014-星空の宮殿
それから数日が経った。
周辺の木々を潰しての、工場予定地作成を兼ねたバイオマス生産により、食糧は瞬く間に獣人達に行き渡った。
ちなみに、水の方はこちらの手持ちだ。
濾過装置が惑星の資源を必要とするため、工場ができるまでは安全な水を確保できない。
というわけで、Noa-Tunの潤沢な備蓄の一部を受け渡したのだ。
ナノマシンによる高速治療インジェクターも配布し、怪我をしたり病気で動けない者も治療する。
一部何故かインジェクターをもったいぶって使わない獣人もいたが、使わなければ回収するし、その場合治療は行わないと警告したら二度と起こらなくなった。
「さて、今日は会談の日だな...緊張する」
送られてくる人員は女性二人のようだ。
母親と妹以外の女性とまともに会話したことのない俺は、かつてない緊張感を覚えていた。
『艦隊総司令、緊張する必要はありません』
「いいや、人間、交渉する時は必死になるもんだ。特に俺の方から交渉を持ちかけたわけだしな」
オーロラはなぜか全てを見通すような雰囲気を出していたが、今回は俺も完璧な人間ではいられない。
デスクに腰掛け、俺は時を待った。
ネムとルルの二人は、空を駆ける巨艦の内部にて待機していた。
使いが来ると聞いて待っていたら、雲を裂き黄金の船が現れたのだ。
その船の名はグローリー級戦略指揮艦というが、二人にはわかるはずもなかった。
「お姉ちゃん、見て...」
「雲より高いところ...私たち、天の国に行くんだわ」
「天の国...?」
人間の伝承では、罪を犯した者は死後に虚無の国、得を積んだ者は遥か雲の先にあるという天の国へと行けるというものがあった。
ルルは素早くそれを判断して、自分たちがどんな栄誉な事を経験しているか理解した。
「ネム、私たち...星空の宮殿に招かれたのかもしれない」
「星空の宮殿?」
「数多の星が生まれる場所、みたい。死んだら天の国に行けるけど、星になったら宮殿には入れないって聞いたわ」
「じゃあ、すごい事なんだね!」
ルルは無邪気に喜ぶネムを見て、少しだけ憂鬱になる。
「(きっと星空の王は、私たちをお星様にするつもりなんだわ。生贄って言ったのは、お星様になる私たちが寂しくないようにって事よね)」
ルルとネムは先の戦いで父親を失った。
母も早くに死んだ今、二人を扶養する義務はない。
集落の中でも微妙な立ち位置の二人を生贄に捧げ、それで獣人達は罪悪感と共に安心を得たのだ。
「お、お姉ちゃん、あれ! あれ!」
「なっ...」
その時、ネムが大きな声を上げる。
ルルは顔を上げ、それを見た。
「大っきいお城...」
「信じられない...本当に星空の宮殿があるなんて...!」
ホールドスターは宮殿というよりは城塞なのだが、自分たちの住んでいた張りぼての城より大きな建物を見たことがない二人は、それが宮殿だと勘違いした。
二人を乗せた黄金の戦艦は、ホールドスターに接近する。
その時、ルルはホールドスターの周囲に浮かぶ、無数の船の残骸を視界に入れた。
「(まさか...!)」
ルルは気付いた。
何故獣神が助けに来なかったのか。
「ネム、私わかったわ、獣神様はもう...」
「どうして?」
「あれを見て、きっと大きな戦いがあったのよ、星空の軍勢が地上に降りてこられたのも、きっとその戦いが影響してるんだわ」
ルルは勘違いを加速させ、獣神らを率いた星空の王であるシンが、大激闘の末に敵を打ち破ったというストーリーを語る。
ネムはそれを、目を輝かせて聞いていた。
「きっと相手は悪い神様か何かよ、星空の王は私たちを守ってくれたの」
「すごいすごい!」
二人を乗せた戦艦は、ホールドスターの外縁部にドッキングする。
ホールドスターは全部で三つのリングを外縁部に建設しており、二番目のリングにグローリー級は着艦する。
『到着いたしました』
「なっ、何!?」
「お姉ちゃん、あの人.....凄くキレイ」
「ええ....」
急に現れたオーロラに、二人は身を寄せ合って怯える。
オーロラは、シンから見ては見慣れた姿だが、二人にとっては不気味なほど整った容姿を持つ神のような存在に見えた。
『私の名前はオーロラ。艦隊総司令――――星空を統べるに相応しき方に仕えている者です』
「あ.....あの!」
その時、ネムが叫ぶ。
『なんでしょうか?』
「私たち、お星様にされちゃうんですか...?」
『その話はどこからお聞きしましたか?』
オーロラは普通に聞いただけだったが、ルルの頭はそれを拡大解釈する。
「...私が話しました」
『事実とは異なります。あのお方はあなた達との会談を求めています』
「会談...? 外部の人と、会って相談したいと?」
その時、ルルの頭に電流が走った。
「(わかった。星空の王は私たちに問うつもりなんだわ、この星を壊してもいいのかって)」
星空の王は時折戯れに星を壊し創造し直すという話を聞いたことがあったルルは、会談の意味をより重く捉えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます