたシンは...


「その言葉を待ってた。オーロラ、最終ドゥームズデイ兵器デバイス・OSSS発射準備!」

『Over Spark Surgical Strike発射準備、開始します』


ホールドスターの上部から、音叉のような建造物が姿を現す。

そして、膨大な電力がその建造物に集い、周辺からも見ることのできる雷球を形作る。


「撃て!」


OSSS...超収束直射電流波が放たれ、ラー・アークに直撃する。


『シールドを維持しろ! この程度の攻撃でラー・アークは落ちん!』


シールドが破られることはなかったが、ラー・アークの人員とセンサーは一瞬混乱する。

そこに、死角からスワローエッジが突っ込んできた。


「この一撃で......シン様に逆らった愚かさを知れ!!」


爆弾を射出したスワローエッジは、ブレイクし反対方向へ逃げ出す。


『こそこそと近づく卑怯者めが、あの戦闘機を撃て!!』


皇女は尻尾を巻いて逃げるスワローエッジに目が行っており、近づいてきていた爆弾に気が付かなかった。

そして、至近距離でそれが起爆する。


「な、なんだ!!?」

「で、電源消失! 外部と連絡が付きません! ....ダメだ、電子手鏡まで!」


スワローエッジが放ったのは、「Electron Neutralizing Bomb」.....電子中和ボム、ENBと呼ばれるボムの一種である。

相手のキャパシターを中和してゼロに限りなく近づけられる爆弾で、その代わりに爆発範囲がとても狭く、ボム自体の耐久値もとても低いのである。

暗闇に閉ざされた環境で、絶望する彼らの目に、更なる絶望が現れた。

ワープしてきた艦隊が、Noa-Tunの外周部に現れたのだ。


「馬鹿な、早すぎる!!」

「皇国軍相手に使えなかったのがひたすら悔しかったが....行け! オルタネーター、イニシエーター!!」


艦列を離れたオルタネーターがエネルギー中和装置を使い、ラー・アークの新たな生産分のエネルギーを中和し、甲板へと突貫したイニシエーターがラー・アークのシールドの消えた艦内に戦闘ボットを突入させた。


『.......勝ったぞ、ルル』

「....はい!」

『お前のお陰だ』

「........はい...ルル、帰投します!」


宇宙を飛翔するスワローエッジは、大きく宙返りしてNoa-Tunへと帰還した。


『怯むな! 怯...ええい、逃げるな! 私の命令が聞けないというのか!』


皇女は最後まで喚いていたが、エネルギー兵器に頼り切っていた皇国側は何もできず、ものの数分で降伏した。

こうして、対クロトザク戦線は完全に終焉を迎えたのであった。

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